映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「夏の坂道」村木嵐

2020年12月19日 | 本(その他)

新しい世の中のために、若者を導く

 

 

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戦後最初の東大総長として、敗戦に打ちひしがれた日本国民を鼓舞し、
日本の針路の理想を示した男!
原動力となったのは、幼き日の母との約束。
一高時代の新渡戸稲造、内村鑑三との出会い。
東京帝大教授として反戦を目指しながらも、
教え子たちを戦場に送り出す苦悩を味わいながら戦争と対峙していった。

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戦後最初の東大総長を務めた南原繁氏の生涯を描きます。

 

南原氏は明治22年(1889年)の生まれ。
この年、明治憲法が発布されたということで、
後に政治学者となる氏には、暗示的な年でもあります。

明治末期~大正期、比較的思想も自由な時期に青年期を過ごし、
哲学や政治について、貪欲に学び、
大正10年には東京帝国大学(東大の前身)の助教授に就きます。

そして時代は次第にきな臭い方向へ動き始める。
軍部がその力を肥大させ、権力をにぎり、日中戦争から太平洋戦争へ・・・。

南原氏は、この日本の動きを誤っていると確信しています。
しかしそれを声高に言ったために職を追われた同僚も多く見ている。
こうして、まともな考えを持つ教育者がいなくなってしまったら、
誰が学生たちに「真理」を教えるのか・・・。

そして、いよいよ押し迫った時期にはついに学徒出陣が始まります。
帝大生も例外ではなく戦地に送り込まれるようになる・・・。
南原氏の教え子たちは、この戦争が過ちであることも良く理解している。
けれども彼らは黙って出陣していき、ついに戻らない者も多くいた。

自分はこのことを止めることができなかった、
ということがその後も南原氏を苦しめるのです。
でも、というかだからこそというべきか、
終戦後に氏は、新しい日本のあり方に情熱を燃やすわけです。
新憲法のなりゆきを心配し、教育基本法の成立に関わる。

 

教育基本法の前文は力強く、このようにうたわれています。

「われらは、さきに、日本国憲法を確定し、
民主的で文化的な国家を建設して、
世界の平和と人類の福祉に貢献しようとする決意を示した。
この理想の実現は根本において教育の力に待つべきものである。

われらは、個人の尊厳に重んじ、
真理と平和を希求する人間の育成を期するとともに、
普遍的にしてしかも個性豊かな文化の創造を普及徹底しなければならない。」

 

いま読んでもそのまま納得できる美しい文章ですね・・・。
少なくとも今の教員養成時に、この精神をしっかり植え付けてほしいものです。

とはいえ、

個人の尊厳に重んじ、真理と平和を希求する人間。
普遍的にしてしかも個性豊かな文化。

今、できてますかねえ・・・?

 

 

ちなみに、教育基本法は後の改正によって、この前文も書き換えられているようです。
が、そちらを見ても、この前文の方が格調高いと私は思う・・・。

 

個々の思想によっては納得できない点はあるかもしれませんが、
自らの信念に基づき、多くの学生たちに教え、
それによって新しい世の中を導き出そうとする・・・、
これもまた尊く希有な人生だなあ・・と、感銘を受けた次第。

 

「夏の坂道」村木嵐 潮出版社

満足度★★★★☆

 



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