「あなたは裁断を一度も習ったことがないの?」と、おかみがたずねた。
「いいえ、一度もありません」と、Kはいった。
「いったいあなたはなんなの!」
「土地測量技師です」
「いったいそれはなんなの?」
Kはそれを説明したが、その説明はおかみにあくびをさせるだけだった。
「あなたはほんとうのことをいわないのね、なぜほんとうのことをいわないんです?」
「あなただってほんとうのことをいいませんよ」
「わたしがですって? またそろそろあなたの厚かましい態度を見せるんですか。そして、たといわたしがほんとうのことをいわないとしたって――いったいわたしはあなたに対して弁解しなければならないんですか。でも、どんな点でわたしがあなたにほんとうのことをいわなかったんです?」
「あなたは自分でいっているようなおかみさんであるだけじゃないんですからね」
「なんですって! あなたはよく発見をする人ね! ではいったい、そのほかになんだっていうの? あなたの厚かましさはほんとうにもういよいよ大きくなっていくのね」
「あなたがそのほかのなんであるのか、私にはわかりません。私にわかっているのは、あなたがおかみさんであり、そのほかにあなたの着ている服は、宿屋のおかみさんにはふさわしくなく、また私の知っている限りではこの村ではだれもそんなのを着てはいないということだけです」
「それではわたしたちは話の本題へ入ったわけです。あなたはそれをいわないではいられないのね。あなたという人は、おそらく全然厚かましいのじゃなく、ただ、何かばかげたことを知っていて、どんなにいわれてもそのことを黙ってはいられない子供のようなものなんだわ。では、いいなさいな! この服のどこが変っているんです?」
「私がそれをいったら、あなたは怒りますよ」
「いいえ、それを笑うでしょうよ。きっと子供じみたおしゃべりなんでしょうから。で、この服はどんなだというんです?」
……カフカ「城」(原田義人訳)