映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

家族ゲーム

2012年05月09日 | 映画(か行)
家庭教師が家族にもたらすものは

                 * * * * * * * * * 

故森田芳光監督を偲びつつ・・・・
1983年作のこの作品。
約30年前。
日本はまだまだ経済成長期。
ファミコンが発売された年でもあり、NHKドラマ「おしん」が大ヒットした年でもあります。
世の中どんどん豊かに便利になるけれど、
おしんの時代のような貧しさと家族の絆を忘れてはいけない。
そんな思いが当時の人々の心にあったのかも。


さて、今作もホームドラマではありますが、かなり苦いです。
父母と、高校1年、中学3年二人の息子がいる沼田家。
兄真一は無事進学校入学を果たしたけれど、弟茂之は、成績が悪く、このままでは無理。
そこで、家庭教師をつけることになったのですが、
三流大学7年というこの謎の男、吉本が松田優作で、
語る言葉こそ少ないのにすごい存在感です。
この沼田家の食卓、横長で家族4人(吉本が食卓を共にするときには5人)が、
横並びで食事をするという独特なもの。
お店のカウンターで見知らぬ同士が袖すりあわせつつ、
無言で独自の世界を守りながら食事をしているという雰囲気ですね。
この家族のディスコミュニケーションを象徴しているというわけです。
そして、家族の弾まない会話の代わりに、
食器の音、汁を啜る音、咀嚼の音などが耳障りなほどに強調されています。
殺伐でもあり、ユーモラスでもあり、このさじ加減が実に絶妙。


父親は自分の価値観を家族に押し付け、
母親は自分の意志はなく夫の意向を丸呑み。
兄は、高校に入った途端やる気を無くして、学校をさぼりがち。
弟は全く勉強をする気がなく、学校では若干のいじめも受ける。
さて、ここへ家庭教師が入って、家族の愛を目覚めさせたりはしません。
結果的には茂之の成績は向上。
でも彼は、家族を変えたりはしないのです。
そして、ラスト付近の5人の食卓シーンでの、吉本の暴走が凄まじい。
思わず笑ってしまいますが、けれどもこのシーンの意味は重いと思います。
ひとまず茂之の受験という大きな山を乗り越えたこの家族。
でもその有り様は全然変わっていなかったということで、
吉本が爆発するんですね。
でもそれもかなり破れかぶれでで、家族にその意志が伝わったかどうか。
いえ、吉本自身も決して自分の感情を理解しているようには思えない。
しかし、この吉本の暴発こそが、
この家族の崩壊を逆に食い止めたようにも思えるのです。
家族同士の価値観の違いによるスレ違いが、時には殺人事件にまで発展。
もしかするとそうならないとも限らなかったこの家。
問題は抱えながら、それでもやっぱり一つの安息の場に踏みとどまった。
ラストシーンの不安をかきたてるようなヘリコプターの音は、
外界の様々な事件や不安、ストレスを表すのでしょうか。
家族とは、そういうようなものから私達を守る、
ほんのささやかなバリアーなのかも知れません。

家族ゲーム [DVD]
松田優作,伊丹十三,由紀さおり,宮川一朗太
パイオニアLDC


「家族ゲーム」
1983年/日本/106分
監督・脚本:森田芳光
出演:松田優作、伊丹十三、由紀さおり、宮川一朗太、辻田順一