山田詠美編「せつない話」所収
「せつない話」をあつめた文庫の巻頭の話が、この
「手品師」である。片思いの手品つかいのボーイの
脱出劇に失恋を仮託した死となるはずだったが、至らず
倉田という作家と恋相手の英子に助け出される
という話だ。
童貞の悲哀、というか、若さ、というものの、行きつく
先のない苛立ちみたいなものは感じた。倉田という
作家は、おそらく、吉行氏のことだろう、まあ、創作
だろうが、禿げあがった50年配の男の帽子を掲げ持つ
18歳のカネで買われた女、英子、というのは、淫猥な
趣がある。
18歳かあ、手品をする19歳の川井にボクは自分を重ね
合わせはできないが、ボクが19歳のころは、ジメジメと狂
っていた。若いとき、狂っていたということは、ボクにとって
文学をやる根拠となっている。まあ、32歳くらいまでは果て
しなく狂っていたな。
思い返したくない日々だが、今ではいい思い出だ。
……合掌。