今、私の目の前には、半分生きていて、半分死んでいるような、つまり仮死状態の怪物ーいや、どうしても私には一人の人格を持った人間と呼びたい念を捨てきれないのだがーが横たわっている。
偉大な科学者であった父の遺産を受け継ぐべく、この寒村へやってきたのだが、本当の遺産とはどうやら"これ"だったようだ。
そして父の意思は、"世にもおぞましい怪物を造った男"という汚名を、その研究の改良によって、晴らして欲しいということにあったようなのだ。
しかし、この怪物が目覚めた時、それはこの寒村に悪夢の再現をもたらすことになるという一抹の不安も過る...怪物の覚醒、それは善か悪か...その答えは数分後に明らかになるだろう...
すべては、あの優秀ではあるが、その背骨と同様、心の捻れた助手イゴールの手違いから始まった。
こともあろうに、優生者の脳と異常者の脳とを取り違えてしまったのだ。
そして父たちは、又取り返しのつかない手違いを犯してしまう...まともな人格を備えているか、どうかも分からない怪物を父、フランケンシュタインの城の外へ逃がしてしまったのだ。
おそらくは、自分が何のために生きているのか分からない人造人間と、生きることに懸命で、当たり前のことながら死にたくない人間たちとの遭遇は、お互い思い描いていることを超えた事態を引き起こし、次々と悲劇を生んだ。
そして恐怖と憎悪に取りつかれ、ヒートした村人たちは、ついに怪物を城に追い込み、数発のダイナマイトで、城もろとも吹っ飛ばしてしまった...と誰しもが思ったのだが...
しかし、その瓦礫と化した城から、その怪物の死体は、その"部品"ですらも発見されなかったのである。
ことの真相は、秘密の地下室に潜んでいたイゴールが、崩れたブロック壁の下敷きになって息絶え絶えの怪物をそこに引き入れ、隠していたのだ。
やがて、父フランケンシュタイン博士は、世にもおぞましい怪物を世に出してしまった苦悩、連続殺人に荷担したことによる罪責を問われたことに疲れ、有罪判決を受けてすぐ、実刑をみないうちに病死。イゴールだけ縛り首となる...
しかし、彼も又怪物だった...。背骨ばかりか首までねじ曲げられても、尚生きていたのである。"死刑執行は二度は行われない"という決まりにより恩赦となった。
そして、いつしか村中に"怪物はまだ生きている"という噂が広まり出したのである。
というのも、博士やイゴールに対して有罪の主張をした陪審員たちが次々と姿を消してゆく、という怪事件が起こったからである。
あの怪物と同じく死体はどこにも見つからなかった。
この謎の答えは、廃墟と化した城の傍らで、グツグツと煮えたぎる硫黄泉にあった。
復讐の念に憑かれたイゴールが、陪審員たちを手に掛け、完全犯罪を目論んで遺体をこの"ゲヘンナの火"に投げ込んでいたのである。彼は又、まだ怪物への恐怖心が覚めきっていない村人たちに、さも怪物はまだ生きているかのように思わせ、彼に罪を着せようと、有ること無きことを吹き込んでいたのだった。
400度に達するという、その硫黄の熱では骨まで溶けて跡形も残らないだろう。
しかし、誰しもすべてを見透すお天道様の目が光っているもの...イゴールの最後の犯行は、正にその証拠隠滅のため、曲がった肩に遺体をかついで、熱い蒸気の立ち込める方に向かっているところを、この村に来て間もない私によって目撃されてしまったのだ。怪人イゴールに再び"縛り首の奇跡"は、起こらなかった...
この不気味な復讐鬼の犯行を暴いたという評判のお陰で、私に着せられた"怪物を造った男の息子"、という村民が抱いている悪いイメージは大分払拭されたようだ。
そして今、秘密の地下室で、このものを言わぬ怪物と向き合っている訳である。
私には、この怪物がそう呼ばれない、人格を備えた一人間とみなされるようになる、という自信がいささかある。
それは亡き父が真っ先に対処すべきことだったはずである。
それは肝心の脳の再移植である。そして今度こそは上手く行くはずだ。紛れもない、そんじゃそこらじゃお目にかかれない天才の脳みそと移し代えたのである。
そしてもう"フランケンシュタインは、怪物の代名詞"とは、二度と言わせないつもりだ。
その脳こそは、父フランケンシュタイン博士その人のものなのだから...
