ニセモノの月を抱いて

* * * * * * * * * *
バブル崩壊直後1994年。
銀行の契約社員梅澤梨花(宮沢りえ)は、外回りの仕事をしていますが、
その丁寧な仕事ぶりには定評を得ていました。
自分には関心の低い夫にやや不満があるものの、平凡な毎日を送っていたのです。
そのことが起こる前までは・・・。

ある時、大学生の平林(池松壮亮)と逢瀬を重ねるようになりますが、
その彼が抱えている借金を精算するために、顧客の金を横領してしまうのです。
一度そのようなことに手を出してしまうと、後はもう雪崩のよう。
ニセの証書を発行するという大胆な手口で、
横領額は次から次へと膨らんでいき・・・。

なんだか怖くて仕方がなかった。
まるで自分が横領をしたかのように、
罪を犯していることの恐怖が胸を締め付ける。
そういう私は、所詮小心者。
このような犯罪には向かないな、と思ってしまいましたが。
いや、だからといって、この梨花が大胆で強い心の持ち主というわけではないのです。
豪華なホテルに泊まり、買い物をしまくり、
彼のためにマンションまで用意して・・・
歯止めのない浪費を繰り返しながら、
心の奥底は、いつか来る破綻に恐怖し凍りついている。
それが私達にも伝わっただけに相違ありません。
でも彼女が彼のためにしたことは、本当は間違いでしたね。
始めは律儀に月5万円を返していた彼ですが、
梨花の豪遊に金銭感覚も麻痺していき、
次第にダメな奴になっていく。
はじめのうちの彼なら、3万円の腕時計だって大感激だったはずなのに。
リッチな生活のはずなのに、それは所詮ニセモノの月。
本当の幸せはお金では買えない。
でもね、作中のように、何百万のお金を気軽に動かしたりできる裕福な人
というのがいるわけですよね、実際。
私も3万円の腕時計で十分じゃん、と思う生活感覚の持ち主なので、
こういう格差を理不尽に感じてしまいます。
この人達にとっては、はした金・・・、ちょっとくらい頂いても・・・と、
そんな気持ちも分からなくはない。
一番はじめに、顧客の1万円をほんのちょっとの間拝借するのでもどぎまぎしていた梨花が、
変貌するのには長い時間は必要ありませんでした。
次第に平林のためにやっているというよりも、何かに憑かれたようになってくる。
宮沢りえさんのこの迫真の演技も迫力がありましたが、
もっとすごかったのは小林聡美さん。
梨花のつとめる銀行のベテラン行員ですが、
彼女の視線がいつも梨花の良心にちくちくと突き刺さる。
ひゃー怖い。

ですが、これは本当に彼女が常に疑惑を持って梨花を見ていた、というよりも、
梨花が自分の中に後ろめたさを抱えているがための怖さなんですよね。
そういうところが上手い。

ラストは予想外でしたが、
これは、梨花が“ニセモノの幸せ”を貫き通そうと覚悟を決めたのだろうと思いました。
それで一挙にファンタジーめいてくるのも、悪くない。
バックミュージックの賛美歌もふしぎな効果をあげています。
それにしても私が最も本作で嫌いな人物は梨花の夫。
自分だけ高級時計をして、妻にはカードも持たせない。
まるで2・3日の出張のように、海外赴任の話を持ち出し、
妻がついてくるものと疑わない。
妻だって一応仕事があるのに、どうするのよ!
あまりにも自分本位。
これでは、梨花の気持ちが移ろうのも無理はありません。
が、この事件後のこの夫の運命を思うと、
ちょっと気の毒かも、と思ったりする・・・。
「紙の月」
2014年/日本/126分
監督:太田大八
原作:角田光代
脚本:早船歌江子
出演:宮沢りえ、池松壮亮、大島優子、田辺誠一、小林聡美
怖さ★★★★★
満足度★★★★★

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バブル崩壊直後1994年。
銀行の契約社員梅澤梨花(宮沢りえ)は、外回りの仕事をしていますが、
その丁寧な仕事ぶりには定評を得ていました。
自分には関心の低い夫にやや不満があるものの、平凡な毎日を送っていたのです。
そのことが起こる前までは・・・。

ある時、大学生の平林(池松壮亮)と逢瀬を重ねるようになりますが、
その彼が抱えている借金を精算するために、顧客の金を横領してしまうのです。
一度そのようなことに手を出してしまうと、後はもう雪崩のよう。
ニセの証書を発行するという大胆な手口で、
横領額は次から次へと膨らんでいき・・・。

なんだか怖くて仕方がなかった。
まるで自分が横領をしたかのように、
罪を犯していることの恐怖が胸を締め付ける。
そういう私は、所詮小心者。
このような犯罪には向かないな、と思ってしまいましたが。
いや、だからといって、この梨花が大胆で強い心の持ち主というわけではないのです。
豪華なホテルに泊まり、買い物をしまくり、
彼のためにマンションまで用意して・・・
歯止めのない浪費を繰り返しながら、
心の奥底は、いつか来る破綻に恐怖し凍りついている。
それが私達にも伝わっただけに相違ありません。
でも彼女が彼のためにしたことは、本当は間違いでしたね。
始めは律儀に月5万円を返していた彼ですが、
梨花の豪遊に金銭感覚も麻痺していき、
次第にダメな奴になっていく。
はじめのうちの彼なら、3万円の腕時計だって大感激だったはずなのに。
リッチな生活のはずなのに、それは所詮ニセモノの月。
本当の幸せはお金では買えない。
でもね、作中のように、何百万のお金を気軽に動かしたりできる裕福な人
というのがいるわけですよね、実際。
私も3万円の腕時計で十分じゃん、と思う生活感覚の持ち主なので、
こういう格差を理不尽に感じてしまいます。
この人達にとっては、はした金・・・、ちょっとくらい頂いても・・・と、
そんな気持ちも分からなくはない。
一番はじめに、顧客の1万円をほんのちょっとの間拝借するのでもどぎまぎしていた梨花が、
変貌するのには長い時間は必要ありませんでした。
次第に平林のためにやっているというよりも、何かに憑かれたようになってくる。
宮沢りえさんのこの迫真の演技も迫力がありましたが、
もっとすごかったのは小林聡美さん。
梨花のつとめる銀行のベテラン行員ですが、
彼女の視線がいつも梨花の良心にちくちくと突き刺さる。
ひゃー怖い。

ですが、これは本当に彼女が常に疑惑を持って梨花を見ていた、というよりも、
梨花が自分の中に後ろめたさを抱えているがための怖さなんですよね。
そういうところが上手い。

ラストは予想外でしたが、
これは、梨花が“ニセモノの幸せ”を貫き通そうと覚悟を決めたのだろうと思いました。
それで一挙にファンタジーめいてくるのも、悪くない。
バックミュージックの賛美歌もふしぎな効果をあげています。
それにしても私が最も本作で嫌いな人物は梨花の夫。
自分だけ高級時計をして、妻にはカードも持たせない。
まるで2・3日の出張のように、海外赴任の話を持ち出し、
妻がついてくるものと疑わない。
妻だって一応仕事があるのに、どうするのよ!
あまりにも自分本位。
これでは、梨花の気持ちが移ろうのも無理はありません。
が、この事件後のこの夫の運命を思うと、
ちょっと気の毒かも、と思ったりする・・・。
「紙の月」
2014年/日本/126分
監督:太田大八
原作:角田光代
脚本:早船歌江子
出演:宮沢りえ、池松壮亮、大島優子、田辺誠一、小林聡美
怖さ★★★★★
満足度★★★★★