映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「東京公園」 小路幸也

2011年07月23日 | 本(恋愛)
ファインダーの向こうの母子

東京公園 (新潮文庫)
小路 幸也
新潮社


              * * * * * * * *

写真家を目指す大学生の圭司は、公園で出会った男性に奇妙な依頼を受けます。
「妻の百合香を尾行して、写真を撮って欲しい」と。


百合香は、天気がよければいつも幼い娘かりんを連れて「公園」へ行くのです。
無邪気なかりんと彼女をやさしく見守る母、百合香。
気づかれずに写真を撮っていたつもりが、
いつしか百合香がこちらを意識していることに気づく。
写真を撮る側、撮られる側、
決して言葉は交わさないのですが、不思議な一体感が生じ、
圭司自身もこの母子に対してある種の感情が芽生えていることを自覚していくのです。

この尾行にはどんな意味があるのか。
また、百合香が頻繁に公園へ散歩に行くことの意味は・・・。


圭司の友人(女性)富永や、血のつながらない姉との交流を交えながら、
人を好きになることの意味、
愛することの意味を問うていきます。


ファインダーの向こうの母子の姿がいいですね。
いかにも儚げで、ふんわりしていて、
そして守りたくなる。
あこがれずにいる方が難しいというものです。


登場する公園は水元公園、日比谷公園、砧公園、
洗足池公園、世田谷公園、和田堀公園、
行船公園、井の頭公園。
聞いたことだけはある名前もありますが、
私には全く土地勘がないのが残念。
どれもちょっと行って見たくなる、そんな描写があります。
著者と重ね合わせて、圭司は北海道旭川出身ということになっています。
なので、ちょっぴり北海道の故郷のことにもふれている部分があり、
そこはちょっとうれしい描写です。


この作品、映画化されていて、現在上映中。(一斉公開ではないようです)
確かに「絵になる」シーンが多くて、
映画化にはもってこいに思えます。
きっと、圭司の心と同様に、瑞々しい情感たっぷりの作品なんだろうな。
今すぐにではなくても、いずれ見てみたいと思います。

「東京公園」小路幸也 新潮文庫
満足度★★★☆☆