映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

蜩ノ記

2014年10月12日 | 映画(は行)
困った・・・(-_-;)



* * * * * * * * * *

待ちに待った・・・というべきなのですが、
本作を見る以前に「柘榴坂の仇討」を見て、
少し嫌な予感にとらわれました。
柘榴坂---で描かれていた武士の矜持について、
「ごりっぱ過ぎる」と感じてしまったのです。
そこで感じたのなら、本作だって・・・。
まさにそういう作品なんですよねえ・・・。

ストーリーは、こちらを御覧ください。
→「蜩ノ記」葉室麟
本の方の読後感はすこぶる良かったのです。
そちらの私のブログ記事はこう結んであります。

人間の卑小さ、己の不甲斐なさを題材とするのも小説ですが、
このようにストレートに凛として美しく強い魂を描くのもまた小説。
こうしたものにすなおに感動できる気持ちを大事にしたいですね。




凛として美しく強い。
これぞ葉室麟さんの真骨頂だ。
しかるに・・・、本作、
私はあろうことか睡魔に襲われてしまいました・・・。
「こうしたものに素直に感動出来る気持ち」・・・? 
私のそれは何処へ行ってしまったのでしょう・・・?
もちろんストーリーを知ってしまっているゆえの興味の半減はあると思います。
秋谷の不義密通などあるわけがない。
果たしてその真相は・・・という
ミステリ的部分で興味を持つことができなかった。

もともと身に覚えのない冤罪ながら
自らの命を賭してその汚れ役に甘んじる秋谷の潔さ。
それを察し、一回り成長していく庄三郎。
いや、原作そのまま。
何が不満か・・・?
なんというか、登場人物皆さん、
あまりにも端正でご丁寧でしっかりし過ぎではあるまいか?
まるで教科書みたいに姿勢正しく美しく淡々としている。
映画であるからには、もっと思い切って密かなユーモアを漂わせたり、
野卑な部分、激情を垣間見せるような所をみせたりしても良かったのではないかな。
ダークな人たちのダークさ加減もなんだか物足りない。
・・・が、そんなことをすると葉室麟作品ではなくなってしまう・・・。

私、ふと思ったのですが、
最近「超高速参勤交代」とか「るろうに剣心」とか、
あまりにもイキイキとして、気取らない時代劇を見過ぎたのかもしれません。
それ故、このようにあまりにも正統派の武士道を説かれると
なんだかなあ・・・と感じてしまう。
ちょっとヤバイです・・・。



いずれにしても、本作、人々の“生身”を感じられなかった、
というのが、不満の原因のようです。
原作で私がもっとも心揺り動かされた源吉くんのくだりも、あっさりしすぎていました。
秋谷の人間性については、本でじっくり時間をかけたほうが、心に染みこんでくるようです。


しかしながら、よかったのは、美しい岩手の風景。
季節が移り変わることは、すなわち、
秋谷の余命がどんどん残り少なくなっているということで、
それを感じさせる描写がステキでした。
「柚子は9年で花が咲く。」というのは
原作者葉室麟さんの座右の銘と言ってもいいくらいの言葉です。
本来は、「何事もじっくり取り組んで9年・・・
それほどまでに時間をかけて、物事はようやく成し遂げられるものだ」
・・・という意味の言葉なのですが、
ここでは秋谷の残りの命のカウントとなっていることに、凄みがあります。

「蜩ノ記」
2014年/日本/129分
監督:小泉堯史
原作:葉室麟
出演:役所広司、岡田准一、堀北真希、原田美枝子、青木崇高
武士度★★★★★
満足度★★★☆☆