(続)
偉大な科学者であった父の遺産を受け継ぐべく、この寒村へやってきたのだが、本当の遺産とはどうやら"これ"だったようだ。
そして父の意思は、"世にもおぞましい怪物を造った男"という汚名を、その研究の改良によって、晴らして欲しいということにあったようなのだ。
しかし、この怪物が目覚めた時、それはこの寒村に悪夢の再現をもたらすことになるという一抹の不安も過る...怪物の覚醒、それは善か悪か...その答えは数分後に明らかになるだろう...
すべては、あの優秀ではあるが、その背骨と同様、心の捻れた助手イゴールの手違いから始まった。
こともあろうに、優生者の脳と異常者の脳とを取り違えてしまったのだ。
そして父たちは、又取り返しのつかない手違いを犯してしまう...まともな人格を備えているか、どうかも分からない怪物を父、フランケンシュタインの城の外へ逃がしてしまったのだ。
おそらくは、自分が何のために生きているのか分からない人造人間と、生きることに懸命で、当たり前のことながら死にたくない人間たちとの遭遇は、お互い思い描いていることを超えた事態を引き起こし、次々と悲劇を生んだ。
そして恐怖と憎悪に取りつかれ、ヒートした村人たちは、ついに怪物を城に追い込み、数発のダイナマイトで、城もろとも吹っ飛ばしてしまった...と誰しもが思ったのだが...
しかし、その瓦礫と化した城から、その怪物の死体は、その"部品"ですらも発見されなかったのである。
ことの真相は、秘密の地下室に潜んでいたイゴールが、崩れたブロック壁の下敷きになって息絶え絶えの怪物をそこに引き入れ、隠していたのだ。
やがて、父フランケンシュタイン博士は、世にもおぞましい怪物を世に出してしまった苦悩、連続殺人に荷担したことによる罪責を問われたことに疲れ、有罪判決を受けてすぐ、実刑をみないうちに病死。イゴールだけ縛り首となる...
しかし、彼も又怪物だった...。背骨ばかりか首までねじ曲げられても、尚生きていたのである。"死刑執行は二度は行われない"という決まりにより恩赦となった。
そして、いつしか村中に"怪物はまだ生きている"という噂が広まり出したのである。
というのも、博士やイゴールに対して有罪の主張をした陪審員たちが次々と姿を消してゆく、という怪事件が起こったからである。
あの怪物と同じく死体はどこにも見つからなかった。
この謎の答えは、廃墟と化した城の傍らで、グツグツと煮えたぎる硫黄泉にあった。
復讐の念に憑かれたイゴールが、陪審員たちを手に掛け、完全犯罪を目論んで遺体をこの"ゲヘンナの火"に投げ込んでいたのである。彼は又、まだ怪物への恐怖心が覚めきっていない村人たちに、さも怪物はまだ生きているかのように思わせ、彼に罪を着せようと、有ること無きことを吹き込んでいたのだった。
400度に達するという、その硫黄の熱では骨まで溶けて跡形も残らないだろう。
しかし、誰しもすべてを見透すお天道様の目が光っているもの...イゴールの最後の犯行は、正にその証拠隠滅のため、曲がった肩に遺体をかついで、熱い蒸気の立ち込める方に向かっているところを、この村に来て間もない私によって目撃されてしまったのだ。怪人イゴールに再び"縛り首の奇跡"は、起こらなかった...
この不気味な復讐鬼の犯行を暴いたという評判のお陰で、私に着せられた"怪物を造った男の息子"、という村民が抱いている悪いイメージは大分払拭されたようだ。
そして今、秘密の地下室で、このものを言わぬ怪物と向き合っている訳である。
私には、この怪物がそう呼ばれない、人格を備えた一人間とみなされるようになる、という自信がいささかある。
それは亡き父が真っ先に対処すべきことだったはずである。
それは肝心の脳の再移植である。そして今度こそは上手く行くはずだ。紛れもない、そんじゃそこらじゃお目にかかれない天才の脳みそと移し代えたのである。
そしてもう"フランケンシュタインは、怪物の代名詞"とは、二度と言わせないつもりだ。
その脳こそは、父フランケンシュタイン博士その人のものなのだから...
(続)