映画と本の『たんぽぽ館』

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「名もなき花の 紅雲町珈琲屋こよみ」 吉永南央

2014年10月04日 | 本(その他)
15年前に起こったこと

名もなき花の 紅雲町珈琲屋こよみ (文春文庫)
吉永 南央
文藝春秋


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小蔵屋を営むお草は、新聞記者の萩尾の取材を手伝って以来、
萩尾と、彼のライフワークである民俗学の師匠・勅使河原、
その娘のミナホのことが気にかかっている。
15年前のある<事件>をキッカケに、
3人の関係はぎくしゃくしているらしいのだ。
止まってしまった彼らの時計の針を、お草は動かすことができるのか。
好評シリーズの第3弾。


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コーヒー豆と和食器のお店、
小蔵屋を営むお草さんのストーリー第3弾。
自分自身の年齢もあるかもしれませんが、
しっとりした情感漂う本作、つい手にとってしまいます。
表紙のイラストからすると、いかにもほのぼのしそうな感じでしょう?
しかし、人生はそんなに甘くない。
酸いも甘いも噛み分けてきたお草さんだけれど、
やはり太平ではない今を生きているのです。
しかも根が人が良いので、
町内の不穏な動きや、親しい人の憂鬱な顔を
自分の痛みとして感じてしまう。


本作は、新聞記者萩尾と民俗学者の勅使河原、
そしてその娘ミナホをめぐる
15年前の出来事を発端としたストーリーが進みます。
決して殺人事件が起こったりはしないのです。
あくまでもご町内の事件。
この3人の胸中でずっとくすぶり続けてきた思いを、
お草さんが知って行って、
そしてなんとか解きほぐせないものかと奔走。


ふとしたことで気持ちが落ち込んだり、またふと元気が出てみたり。
老齢になってから店を始めたバイタリティの持ち主ですが、
時として気がふさぐというのも等身大で親しみが持てます。
本作中、若い人たちが新たなまちづくりに意欲を注いでいくのも、いいですね。
若い人のこういう姿を見るのは嬉しいものです。
東京からのリターン組が、地方都市であらたな「ふるさと」を創造していく。
決して鄙びた味だけの物語ではないので、
お若い方にもおすすめしたい・・・。

「名もなき花の 紅雲町珈琲屋こよみ」吉永南央 文春文庫
満足度★★★★☆