桂文珍独演会:神戸酒心館
江嵜企画代表・Ken
桂文珍さんの独演会が神戸酒心館(078-841-1121)で5日、午後7時から
開かれ家族と出かけた。神戸はこの日生憎の雨だったが、200名を超える
熱心な文珍ファンで開演7時を待たずに満席となった。
前座にお弟子さんの桂うさぎ、内海英華さんの都都逸三味線を中にはさんで、
文珍さんによる古典落語2題を午後9時まで満喫した。このところ益々円熟
味を見せる文珍さんの芸が余りに群を抜いているので、前座のうさぎさんが
気の毒だった。
文珍さんの落語は本題に入る前の枕で、時事問題を巧みに入れる。つかみ
どころのない話という言葉があるが、文珍さんのそれはまるで逆。実に
つかみがうまい。
この日は阪神なんば線での車内の客が肴にされた。難波から御影まで
約40分、座っているだけで材料に事欠かない。ほとんどが携帯の話し
相手に夢中になっている。時々、動物的な声を出すと、物まねして
笑いをとる。
文珍さんほどの有名人だと電車でも目立って大変でしょうと、よく言はれ
ます。実はそうでもないのですよ、と言って、みなさん、わかりますか?
彼らはスマ―トフオンに目を奪われていますから周りが見えない。身振り
手振りで指でスマートフオンを跳ねるしぐさをして笑はせた。
最近のテレビ番組が益々軽薄になって来ていると突然、話題を変える。
景気が悪くなってきているからです、と言う。韓流ドラマが増えたことで
分かるんです。なぜでしょうかねぇ?と、問いかけ、それはねっ、韓国
では日本で作るよりはるかに安く作れるからなんですよ、とケロリと
言ってのける。
客のマナーがわるくなりましたねぇ、と話しを続ける。はじめから終り
まで喋りづめのおばさんがいる。突然、携帯の傘を床に落として音を
出した客がいた。即文珍さんは「傘でよかった!!首を落とさないよう
に注意してください」、とどきりとするような言葉でその場を収めた。
最近精神科のお医者さんが1000人集まる会合での講演を頼まれた。
どんな話しをすればいいのですかと聞いた。普通に喋ってもらったら
結構ですという。普通に喋ることが一番難しいということをその方は
ご存知ないとチクリと言った。
当の会場でさる人が話しかけて来たので応対していた。「これからお
注射よ」と言はれて看護婦さんに話していた相手が連れて行かれた。
実は患者さんだったとその時初めて分かった。考えてみれば怖い話である。
精神病患者が今日本で急増している。日本四大病に精神病が五番目
として追加された。おかしなひとが増えていることは薄々感じている。
精神科の話が出た時、会場が妙にしーんとした。身の回りにそれぞれ
思いあたるふしが結構あるからだろう。
肝腎の本題の話を書くスペースがなくなった。表向きなにごともなく
過ぎて行く日本だが、不景気が身の回りに忍びよってきていることと
おかしなひとが増えて来ていることだけは確かなことを文珍さんは
枕に使って教えてくれているような気がしてならない。(了)