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「厳密にいえば、いわゆる義手というのは、手が、一本無くなったとか二本無くなったとかいう場合に、代わりにつけるのが義手である。拙者の発明のは、そうじゃない。二本の腕は、ちゃんと満足に揃っているが、その上にもう一本、機械的な腕をつけて、都合三本の腕を人間に持たせようというのだ。これまでに、世界のどこに人間に三本の腕を持たせようと考えたものがいるか。そんな話を聞いたことがない。公知文献があるなら、ここへ出してごらんなさい。そんなものは無いでしょうがね」
「なるほど、なるほど」
余は、ついにそういわなければならない羽目になった。
[…]
「頭に、第三の腕をとりつけるとは、まったく画期的なご発明ですなあ」
といえば、氏は、「なあに、その点は大したことはありませんよ。ほら、この動物をごらんなさい」
氏はいつだが持っていた動物図鑑を余の前に開いてみせた。氏の機械腕が指さした図を見るとそれは小さいときから余らになじみ深き象であった。
大発明のタネは、きわめて身辺に転がっているのだ。ただ、その人が、気がつかないだけのことである。
――海野十三「特許多腕人間方式」