わが主は悲しんでいた…

神には感情というものがあるのだろうか？

僕が考えることも、感情というものも、どうにかなってしまった、あの時のこと…
僕はこのまま戻れなくなってしまう…戻りたい！
そう、あの見えざる導師、わが主に内なる声で訴えた…すると…
急速に周りの全てが泣いているように感じた
悲しみが僕の全てを覆い包んだ
この悲しみ…それは言い表すことの出来ない、それまで全く味わったことの無いものだった…
ネガティブな感情などでは無い…ただ悲しみそのものとしか言いようの無いものだった
それは愛と一つのもののようだった
そして…我が主はこう告げていたように感じた

”お前は私から離れようとしているのか…”

”ち、違うよ！…そんなことある訳ないじゃないか！
僕はあなたから離れる事なんて出来やしないんだ！…そう、あなたは僕に知らせてくれたんじゃないか！”
それとも…
この示しは、僕が戻った時のことを見越しているのだろうか？
僕はきっとまたあの終わりなき日常に飲み込まれちまう事だろう…
僕はまたこの世の流儀に屈服させられるだろうか？
そして、またフタ閉めという、罪なことを始めるだろうか？
何しろ、僕は高熱に浮かされていたんだ…
幻覚症状だったのかもしれない…
意識障害…エンドルフィン？
（ああ、偉大なるかな！　脳内物質！…あなたを誉めまつらん！）
疑うことすら出来ない、受け入れるしかないリアリティ…
この世のどんな現実も、あの幻覚からは味わえない…
この世の信じられる神、語られる神など、みなプラスチック製に思える…！
それでも、この世の流儀に従い、僕は救い難い、”否定”をやってのけることだって出来た…
実際、表向きの封印らしきことはやってみたが…
だが…僕には忘れることが出来なかった
この身にずっと染み込んでいたのだ…これはひょっとして主の契りの印なのだろうか？

”わが主は悲しんでいた…”

あの悲しみにあって僕にはどうしても打ち消すことの出来ないものが残った
僕はもはやあなたから離れられない…
あなたが離さないように…