思索の日記 (クリックで全体が表示されます)

武田康弘の思索の日記です。「恋知」の生を提唱し、実践しています。白樺教育館ホームと共に

品位が高く上質なこと、柳兼子と清瀬保二

2008-07-08 | 趣味
「民芸」思想と運動の中心者であった白樺派の柳宗悦の妻、兼子(かねこ)は、日本最高のアルト歌手でしたが、夫の宗悦を物心両面で支え続けた人でした。
当時の常識に反して学生時代からの恋愛による結婚でしたので、兼子は「不良」と目されました。
彼女は、
生活においても、
芸術においても、
天皇制の日本政府によって虐げられた朝鮮の人々との熱い交流においても、
まったく怯(ひる)むことなく闘う人でした。
しかし、というか、それゆえにというか、兼子の顔は、優しさと厳しさが両立し、品のよい美しさに満ちています。
歌も姿勢も筋が通り、実に上質です。
体制に寄り添い、集団に同調し、狭い得を追う「俗人」とは根本的に違います。
人間の品位が高いのです。

その兼子が、晩年に一番尊敬し、敬愛した作曲家が、清瀬保二(きよせやすじ)でした。
清瀬もまた、既存のいかなる組織や団体とも無縁で、白樺派に親近性をもち、独学で音楽を極め、その質において日本最高の作曲家と言われました。世界的に有名になった武満徹は彼の弟子ですが、音楽の健全な強さと品位の高さにおいては師である清瀬保二を越えることはなかった、とわたしは見ます。
清瀬氏は、音楽上でも政治上でもけっして権威、権力に屈せず、闘う人でした。彼の音楽は純粋な強さをもち、極めて品位の高いものです。その顔もまた優しさと厳しさが両立し、品のよい美しさに満ちています。

わたしが見る限り、権力や財力に頭を下げ、地位や肩書きを求める人には、ひとりとして美しい人・品のよい人はいません。ほんとうの上質とは、己の存在を凝視し、その存在を世界に開き賭けるところからしか生じないのでしょう。周囲に迎合せず、深い孤独を引き受ける潔(いさぎよ)さが、よき美しき上質を生むのだと思います。

なんとも嬉しいことに、清瀬保二のピアノ独奏曲全曲(「東北のわらべ歌」は一部カット)が先月発売されました。待望していたCDですが、演奏もまた素晴らしいものです。ここでもまた、ピアニストの花岡千春さんは「美しい人」として知られる人のようです。ぜひみなさん、お聴き下さい。http://www.hmv.co.jp/product/detail/2731334

以下は、HMVに書いたレビューです。
「健全な強さ、土着的にして洗練の極、その質において、おそらくは日本最高の音楽である清瀬作品は、しかし、権威からも、伝統からも、前衛からも離れた孤高の存在ゆえに、既存の音楽家が手に負えぬものとなっていた。ところが、予期せぬところから素晴らしいCDが出た。花岡千春さんに感謝だ。清瀬保二の最初のピアノ独奏曲の録音としては、この清く手堅い演奏は、とても貴重である。」 タケセン, 我孫子市


武田康弘
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする