映画と本の『たんぽぽ館』

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「BANANA FISH 1~19」吉田秋生

2013年06月26日 | コミックス
懐かしのBANANA FISHを読んでみた・・・

BANANA FISH バナナフィッシュ 全巻セット (小学館文庫)
吉田 秋生
小学館


* * * * * * * * *

本作は、1985年~1994年、別冊少女コミックに連載されたものです。
少女漫画でありながらハードアクション。
よくもまあ・・・と、今更ながら思うのですが、
いや、やはりアッシュとエイジのビジュアルはステキですからね。
我が家の本棚の奥に眠っていたものですが、
久しぶりに読みだして、やめられなくなってしまいました。
その辺の経緯はこちらを・・・。
→ポスター犬19

さて、「BANANA FISH」とは、ある薬物の名称です。
その作用は激烈で、服用すると簡単な暗示で全人格を支配され、
その後は自殺するか廃人同様となってしまう。
この薬物を利用しようと企むコルシカマフィア・ディノや
アメリカ政界上層部、
そして軍。
これらの抗争に巻き込まれていくアメリカ少年アッシュと、
その友人英二の友情を描きます。


今回読んで思ったのは、アッシュの心を支配する人物は二人。
それがディノと英二ですね。
そしてそれは彼にとっての「父」と「母」であるような気がするのです。


ディノは巨大な力を持つマフィアのドン。
まだ幼いアッシュを引き取り、あらゆる英才教育を施しますが、
それは彼を力で屈服させることでもあった。
長じるに従って、アッシュは
ディノの支配を逃れ、自由を希求するようになる。
巨大で目の前に立ちふさがるもの。
乗り越えることを宿命とされているもの。
そういう「父」の象徴がディノであるわけです。
本作中でもディノはアッシュに何度も何度もコケにされ、
切り刻んでも飽き足りないくらいの思いを味わっているというのに、
どこかアッシュへの『愛』を感じてしまうわけです。
このオッサンには・・・。
(ここには実際性的な意味もあったりします(^_^;)


さて、一方英二は、
実はアッシュよりもわずかに年上ではありながら、
体も小さく童顔で、
これまで平和に生きてきた日本人ですから銃など扱えるわけもなく、
アッシュにとっては完全に守るべき存在なのです。
そしてまたアッシュは、彼の前でだけは何の警戒もなく、素のままでいられる。
ここでは性的関係は全くありません。
真に魂と魂だけのつながり。
というのも、アッシュは子供の頃からディノに性的経験を積まされ、
そういうことには恐怖心と嫌悪感しか持っていないのです。
だから彼は性的なつながりを全く尊重しない。
従ってアッシュに守られる存在でありながら、
英二は女性ではダメなのです。
アッシュにとっての安らぎ=母は、英二なのです。


守るべきものを持つものは強い。
けれどもそれはまた、アッシュの一番の弱みということでもある。
途中のどこでどんなアクションが繰り広げられたか、ではなくて、
アッシュと英二がどんなふうにかけがえのない存在になっていくのか、
やはり少女漫画なので、そういうところが見どころです。


最後の19巻では、スピンオフの短編も掲載されていますが、
本編より数年後を描いた「光の庭」にはしびれてしまいます。
ここまで読みついで来た人へのご褒美みたいな作品です。
ひどく切ないのですが、
英二が無茶苦茶ステキに変貌しており、
見とれてしまいます。


いやはや、古い作品でも、やはりいいものはいいですね~・・・

「BANANA FISH 1~19」吉田秋生
満足度★★★★★