女性の自立を阻むもの
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看護師として働きながら、医者になるため北京の大学院進学を目指すアン・ラン(チャン・ツィフォン)。
疎遠だった両親が交通事故で亡くなり、
彼女は会ったことがない6歳の弟・ズーハン(ダレン・キム)と対面します。
アン・ランは、親戚からズーハンを押しつけられ、仕方なく面倒を見ることに。
両親の死を理解できず、わがままなズーハンに手こずるアン・ラン。
それでも次第に幼い弟を思いやる気持ちも芽生えてきます。
それにしても、この先の自分の人生、弟のために医者になる夢はここであきらめるのか?
いや、弟はどこかへ養子に出して、やはり北京に行きたい・・・。
アン・ランの気持ちは揺れます。
本作、根本には中国の少子化政策があるわけです。
通常は夫婦は一人しか子供を持つことができない。
アン・ランの両親は第一子が女であったことに失望したのです。
なんとしても男の子がほしい。
それで、アン・ランに障害があると偽って、第二子を持つことの承認を得る。
両親に疎まれていることを知るアン・ランは、早くに家を出て、
奨学金を得ながら自分一人の力でここまで生きてきて、
看護師の職にも就いていたのです。
そしてその後、両親には待望の男子誕生。
だからアン・ランは弟とは会ったこともなかった、
と、なんともひどい話ではあります。
つまり、アン・ランだけではなくて、家庭における女性は男性のためにあって、
特に「後継ぎ」の男子のために、女性は自身の夢や自由は二の次。
まあ、社会は元々そんな風ではありましたが、
子だくさんの家族なら、女の子はむしろ勝手に生きなさいという感じだったかも知れません。
ところが子供が一人か二人ということなら、
いつも女性にばかり負担が押しつけられてしまう。
本作も、アン・ランに弟を育てることを強いる叔母自身も、
実は弟のために夢をあきらめた経験があることが分かります。
同じような歴史が繰り返されている・・・。
弟のために、自身の人生を犠牲にできるのか・・・?
究極の選択に迷うアン・ランの姿に、胸が痛みます。
実に難しい問いです。
このテーマも一時代昔なら、
「何をバカなことを。女が家族のあと取りのために尽くすのは当然のこと」
と、言われたかも知れません。
けれどもさすがに現代。
女性も自らの意志で生き方を決めてよいのだ、と
中国に於いても新たな認識を持たれてきているということなのでしょう。
と言うか、それを認めないと社会が成り立たなくなってきている。
ズーハンは待望の男子として、ずいぶん両親に甘やかされていたように見受けられます。
若干わがままなところもみられる。
でも、まだ6歳の幼子が突然両親を失うというのは、
どんなにか心細く淋しいことでしょう。
作中では周りの皆がこの子を今後どうするかに気がとられて、
誰もその心中を察しようとしていない。
哀れです。
昨今日本のドラマに登場する「子ども」って、
物わかりがよくておりこう過ぎますよね。
わがままで、大人の気を引きたくてちょっかいを出してみたり、大声で泣きわめいたり。
久しぶりに、そうだ、子どもってこういうものだった、と思い出しました。
でもやっぱり、ともに暮らしていくとかわいいのですよね、子どもは。
そして、子ども自身も、このような環境の中でめっきり精神的に成長していくわけです。
ズーハンの最後の決心にも涙を誘われます。
ショートカットのチャン・ツィフォンの魅力もたっぷり。
見る価値ありの作品です。
<シネマフロンティアにて>
「シスター 夏のわかれ道」
2021年/中国/127分
監督:イン・ルオシン
脚本:ヨウ・シャオイン
出演:チャン・ツィフォン、シャオ・ヤン、ジュー・コエンユエン、ダレン・キム
社会の矛盾度★★★★★
満足度★★★★☆
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