紅葉葵
画・江嵜 健一郎
二週間ぶりに例の更地にパトロールに出かけた。人と人にも縁があるが花と人との出会いにも縁がある。「今朝咲きましたのよ」と元気な顔で紅葉葵が出迎えてくれた。咲いた日に出会えるとはラッキーだ。絵心を大いに刺激されてスケッチを始めた。
いつものように構図を決めて一筆二筆鉛筆を走らせせていたところ、通りがかりのほぼ同年代と思ぼしき男性がフエンス越しに突然、声をかけて来た。
残暑厳しい日々がこちら神戸も続いている。出来るだけ長居は避けたい。ところが、なんと、かれこれ10分近い長談義となってしまった。
「絵を描いておられるんですか」の言葉のあと「この間、横尾忠則さんが、「徹子の部屋」に出てはりましたでしょ」と話し始めた。
「横尾さんとは古いんですよ。自分は神戸の小さな印刷屋してましたんや。横尾さんが神戸新聞社時代にデッサンの仕事をしていたころです。印刷の注文いただきに神戸新聞社へ通いました。奥さんになった人もよう知ってます。最近は変なおっさんが来たと、わしの顔見たら逃げはりますけどなあ。」と当方が聞きもしない話までエスカレートした。
「よその印刷屋は新しい機械をどんどん入れる。わしらのような小さな会社は入れられない。横尾さんの依頼についていけんようになりました。」そして「お宅はどうか知りませんが、学歴がないとあきませんなあ。」とポツリ。印象に残った。
「横尾さん、10億円もするビル建てはリましたんやで。なんでそんなこと出来るんですかなあ」との問いかけに、「横尾忠則さんといえば、今や世界的に有名な絵描きさん。外国人には特に人気が高い。簡単にビルを建てられるんとちがいますか。」と物知り顔にうっかり話したためもあり、中身は省略するが、話はその後も終わることなく続き、長談義となった次第である。
紅葉葵に戻す。今年は6月半ばから咲いている。紅葉葵と背中合わせに咲いているグロリオサもそろそろ仕舞い風呂の気配であるが、今年は特に長期間、道行く人を楽しませてくれているようで嬉しい限りである。
花を描いているといつも元気をもらえる。おじさんとの長談義もそれも又よし。収まる気配をみせないコロナ感染拡大に負けないよう免疫力を付けて乗り切りたい。
余談ながら9月30日から10月3日まで神戸市勤労会館7階大ホールで開かれる神戸市高齢者美術作品展にKOBEシニアクラブ事務局から正式に応募受付票が先週末届きほっとしている。(了)