本日は謎のフリューゲルホルン奏者ウィルバー・ハーデンを取り上げたいと思います。フリューゲルホルンはトランペットを一回り大きくした楽器で、トランペットに比べてソフトで温もりのある音が出るのが特徴です。ジャズの世界では60年代以降にアート・ファーマーが愛用したことでよく知られています。他にはマイルスやチェット・ベイカーも作品によって使用していますが、ハードバップ期にフリューゲルホルンを主楽器にしていたのはこのハーデンぐらいでしょうか?
さてこのハーデン、リーダー作はサヴォイに4枚あるのみで、サイドマンの作品も数えるほどしかないマイナーアーティストなのですが、なぜかジョン・コルトレーンとの関係が深いことで知られています。本作「メインストリーム1958」をはじめ、「ジャズ・ウェイ・アウト」「タンガニーカ・ストラット」の3作品でコルトレーンと共演。一方、同時期に吹き込まれたコルトレーンのリーダー作(「スタンダード・コルトレーン」「スターダスト」「バイーア」)にはお返しとばかりにハーデンがサイドマンとして参加しています。どういう交友関係だったのか分かりませんが、一時的にせよ強いパートナーシップを築いていたようです。本作「メインストリーム1958」はコルトレーンの参加だけでなく、他のメンバーも豪華でトミー・フラナガン(ピアノ)、ダグ・ワトキンス(ベース)、ルイス・ヘイズ(ドラム)のデトロイトトリオがリズムセクションを努めています。ジャケットには特にリーダーの記載はないのでこの時期よくあるリーダー不在のオールスターセッションととらえることもできますが、収録曲全5曲をハーデンが作曲しているためやはり彼の作品として扱うのがフェアと思います。
曲は全てミディアムテンポのハードバップ。アップテンポもバラードもなく、どれも似たような感じと言われればそうですが、リラックスした雰囲気の中で快適な演奏が繰り広げられます。注目のハーデンのソロはフリューゲルホルンの音の特徴を活かした伸びやかなトーンです。一方のコルトレーンは一発で彼とわかる独特の"シーツ・オヴ・サウンド"で吹きまくります。一見全く異なるスタイルの2人ですが、聴いていてそんなに違和感はないですね。私のフェイバリット・ピアニストであるトミー・フラナガンもいつもながら素晴らしい。的確なバッキングでフロントの2人を盛り立てるだけでなく、ソロに回った時はいつもの玉を転がすようなタッチで華麗なソロを紡いでいきます。全5曲、どれも平均点以上の出来ですが、おススメはメランコリックな旋律が印象的な"West 42nd St."、ラテンリズムの"E.F.F.P.H"(何かの頭文字?)、3分にわたるフラナガンの素晴らしいソロが堪能できる”Snuffy"でしょうか?結局、ハーデンとコルトレーンの蜜月関係は1年も経たずに終わり、ジャズジャイアントの道を突き進むコルトレーンを傍目にハーデンはひっそりとシーンから姿を消します。その後1969年に44歳で亡くなったそうですが、晩年のことはよくわかっていないようです。
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