ベートーヴェンのオーケストラ作品と言えばまずは名作揃いの交響曲群、次いでヴァイオリン協奏曲と5曲のピアノ協奏曲が思い浮かびます。ただ、それ以外にもベートーヴェンは戯曲やバレエ、オペラ等の音楽も書いており、ことにそれぞれの序曲は今でも演奏される機会が多いようです。しかしながら、それら序曲は交響曲のCDにおまけのような形で収録されていることが多いため、ついつい聴き流しがちです。かく言う私も「エグモント」「レオノーレ」「フィデリオ」はだいぶ前からCDで持っていたのですが、メインの交響曲の方ばかり聴いてじっくり耳を傾けていませんでした。
もちろん楽聖ベートーヴェンたるもの、序曲といえども駄作があるはずはなく、いざ腰を据えて聴くと完成度の高い名曲ばかりというのがわかります。特に「コリオラン」「レオノーレ」、「エグモント」「フィデリオ」が素晴らしいですね。どことなく「運命」第1楽章を思わせる勇壮な「コリオラン」、静から動へのドラマチックな展開が見事な「レオノーレ」、重々しいへ短調から終盤に爆発的盛り上がりを見せるる「エグモント」、天国的な明るさとベートーヴェンらしい勇壮さが見事に同居した「フィデリオ」。4曲ともベートーヴェンが最も創作意欲に満ちあふれていた30代半ばから40代半ばの間の作品であり、この間に「英雄」「運命」「田園」「皇帝」などの名作が残されたことを考えると、序曲と言えども傑作ぞろいなのがうなずけます。上記に比べればマイナーですが「プロメテウスの創造物」「アテネの廃墟」も充実の出来栄えです。
CDはダニエル・ハーディング指揮ドイツ・カンマーフィルハーモニーのものを買いました。ベートーヴェンの序曲集と言えば、カラヤン、ヨッフム、アバド、アーノンクール、レーグナーと新旧の名指揮者のCDが揃っていますが、本盤は1999年録音と比較的新しいもの。ハーディングは録音当時24歳(!)ですが、実に成熟した素晴らしい演奏を聴かせてくれます。小編成の室内オーケストラとは思えない見事なアンサンブルが圧巻です。