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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ある少年の告白

2019年04月21日 | 映画(あ行)

男であることの“強制”施設

 

* * * * * * * * * *


2016年に発表された実話を基にしています。
アメリカの田舎町。
大学生ジャレッド(ルーカス・ヘッジズ)は
牧師の父(ラッセル・クロウ)と母(ニコール・キッドマン)の一人息子です。
ジャレッドは、自分は男性のことが好きだと気づき、両親にそのこと告白をします。

しかし、父は息子の告白を受け入れられず、同性愛の矯正施設への入所を勧めます。
自身もゲイであることをよくないことだと思うジャレッドは、
父の勧めに従い入所しますが、その施設のプログラムというのは、
自身を偽って生きることを強いるという、到底受け入れがたいものだったのです・・・。

昨今、同性愛やトランスジェンダーがテーマの作品を多く見ているせいでしょうか。
私自身のLGBTへの感覚は、かなり開けていると思うのです。
そのため本作、数十年くらい前の話かと思ってしまったのですが、
しっかり今現在の話、しかも実話だったのですね。

私はちょうど今、上野千鶴子さんの「女ぎらい ニッポンのミソジニー」という本を読んでいまして、
いろいろと興味深い本なのですが、その中にこんなことが書かれています。

「男と認めあった者たちの連帯は男になりそこねた男と女とを排除し、
差別することで成り立っている。
ホモソーシャリティ(性的でない男同士の絆)が女を差別するだけでなく、
境界線の管理とたえまない排除を必要とすることは、
男であることがどれだけ脆弱な基盤の上に成り立っているかを逆に証明するだろう。」

つまりこの男性中心の社会では、女は排除されることはもちろんですが、
“男になりそこねた男”すなわちゲイも、排除されなければならないという事なんですね。
それだから、今に至っても保守的な田舎町などでは、
こうした考えから抜けきれない“男”が非常に多いというのは納得できます。
ゲイを認めれば自分自身の“男”としての立場も揺るがされてしまうからです。



ジャレッドがまず自分のことを両親に告白したというのは、
この家庭がそれまでとてもうまく行っていたという証でもあると思います。
しかしその告白は、もっとも旧来の価値観を大事にする牧師の父には受け入れがたい。
しかし男社会からもともと排除されている母の方が、
すんなり受け入れていくというのには納得できるのです。

それにしても、余計に心の傷を深めそうな、矯正施設というのにも驚かされますね・・・。
そもそも「矯正」するようなものじゃないですし。
男であることを「強制」する施設というべきでしょう。
でも今もなお、こんな施設に家族によって入所させられる若い人たちがいるそうです・・・。



人にはいろいろな人がいて、みんな違って、みんないい・・・と、
今更の言い方ではありますが、そのことをつくづくと思い返す作品でした。
嘘で自分を塗り固めることをやめて、自分らしく生きようとしたジャレッドに拍手!!


<ディノスシネマズにて>
「ある少年の告白」
2018年/アメリカ/115分
監督:ジョエル・エドガートン
出演:ルーカス・ヘッジズ、ニコール・キッドマン、ラッセル・クロウ、ジョエル・エドガートン、フリー

同性愛度★★★★☆
満足度★★★★☆