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★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

見上げれば黒

2015-05-20 18:41:12 | 大学


確かに、使えなくなった頭で新機軸を打ち出そうとする幹部たちの会議こそを公表すべきであろう。しかし、頭の悪さを可視化することはなかなか難しいのである。漫画の世界を見ればよい。ヒーローはだいたい救いがたい馬鹿ではないか。公表しても、あまりにあっけない内容に驚くばかりであろう。悪は分かりやすく正論のように見えるというのが、大人の常識だったはずではなかろうか。だから、苦笑ではなく、「確かにわかりますが」といった日和った口調を身につけてしまった我々が悪い。……いや、また日和ってしまいました……

格子戸の鈴が、妙な音に

2015-05-19 23:31:42 | 文学


 秋雨のうすく降る夕方だつた。格子戸の鈴が、妙な音に、つぶれて響いてゐるので、私はペンをおいて立つた。
 臺所では、お米を磨といでゐる女中が、はやり唄をうたつて夢中だ。湯殿では、ザアザア水音をさせて、箒をつかひながら、これも元氣な聲で、まけずに郷土くにの唄をうたつてゐる。私は細目に、玄關の障子をあけてみた。
「冬子は見えてをりませうか?」
 洋服で、骨の折れた傘を、半開きに、かしげてゐた。

――長谷川時雨「傘」

雨は闇の底から蕭々と

2015-05-18 23:45:04 | 文学


 極楽水はいやに陰気なところである。近頃は両側へ長家が建ったので昔ほど淋しくはないが、その長家が左右共闃然として空家のように見えるのは余り気持のいいものではない。貧民に活動はつき物である。働いておらぬ貧民は、貧民たる本性を遺失して生きたものとは認められぬ。余が通り抜ける極楽水の貧民は打てども蘇み返える景色なきまでに静かである。――実際死んでいるのだろう。ポツリポツリと雨はようやく濃かになる。傘を持って来なかった、ことによると帰るまでにはずぶ濡れになるわいと舌打をしながら空を仰ぐ。雨は闇の底から蕭々と降る、容易に晴れそうにもない。

――夏目漱石「琴のそら音」

大阪を都と呼びたいだけちゃうんかと……それならどうぞ……でもやっぱだめ

2015-05-17 19:35:53 | ニュース


市や県が無駄なことをやっている時というのは、だいたい国のバカプラン(ぽんちえ付き)を実現しようと思って無理をする時である。即ち、バカがトップに立つほど、無駄な仕事が増え、部下の意識的無意識的にボイコットが増え、それゆえバカトップはいらつき、人を取っ替えようとする。なかには、部下の中には出世を本気に望んでいる変態も居るから事態は複雑であるが……。まあ、上意下達が「見える化」(笑)しているような組織や国がまともじゃないことぐらい小学生でも知ってるわ。

そもそも、国や上司の言うことに従わなくてはならないという考えが、ある特殊なものに過ぎないではないか。

(附記)
どうやら、都構想の住民投票は反対派が勝ったようである。橋下氏も任期が終わったら政治家を辞めるらしい。問題はこれからである。おそらく、本当の問題は橋下氏にも都構想そのものにもないのであろう。いったい大阪では何が起こっていたのであろう?

恋した 書いた 祈った 寂聴

2015-05-14 23:28:46 | 文学


「やらせ」だ何だとどうでもいいことで騒がれている「クローズアップ現代」であるが、今日はまだまだ生きてる【生き】瀬戸内寂聴【仏】さんの登場であった。

だいたい、テレビ自体が「やらせ」みたいなもんだが、瀬戸内寂聴は、「やらせ」というか、若い頃色的な意味で「やり過ぎた」人であった。「やりすぎ」ると逆に出家する資格が生まれるのは当然だ。対して、いまのテレビやネットは、在家信者が毎日密かに破戒をしているようなレベルで、どうせのたれ死以外の結末は待っていない。九三歳の寂聴さん、見た限りでは、どうみても悟ったようにはみえず、「ヤってないと色っぽくなるのよ」と放言する始末。これは、一日中ネットに張り付いている破戒坊主へのオマージュとみた。とにかく、能力もないくせに真実追究とかしてみてもだめであるから、いちど「やらせ」まくってはいかがであろう。最近、テレビを見始めたわたくしから見ても、いつも日和りまくっている「クローズアップ現代」とふさげまくっている「アメトーク」と、双方、真実度は同じようなもんではないか。

いまや、リアリズムの世界は、「いままでもいっぱい殉職してたよ、みんな気付かなかったの?」というような発言こそがそれを支えているから、大丈夫だ。

寂聴さんは「若い人の存在意義は恋と革命しかない」(たしかそんな感じ)と言っていたが、確かに、それしかないであろう。とりあえず、成仏の為には、ヤるしかないのだ。中途半端に人の為につくしたり、同盟国の為にボランティアとかやったりしても、成仏しないで顕彰機関に収納されたりするばかりだ。しかし、確かに現世に留まり続けて、子孫を脅しつづけるのも悪くないかもしれない。というのも……

寂聴さんの最新作ポルノ「どりーむ・きゃっちゃー」(←だいたい、この題名何とかしてよ)によれば、成仏すると、極楽でいままでの男どもとダンスをヤれるらしいからだ。結局、現世でヤってないと、来世でもヤれないという、なんというありがたいお言葉であろう。成仏してもコミュ力が問題になるって、まさに世界は地獄である。


だぶりと動く

2015-05-13 23:37:51 | 文学


 私は十銭の木戸銭を払って猛然と小屋の中に突入し勢いあまって小屋の奥の荒むしろの壁を突き破り裏の田圃へ出てしまった。また引きかえし、荒むしろを掻きわけて小屋へはいり、見た、小屋の中央に一坪ほどの水たまりがあって、その水たまりは赤く濁って、時々水がだぶりと動く。一坪くらいの小さい水たまりに一丈の霊物がいるというのは、ちょっと不審であったが、併し霊物も身をねじ曲げて、旅の空の不自由を忍んでいるのかも知れない。正確に一丈は無くとも、伯耆国淀江村のあの有名な山椒魚だとすると、どうしたって七尺、あるいは八尺くらいはあるであろう。とにかくあの淀江村の山椒魚は、世界の学界に於いても有名なものなのである。知る人ぞ知る、である。文献にちゃんと記載されてあるのだ。

――太宰治「黄村先生言行録」