映画と本の『たんぽぽ館』

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「静かな黄昏の国」 篠田節子

2012年05月04日 | 本(ホラー)
狂っているのは世界か、人間か、自分か?

静かな黄昏の国 (角川文庫)
篠田 節子
角川書店(角川グループパブリッシング)


                 * * * * * * * * * 

篠田節子さんの短篇集です。
どれもひんやりと、どこか他人事ではない恐ろしい事象が語られています。


「子羊」
静かで清潔な場所で満ち足りた生活を続けてきた"神の子"であるM24。
外の世界は貧困と争いと病気に満ちた恐ろしい場所と聞いているけれども、
彼女らは実際にそれを見たことはない。
外界とは隔絶されたこの世界で、
彼女らはひたすら16歳の"生まれ変わり"の日を待つ。
実の所"その日"の自分たちの行く手を、彼女らはわかっていないのですが。
やがて、恐ろしい事実がわかってきます。
これは、カズオ・イシグロの、「わたしを離さないで」の世界とよく似ています。
クローン技術がより発展した未来の成れの果て・・・。
単なる空想の物語であって欲しいですね。


ところが更に恐ろしい未来の日本の姿を描いたのが表題作。

「静かな黄昏の国」
この黄昏の国、というのはまさに日本です。
化学物質に汚染され、もはや草木も生えなくなった老小国日本。
葉月夫妻は終の棲家として、ある森の中の施設にやってきました。
そもそも、日本中探しても、森など殆ど無い。
それなのにこの施設は格安で、毎日新鮮な野菜が食卓に上ったりする。
野菜などは全く手の届かない高級食品だというのに。
そしてなぜか、ここにやってきた人の余命は3年だという。
いえ、3年というのも、多めに見すぎている。
あっという間に体調を壊し、弱って死んでいく住民たち。
彼らの体を蝕んでいるのは・・・。
まさに今日的話題で、怖いストーリーです。
3.11後、著者が2012年版として補遺したもの。
今や身近な話となってしまっただけにいっそう怖いです。


人によって捻じ曲げられた自然が牙をむく・・・。
狂っているのはこの大自然なのか、人間なのか、それとも自分自身?

「静かな黄昏の国」篠田節子 角川文庫
満足度★★★★☆