中公文庫 2023年初版
井伏氏の「広島とその周辺」を描いた作品を
独自に選んだもの、と巻末にある。
これが広島だけの限定のものなのか、ちょっと
ぼくには判らない。
井伏氏の人生を描いた半生史、井伏氏は備後
福山在の加茂村の生まれ、とある。そこで疎開
していた時、原爆が落ちたらしいが、きのこ雲は
視ていない、と云う。
やはり秀でた文学者だったのだな、と思わせる箇所
は幾らでもあって、読ませるし、広島と云っても
広いのだな。ぼくは市内で暮らしているので、ずーずー
(とは云わないか)の広島弁と云うものにはあまり接
していないが、たまにおばちゃんやおじさんがこってこ
ての広島弁を操っているのを聞いて、あのイントネーショ
ンなんだよな、ドラマで広島弁を聞くのとはまるで違うよ
な、と思うのだ。
井伏氏は上京の折り、車夫の東京弁を聞いて、広島弁を
矯正するのを一種の諦めの気持ちを持った、と述懐して
いるが、ぼくに広島弁への憧れはまったくない。
(読了日 2025年1・23(木)17:35)
(鶴岡 卓哉)