本日はモダンジャズを代表するベース奏者ポール・チェンバースのブルーノート盤を取り上げたいと思います。チェンバースについてはリーダー作をご紹介するのは本ブログでは初めてですが、サイドマンとしてはこれまで数えきれないほど取り上げてきました。特に50年代のハードバップシーンにおけるチェンバースの活躍は群を抜いており、ジャズ名盤の中にも実はチェンバースがベースを弾いている作品がたくさんあります。一番有名なのは50年代半ばのマイルス・デイヴィス・クインテットですが、それ以外にもざっと挙げただけでもコルトレーン、ロリンズ、ジョニー・グリフィン、ハンク・モブレー、デクスター・ゴードン、ベニー・ゴルソン、スタンリー・タレンタイン、キャノンボール・アダレイ、ジャッキー・マクリーン、リー・モーガン、フレディ・ハバード、ドナルド・バード、ケニー・ドーハム、J・J・ジョンソン、カーティス・フラー、ウェス・モンゴメリー、ケニー・バレル、セロニアス・モンク、バド・パウエル、レッド・ガーランド、ソニー・クラーク、ウィントン・ケリー、ケニー・ドリュー、ミルト・ジャクソン、さらには西海岸のチェット・ベイカーやアート・ペッパーの作品にもサイドマンとして参加しています。チェンバースの出演した作品を聴くだけでハードバップの概要がわかると言っても過言ではないでしょうね。残念ながら1969年に33歳の若さで病死したため、活動期間は長くないですが、チェンバース自身はモードやフリージャズ等60年代以降の新しいジャズにはあまり興味がなく、活躍の機会も減っていたので短くも燃え尽きた一生だったのかもしれません。
本作「ポール・チェンバース・クインテット」は「ウィムズ・オヴ・チェンバース」「ベース・オン・トップ」と並ぶブルーノート3部作の1つです。そもそもベーシストでありながら天下のブルーノートに3枚もリーダー作を残している時点でチェンバースがいかに傑出した存在だったかがよくわかります。録音年月日は1957年5月19日、メンバーはドナルド・バード(トランペット)、クリフ・ジョーダン(テナー)、トミー・フラナガン(ピアノ)、エルヴィン・ジョーンズ(ドラム)とさすがブルーノートと言った豪華メンバーです。ちなみにジョーダン以外は全員デトロイト出身でこの時期よくあったデトロイト・セッションの1つとも言えます。
1曲目はベニー・ゴルソンの"Minor Run-Down"。冒頭から2分間にわたってチェンバースがピチカートでソロを取り、その後ジョーダン→バード→フラナガンと続きます。2曲目はチェンバースの自作曲”The Hand Of Love"。思わず歌詞を付けて歌いたくなるような魅力的な旋律を持った曲です。チェンバースのピチカートの後、フラナガンの目の覚めるようなソロを挟み、ジョーダン、バードも卓越したプレイを聴かせます。ズバリ名曲・名演と言って良いでしょう。3曲目は定番スタンダードの”Softly, As In A Morning Sunrise”(朝日のようにさわやかに)。ここではホーン陣がお休みで途中でフラナガンが短いソロを挟む以外はチェンバースの独壇場です。4曲目”Four Strings"は再びゴルソン作となっていますが、実は同時期に吹き込まれたミルト・ジャクソンの「バグス&フルート」収録の”Midget Rod"とほぼ同じ曲です。そちらはミルトの自作曲とされているのですが、一体どちらがオリジナルなんでしょうか?演奏の方ですが、チェンバースがここではアルコ(弓弾き)でソロを取っています。ただ、個人的にはアルコのギコギコした音はあまり好きではないんですよね。ジョーダン→バード→フラナガンのソロは素晴らしいです。”What's New"は再び定番スタンダードですが、この曲ではチェンバースも短いソロを取るものの、ドナルド・バードのブリリアントなトランペットが主役ですね。ラストの"Beauteous"は再びチェンバースの自作曲ですが、この曲も香り高き良質のハードバップで、全員が軽快にソロをリレーしていきます。”The Hands Of Love"と言いこの曲と言い、チェンバースの作曲センスの高さに驚かされます。以上、チェンバースのベースソロが十二分に堪能できるだけでなく、バード、ジョーダン、フラナガンのソロもたっぷりフィーチャーされているので、特にベース好きの人でなくても楽しめる上質のハードパップ作品と思います。
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