映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「骸の爪」道尾秀介

2012年09月06日 | 本(ミステリ)
“耽る”に最適、道尾秀介


骸の爪 (幻冬舎文庫)
道尾 秀介
幻冬舎


                       * * * * * * * * * 

先日も書きましたが、この本の帯に曰く
「道尾秀介に耽る。」
なるほど、私自身そういう雰囲気になって来ました。
耽る。
まさにそれです。

今作は、ホラー作家・道尾秀介と
霊現象探求家・真備のシリーズ第2作です。
道尾が取材のため滋賀県山中にある仏像の工房を訪ねます。
そしてその夜、彼は信じられないものを目撃してしまいます。

口を開けて笑う千手観音。

闇の中で血を流す仏像。

しかし翌朝確認すると、それらは全く通常の状態となっていたのですが、
なぜか仏師が一人姿を消していた。
帰京した道尾はこの謎を解くべく、真備とその助手・凛を伴って再び工房を訪れます。
工房の誰もが口を閉ざす、20年前の出来事とは・・・?


前作ではオカルトめいた部分が、そのまま未知の謎として残ったのですが、
今作の不可解な謎は、すべて論理で解決します。
不気味といえばこの20年前に起こったある事件で、
多くの人が真相を知り、または真相に迫りながらも、
それぞれが20年の沈黙を守っていたこと。
人は思い出したくない嫌な出来事はあえて忘れようとして
意識の表層から消してしまうものなのかも知れません。
お互いにその話題に触れることすらも避けているうちに、
その事実は黙殺され、ないことと同じになってしまう・・・。
それはこのストーリーだけの特異なことではなく、
実際にありそうな気がして、非常に怖くなってしまいました。
例えば、家の中にミイラ化した遺体があって、
何年もその家で家族が通常通り生活していた
などという事件もあったではありませんか・・・。
(だからといってこのストーリーは、工房にミイラが転がっていたりはしないので、
ご安心を・・・。
でも近い部分はあるかな?)


仏像に関する薀蓄や自然科学、様々な事柄をヒントに、
通常ではありえない怪現象を解き明かしていくという、
本格ミステリの王道を行く作品。
とても興味深く読みました。

「骸の爪」道尾秀介 幻冬舎文庫
満足度★★★★☆