今年は、とにかく校務によって思考も読書も分断されてめちゃくちゃであった。一応書いたと言えば書いたが、あまり読めなかったきがする。
1、島崎藤村『夜明け前』……やはりすごい作品であった。この作品を褒めていた亀井勝一郎をバカにしていた思春期のわたくしをひっぱたきたい。ただ、わたくしは、やはり藤村が木曽から世界を眺めているその視野の変容が気に掛かり、そもそもかれにその視野が失われているかも知れないという想定ができない。やはり同郷人は不利である。
2、有朋堂版『絵本西遊記』……ゼミ生の卒論のために読んだ。我々がこれを名文と感じるのはなぜか。これは難しい問いだが、それ以前に、この作品にある語彙を失ったのがわれわれにとって決定的に深刻である。
3、『寺田寅彦「線香花火」「金平糖」を読む』……書評のために読んだ。同門の研究者が関わっている本で、けっこう面白かった。ほんと文理融合とかいっている権力意志の輩はこういうのをちゃんと読め、そして調子に乗るなと言いたい。
4、五味渕典継『〈敗け方〉の問題』……これも書評のために読んだ。さすがに上手な書き方であった。問題を分割して攻め込んでゆくのがうまい研究者というのがいて、氏はその典型であるが、ほんとの長所はそこではなく率直さなのである。
5、『書経』、『詩経』……よくわからなかった。やっぱりこれぐらい暗誦しなければならぬのか。
6、『好色一代女』……文才とはかかるものを言うのかとおもわれる。むかし、ピンク映画が映画監督の登竜門であった時代があったが、これには何か意味があるのではないだろうか。芥川龍之介賞をとったひとたちの受賞第一作はピンク小説を書けとかそういうことにすればいかがであろうか。そのまえに、ピンク映画もびっくりな場面がある小説が受賞することがあるから無理か。。。
7、中沢新一『精神の考古学』……横道誠氏の仕事とかも考慮すると、これからクルのは、こういう精神を考古学的に掘って行くような仕事ではないかと思われる。ほとんどの書き手は立ち往生する。
8、大塚英志『二層文学論』……大塚英志を唯物論者として追い込んでいる世の中はどうかと思う。この人は本来、そういう役回りの人ではない。
9、『チ。――地球の運動について――』……NHKでアニメーションが始まったが、これは良い作品であったと思う。ただ、この作品を褒めてよいのは、ブルクハルトとか花★清輝みたいなひとであろう。
10、村上春樹『羊をめぐる冒険』……村上春樹が読まれるのはこれからだと思う。すくなくとも私にとってはそうである。いままでは、とにかく精神に喧嘩を売られているような気しかしなかったのであるが、これは村上春樹の「大衆化路線」でありオルグであると回することができるようになってから読み方が変わった。
あとは、授業で短歌を扱ったから、短歌関係の資料をけっこう読んだが、パーツが一部埋まった感想以外はまだない。来年は、今年の十倍は読む必要がある。