史実に挑む小説家の手腕
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宇喜多の楽土 |
木下 昌輝 | |
文藝春秋 |
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秀吉の寵愛を受けた俊才・宇喜多秀家。
絶体絶命の関ヶ原。
心優しきリーダーの選択とは。
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豊臣秀吉の5大老の一人であった宇喜多秀家の生涯を描きます。
宇喜多秀家・・・。
歴女には程遠い私には、聞いたことはあるけどどういう人?という程度。
読みながらもちょっと地味だなあ・・・と思っていました。
ラスト付近の驚愕の出会いのシーンまでは。
戦国武将としては似つかわしくなく、父親から受け継いだ干拓事業で
民を豊かにしたいという志を持っていた秀家。
少年時代にその優しさから、有り得べからぬ行動をしてしまいます。
ところが秀吉はそのことを利用し、彼を生涯いいように使いまくる。
「人たらし」などと言われる秀吉ではありますが、
その実の奥底の酷薄さ・・・。
秀吉の描き方もうまいですね。
秀吉により多くの戦に駆り出され、朝鮮戦役ではこの世の地獄を見る。
そして秀吉には彼亡き後の秀頼の行く末を頼まれる・・・。
やがて秀吉が没し、関ヶ原の戦いとなります。
圧倒的な徳川方の勝利。
命からがら戦場を脱し、落ち延びようとする秀家に今また敵方の兵が・・・!
というその時に、驚きの出逢いが!!
それこそが、あの少年の日の行動につながるという、アンビリバボーな展開で、
私はここで鳥肌が立ってしまいました・・・。
これこそが史実に挑む小説家の手腕。
そもそも、宇喜多秀家がどのような最期を迎えるのかも知らなかった私ですが、
本作を楽しむためにはむしろ知らなくてよかった。
その後の経緯については作中も簡単な記述があるだけですが、
つまり関ヶ原からはなんとか逃げ出すことができて、
その後も何箇所かで匿ってもらいながら、
結局八丈島へ島流しになり、そのままずいぶん長生きしたようです。
うーん、面白い!
木下昌輝さん、やみつきになるかも、です。
図書館蔵書にて
「宇喜多の楽土」木下昌輝 文藝春秋
満足度★★★★.5