映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

楽園からの旅人

2014年10月02日 | 映画(ら行)
私達が信じられる確かなもの



* * * * * * * * * *

イタリアのとある町。
取り壊されようとする教会に一人、老司祭が残っています。
今さら外の世界に出て行ってもできることはないし・・・、
あとは命が尽きるまでひっそりと生きよう・・・、
そんな覚悟で。



冒頭、解体業者に片付けられるキリスト像の映像。
神は死んだ・・・そう呟きたくもなりますね。
そもそもこの教会が閉館となったのも、
おそらく信者がめっきり減ってしまったからではあるまいか。
ここへきて、司祭はおのれ自身の信仰にさえも自信を失っているのです。



さてそんな夜、
アフリカから長い旅をしてやってきた、不法入国者の一団がここにやってきます。
冷たい雨の夜・・・、老司祭は彼らを拒むことなどできません。
中には子どもや妊婦さえいるのです。
ショボくれた司祭は、不法入国者を取り締まる警察にさえ決然と立ち向かう。



キリスト生誕を思わせる赤子の誕生や、
ユダの裏切りを思わせるシーンを交えながら、
終始ほの暗い画面を美しいと感じさせられます。
廃墟のような教会のホールで、難民たちが椅子を並べ毛布をかけ横たわる。
それだけなのに、なぜかとても居心地の良い安息の場へと変貌していくさまに心打たれました。
人のぬくもりが感じられる雨露のしのげる場所、
そして少しの食料。
それだけあれば人は幸せなのかも。





司祭は、難民の彼らをかばおうとする気持ちだけは強いものの、
体は急激に衰えていきます。
彼の魂は、ようやくおのれの役割を取り戻したようなのですが、
それはおのれの命の炎を燃やして得たエネルギーだったのかもしれません。
人が利害を超えて人に尽くす「善」。
・・・確かにそれこそは、どの宗教をも超え
普遍的に私達が信じられることのような気がします。



「海と大陸」もイタリアの島にアフリカからやってくる
不法入国者を題材とした作品でした。
今ヨーロッパで大きな問題となっていることなのでしょうね。



楽園からの旅人 [DVD]
マイケル・ロンズデール,ルトガー・ハウアー,アレッサンドロ・アベル
紀伊國屋書店


「楽園からの旅人」
2011年/イタリア/87分
監督・脚本:エルマンノ・オルミ
出演:マイケル・ロンズデール、ルトガー・ハウアー、アレッサンドロ・ヘイベル、マッシモ・デ・フランコビッチ
つかの間の「安息の場」度★★★★★
満足度★★★★☆