無償化で学校の選択肢は増えるのか? 成否は“授業料以外の部分”で決まるとの研究も 中室牧子氏と考える制度設計

高校の授業料無償化をめぐり3党が合意し、私立高校を対象とする支援金の所得制限を撤廃するとともに支援金の上限額を引き上げる方針となった。
【映像】授業料、通学費…一番お金がかかるのは?(円グラフ)
授業料無償化のメリット・デメリットなどについて、教育経済学を専門とする慶應義塾大学の中室牧子教授に聞いた。
まず、中室教授は「『目的』が一番気になる。教育費の負担が重いため現役世代の子どもを持つ親の教育費負担を減らしたいというのが一番大きい目的なのだと思う。だが、これをすることによって本当に親の教育費負担が減るのかはかねてから疑問だ。比較的所得の高い方の世帯で授業料の減免が行われると、そういう世帯は、 “浮いたお金”を塾や他の習い事に回すのではないかと思う。名門校への進学のパイは限られているため、そこで競争に勝たねばならないと考える親が、浮いたお金を教育費にもっと回すことで、結局家計の負担が減らないということが起きないか」と懸念を示した。
「無償化になれば子どもの選択肢が増える」

文科省の「子供の学習費調査」で学校教育費の内訳を見ていくと、「通学関係費」など、授業料以外の負担も大きいことがわかる。
中室教授は「授業料の無償化が経済学的にどういう意味があるのかというと、家計に資金制約があって子どもが望む教育を受けられない場合に、補助金によって望む教育が受けられる、ということだ。高校に限らず、無償化になれば子どもにとってみれば選択肢が増えるということが分かっている。進学先が変わる、あるいは進学しないと思っていた人が進学するなど、良い影響は確実にある。だが、この無償化の成否は、実は授業料だけではなく、“それ以外の部分”に補助があるかどうかによって決まるという研究もある。通学関係費の割合も大きいことを考えると、例えば『通学費の補助をせず、本当に授業料を無償化するだけで子どもの選択肢が増えるのか』ということは考えなければならない。これから無償化の制度設計をしていくうえで、授業料だけでよいのかという議論は出てくるのでは」と述べた。
「学校外活動費」はほぼ塾?

文部科学省の「子供の学習費調査」の「高校生(全日制)の学校外活動費」を見ると、ほとんどが補助学習費、つまり塾などということがわかる。
これに対し中室教授は「私立に行ったからといって塾に行かないということではないし、公立の3年生の場合、塾などの補助学習費とそれ以外を合わせて年間30万円も払っている。この負担は決して無視できるようなものではない。そもそもなぜ公立学校に通わせている人たちがこんなにも高い塾代を払うのかと考えると、やはり『公教育だけでは受験に不十分だ』と親が考えているということ。私はこの無償化に反対するわけではないが、王道はやはり公教育にしっかりと投資して、そして塾に行かなくてもちゃんと子どもたちの能力が伸ばせる状況を作ることの方が、本当は優先順位が高いと思う」と述べた。
(『ABEMAヒルズ』より)