わたしの実家は、千代田線の千駄木駅から団子坂を上っていくのですが、駅を出てすぐ、坂を上がる前にバック屋があります。団子坂の通りは舗道も狭くて引きがないために、ショーウインドウをゆっくり見ることができませんが、昨日、暖かくオシャレなディスプレイに惹かれて中に入ってみました。
手作り感覚の美しいバックが、一品づつ丁寧に置かれ、気持のよい空間です。
すぐ目に留まったのが、写真のカジュアルな手提げです。価格は13800円。
手作りでよく馴染む感じが一目で分かります。「よし、かみさんに買って行こう」と即決。お店にいたのは数分間でしたが、店主の落ち着いた応対とともに気持ちのよい時間でした。
帰ってかみさんに見せると、素的!と感激。
気になったので、紙袋にある「HumansB」という名をネットで検索してみました。夜中にホームページを見て、なるほど、と感心。
職人気質のオーナーはアメリカナイズを嫌い、バックが生まれたヨーロッパの歴史(とりわけ服飾史)を踏まえ、それを日本の生活と風土に合うように、との考え。「ヨーロッパのように職人気質に似たバック専門店を、自らの手で直接お客さまに販売していく事を趣旨に『HumansB』を設立したわけです」と書かれています。
「生活の立場に立った普通の商品を半歩先の感覚で提案する」をコンセプトに1996年4月に設立。バックを通して人と人との繋がりを大切にしていきたいとの願いで「HumansB」(Bはバックの略)と名付けた。モットーは、※流行に左右されない生活に密着する商品、※品質の高い作りでありながら納得できる価格、と記載されています。
お店は、港区麻布十番と文京区千駄木の二店で、センターテーブルにバックを置きじっくり見て買うスタイルなので、通販はしていないようです。
※柳宗悦の民芸の思想、用の美・「ふつう、自然、健康」こそ最高の価値という白樺スピリットと重なる考えと商品であり、応援したくなります。
武田康弘
ヒューマンズ ビィの代表者の方からメールを頂きましたが、
そこには、
「商品を始め店舗の考え方は、
恐らく以前勤めていた時に縁がありました益子の濱田庄司先生・晋作先生からの薫陶からと思います。・・・・」
と書かれていて、
うーーん、白樺精神・民芸思想が自ずと結ぶ深い縁だな~~となんともいえない嬉しさがこみあげました。
それで、以下のように返信しました。
「「益子の濱田庄司先生・晋作先生からの薫陶」
とは、驚きました。
優れた思想は深く人間の営みを支えるようですね。
ブログに載せたバッグの写真、親友の松岡信夫さんがつくったテーブルに載せ、後ろに花瓶を配して撮りましたが、その花瓶は、濱田晋作夫妻らが運営する益子参考館で買ったものです。あの大きな登り窯で焼いたもの。
柳宗悦、濱田庄司、河井 寛次郎らによる民藝思想・運動は、21世紀のいま新たな命を持つように思います。」
(一枚目の写真をクリックして見て下さい)
と返信しました。
プライベートな内容ではないので、全文をコピーして載せます。
「おはようございます
写真をアップし確認させて戴きました。
益子焼きの濱田家のものと思います。
浅草橋にある「プリンセストラヤ」という会社に16年前に退社し、現在に至るのですが、社内に「袋物参考館」なるバッグの博物館があります。その名は益子参考館から命名し、筆は晋作先生によるものです。当時はその設立に若干ながら係わりました。
晋作先生の父である庄司先生には会社の社是や思想的なもので随分とお世話になりました。それから久しいのですが、根底には庄司先生の考え方は社内に残っていると思います。
袋物参考館は一般開放していると思いますので、ネット等でご確認下さい。」
株式会社ヒューマンズ・ビィ
石田 徹
東京都港区麻布十番1丁目5-29.1F 〒106-0045:SHOP
Tel: 03-3470-0080 Fax: 03-3470-0081
E-Mail: info@humansb.co.jp
Hp: http://www.humansb.co.jp/
以下にコピーします。
石田徹様
「袋物参考館」、ネットで見ました。面白そうですので一度行ってみたいとおもいます。
それにしても、縁が深く、驚きです。
濱田晋作氏の奥様(映子さま)からは、7年前(2004年11月21日)に丁寧なおはがきを頂きました。わたしが送った短い文章へのお礼としてです。
最後の部分を写します。「庄司のこと 民芸のこと 時々 ご質問をいただきますが、これからは、武田様の言葉を参考にさせて頂きたく、一ト言御礼を申し上げます。」
わたしの言葉とは、以下の文章です。
民芸-あそび心 武田 康弘
無名の人が造る日用品の中にこそ真の美しさがある、という思想を提唱したのは柳宗悦です。その主張を表す「民芸」とは、柳が陶芸家の浜田庄司、河井寛次郎と共につくった言葉で、彼らは1925年から「民芸」運動を本格的に開始します。
「民芸」という考え方の中心は、「用の美」(実際に用いることの中に美はある)です。「用いる」ということを、意識化―自覚化することで、新しい世界を開いたのです。
自覚化することで、「用いる品々」は、通常の「芸術作品」を超える可能性を持ちました。個人の作家は、自我―個人性を表現する小さな世界から解放され、歴史の中で無意識のうちに積み重ねられてきた人間の生活に根ざす大きな普遍性の世界に通じる道を、この「民芸」という思想の中に見たのです。
『益子参考館』に見る浜田庄司の作品の大きさー深さは、自我を克服することの素晴らしさを教えます。自我の克服とは、自我の否定ではなく自我の解放です。解き放たれた心は、自然法爾=真の自由を得るのです。
「用いる」ということを、生活の中で追求していくとき、自ずと生じるのが、「遊び心」です。「用いる」ことを自覚したときに生じる「遊び心」は、生活の内側から湧き上がるほんものの「遊び心」です。人間の生を華やかせ、色づかせるものです。
民芸という思想が生み出す「遊び心」は、通常の「遊び心」ではなく、根のある「遊び心」、パワーを生み出す「遊び心」です。それは、克服された自我-解き放たれた心がつくる自由の世界、伸びやかで自然、愉悦の世界です。
「用いる」ことがそのまま「美のイデア」に結びつく至福=あそび。それが本来の「民芸」思想の真髄なのではないでしょうか。
「神様に遊ばせてもらっている」棟方志功
(2004年11月8日)