スタン・ゲッツについてはこれまでも当ブログでたびたび取り上げてきました。60年代はボサノバブームに乗って「ゲッツ&ジルベルト」等のヒット作を連発し、70年代以降も「ザ・マスター」「ライヴ・アット・モンマルトル」等の力作を発表し続けたゲッツですが、全盛期が50年代にあることは衆目の一致するところでしょう。特に1955年から57年にかけてが絶頂期で、この頃のヴァ―ヴの諸作品群はほぼ傑作揃いと言って良いと思います。
今日ご紹介する「スタン・ゲッツ・イン・ストックホルム」は1955年12月にスウェーデンのストックホルムで録音された作品。ゲッツは翌1956年にスウェーデン人のモニカ夫人と結婚し、1958年からの2年間はスウェーデンに移住するなど同国とは縁が深いですが、この時点では単なるツアーでの訪問です。ワンホーン・カルテットでリズムセクションは全員現地ミュージシャンでベンクト・ハルベリ(ピアノ)、グンナー・ヨンソン(ベース)、アンデシュ・ブルマン(ドラム)と言う布陣です。うちハルベリとヨンソンの2人は後に「インポーテッド・フロム・ヨーロッパ」でも共演しています。
全8曲。全てが有名スタンダードです。この頃のゲッツ作品は基本的にスタンダード多めですが、ここまで振り切っているのは珍しいですね。スタンダード演奏と言うのは耳馴染みは良い半面、ありきたりの演奏では没個性で陳腐なものになりがちですが、そこは全盛期のゲッツだけあって安定のクオリティに仕上がっています。特にミディアムテンポのナンバーが秀逸で"Indiana"”I Can't Believe That You're In Love With Me""Get Happy"”Jeepers Creepers"と言った曲をゲッツが歌心たっぷりのソロで歌い上げます。バックのベンクト・ハルベリのピアノはややオールドスタイルなスイング風ですね。中でも"I Can't Believe~” はアート・ペッパーがたびたび演奏している彼の十八番で、テナーとアルトのそれぞれの天才同士の演奏を聴き比べて見るのも面白いです。
残り4曲はバラードで”Without A Song"”I Don't Stand A Ghost Of A Chance"”Everything Happens To Me""Over The Rainbow"とこちらも定番曲揃い。どの曲でもゲッツはまるで慈しむかのような優しいトーンでメロディを紡いでいきます。テナーの音色ってこんなに繊細だったっけ?と思わせるような演奏で楽器は違いますがポール・デズモンドを思い起こさせますね。個人的にはバラードが少し大人しすぎてちょっと物足りない気もしますが、クールテナーの王者ゲッツらしいリラックスした雰囲気の1枚です。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます