図書館から借りていた あさの あつこ 著 「火群(ほむら)のごとく」 (文藝春秋)を 読み終えた。
つい最近まで 読書の習慣等 皆無だった人間、どの作者、どの作品も 目新しく感じてしまう。
もちろん あさの あつこ氏の作品を読むのも 初めて。
なんとなく手にとって 借りてきた書だか 引き込まれてしまい 一気に読んでしまった。
舞台は 江戸から遠く離れた山河豊かな わずか6万石の小藩 小舞藩(おまいはん)、
その地で 身分や立場の違いを超えて繋がる藩士の子弟、少年剣士の友情と成長過程を描いている青春時代小説である。
数々の児童文学賞を受賞している作者が 子育て中に 藤沢周平作品に魅せられて 時代小説を書くようになったと解説されているように まさに 藤沢周平が描く 東北の小藩 海坂藩を舞台にする作品を 彷彿とさせるものがある。
あさの あつこ 著 「火群(ほむら)のごとく」
序、鵜の闇
1、薄墨の空、
2、朴の樹の下で、
3、八尋の主、
4、白い花、
5、炎上の果てに、
跋、明けてゆく道
新里林弥、上村源吾、山坂和次郎は 同い年の14才、同じ筒井道場に通い、身分や立場の違いを超えて 固い友情で繋がった少年剣士。性格がまるで異なる若者達の言動、交流が 明るく 青春ドラマっぽい。
代々勘定方を務めていた新里家の若き当主であった 林弥の15才年上の兄 結之丞が 突然何者かに斬殺されてしまい 新里林弥が当主となるも 元服前のため、無役、家禄は三分の一に削られる。
林弥は 父親代わりでもあり 道場の高弟として名をはせていた剣の麒麟児 兄 結之丞を誰よりも尊敬していたが 斬殺の真相は不明のままで 兄の名誉回復ならず 自分の非力、焦燥、落胆、憤怒等 悶々とした感情をいだきながら暮すしかなく、
一方で 実家に戻らず残った嫂(兄嫁)七緒への思慕がつのるばかりで 竹刀を握ることで凌いでいる。
上村源吾は 父親が 500石の江戸詰め大納戸頭の上士の家の嫡男で 父親が国元に帰ってくれば元服することになっていた。
山坂和次郎は 普請方の下士の家の嫡男、何事にも冷静な言動をするタイプ。林弥にも 兄 結之丞 斬殺真相究明に深入りするな、新里家を背負うことを優先すべき等と忠告をしている。
筒井道場に現れたもう一人の若者、林弥達と同じ年頃の樫井透馬が加わり 藩内の派閥争いの渦中へと巻き込まれていく。
樫井透馬は 小舞藩筆頭家老 樫井信右衛門の妾の子だが 長男が病死、二男も病に臥せっているため 急遽 江戸から呼び寄せられた少年剣士。過って 江戸で 出府中の新里結之丞から剣を教わったことがあり やはり 結之丞を先生と称し敬愛しており 斬殺された結之丞の真相を探る目的も持っている。
「3、八尋の主」では 巨岩から八尋の淵に飛び込み遊ぶ 林弥、源吾、和次郎、透馬、4人の少年達の情景描写や周辺の自然描写が有るが 昭和20年代、30年代の子供の頃の夏を思い出させてくれる。
その帰り道に 4人は 6人の賊に襲わるが 透馬の義母(筆頭家老 樫井信右衛門の正室)が差し向けたものだと見当をつける。
物語は後半 急展開する。
林弥の親友 上村源吾は 江戸から帰国したばかりの父親と、母親、妹と共に自刃する。
藩金横領等が発覚した中老水杉頼母派を一気に潰しに掛かった筆頭家老樫井信右衛門が、その一端に関わりのあった上村源吾の父親を江戸から呼び寄せたことは自明で 上村源吾の父親は 一家自刃の道を選んでしまった。
そして 林弥、和次郎、透馬が 源吾の最期の手紙を あけ屋のおそでに手渡して帰る途中、突然 透馬が後ろから刺客に襲われた。一瞬 林弥が 闇を払い手応えを感じ、刺客が倒れ 透馬は腕に深傷を負っただけだった。
刺客は 自分から頭巾をむしりとったが その刺客は なんと嫂(兄嫁)七緒の実兄で 生田清十郎であったのだ。
兄 結之丞が斬殺された後は よき相談相手であり、信頼もしていた義兄 生田清十郎が 刺客だったとは。
さらに 兄 結之丞を 斬殺したのも 「わしだ」、「仔細はわからぬ。わしはただ命じられただけだ、新里結之丞を葬れとな。わしは命に従った。それだけのことよ」「七緒は知らぬ・・・・」「・・・それが役目だ」。
命じたのは 中老水杉頼母であり、筆頭家老樫井信右衛門を襲い 家族全てを根絶やしにしろと命じられた・・・、
生田清十郎は そのまま四肢を痙攣させ 動かなくなった。
林弥は くしくも 兄 結之丞の仇を討ったわけだが それは思慕する嫂(兄嫁)七緒のたった一人の身内(兄)だったのだ。
「跋、明けてゆく道」では 筆頭家老樫井信右衛門の屋敷内に5人の刺客が乱入し 樫井家族の危機が迫っていたところに 林弥、透馬が掛け付け 残っていた手慣れの3人の刺客も倒された。
刺客の頭巾を取ると 林弥が通っている筒井道場の次弟 野中伊兵衛の顔が現れた。
樫井透馬は 腕の治療を口実に江戸に戻ることになり 林弥の家から旅に発つ。
和次郎と共に 透馬を見送りに出掛ける林弥は 嫂(兄嫁)七緒と 言葉を交わす。
「嫂上、帰ってきますから。どこにも行きません」、
「林弥どの」、
「では 行ってきます」。