お草さんが誘拐犯!?
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コーヒー豆と和食器の店「小蔵屋」を営むお草は、
愛用していた帯留を一度は売ったものの、手放したことをずっと後悔していた。
そんなある日、それが戻ってきたと連絡がくる。
さっそく東京の店に向かうお草だが、
そこで、旧知のバーの雇われ店長が血痕を残して忽然と姿を消し、
どうやら殺されたらしいという話を耳にする。
その後、お草は、新幹線の中で何者かに追われている母子に出会い、
事態は思わぬ方向へ……。
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吉永南央さんの小蔵屋シリーズ、文庫最新刊。
本作はコーヒー豆と和食器のお店を営むお草さんと
その周囲の人々の出来事を綴ったものです。
舞台は北関東の地方都市、紅雲町。
というと情緒があってほっこりの物語を想像するかも知れませんが、
これが意外とシビア。
お草さん自身、結婚には失敗し、子供を幼いうちに亡くしているという
翳りを背負いつつ、高齢の今も店を切り盛りしています。
周囲で起こる事件めいたものも、現実的でつらいことが多い。
人の悪意と向かい合いながら、でも信頼できる人々にも囲まれつつ、
毎日を過ごすお草さん。
さて、本作はこれまでになくシビアで、
ほとんどサスペンスかハードボイルド仕様になっております。
ここまでのものは珍しいのですが。
というのも、本作、いきなりお草さんが、
ホームグラウンドである紅雲町を離れて、東京に向かうのです。
やはりお草さんにとって、住み慣れた町は安らぎの土地。
東京はそう遠くない所なので、ときおりお草さんも用事で出かけることはありました。
そんな時に、時々顔を合わせていた人物がユージン(ハーフらしい)。
初めての出会いは彼がまだ少年の頃。
明らかに父親から虐待を受けている様子のその少年を、
お草さんは気にかけながらもどうすることもできなかった・・・。
それから時は過ぎて、ユージンはガタイのよい青年になっていますが、
裏社会のボスらしい彼の父の言いなりで生きている様子。
その彼が、どうやら何らかの事件に巻き込まれて
亡くなってしまったらしい・・・。
そのユージンから託された遺言めいた言葉に従って、ある「仕事」をしたお草さん。
そしてその後、かねての予定通り新幹線で京都へ向かうのですが、
その時、何者かに追われている母子に出会い、彼女らの手助けをすることになってしまう。
母親は列車を降りて、追っ手に刺されて倒れてしまう。
残された少年を連れて、お草さんの逃避行が始まります。
しかし、なんとお草さんが誘拐犯と思われてしまい・・・。
わけの分からないうちに、容疑者として警察に追われる身になってしまうお草さん。
ひゃ~、なんという展開でしょう。
さすがに今まで、ここまでのはなかったですね。
サスペンス!
相当ビターです。
「薔薇色に染まる頃」吉永南央 文藝春秋
満足度★★★★☆
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