映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「極北クレイマー 上・下」 海堂 尊

2011年04月10日 | 本(その他)
地方都市、赤字病院の苦難

極北クレイマー 上 (朝日文庫)
海堂 尊
朝日新聞出版


極北クレイマー 下 (朝日文庫)
海堂 尊
朝日新聞出版


               * * * * * * * *

この作品、文庫化を心待ちにしていました。
というのも、北海道が舞台というもので・・・。
しかし、舞台はあの夕張がモデルと思われる、超財政難の「極北市」。
とてもステキなストーリーには、なりようがないですけれど・・・。


極北市民病院に赴任してきた外科医・今中。
ところがその病院と来たら・・・
あからさまに対立する院長と事務長。
全く意欲の感じられない病院職員。
不衛生な病床。
問題山積み、くせ者揃い。
そんな中で彼は悪戦苦闘するのですが、
たった一人で状況を変えられるわけではないし、
逆に周りから疎まれたりも・・・。
そんな中でただ一人、今中が尊敬できる医師が産婦人科の三枝医師なのですが、
一人の妊婦死亡を、医療事故として問題視する動きが・・・。


この病院、いかにもやる気のない人ばかりで、
読んでいる内に気持ちが暗澹としてくるのです。
しかし、その職員たちの気持ちを変えていくのは、
なんとこの今中医師ではなく、その後やってくる謎の派遣医師・姫宮。
姫宮さんは、海堂作品を読んだことがある方ならすっかりお馴染みですね。
いつぞやは「看護師」として登場しましたが
今回は皮膚科の医師です。
彼女は、この病院の体制がなっていないとか、
職員がぐうたらだとかはいっさい口にしません。
それなのに何故か彼女が来たことで皆の意識が変わっていく。
こういうところが医療界の問題提起をしながらも、
エンタテイメントとして楽しく読めてしまう、海堂作品の真骨頂です。


たいていの人は、お産は普通のことと思い、
無事出産するのが当たり前と思っているのですが、
実はちょっとの弾みで大変危険な状況にもなり得る。
そういうリスクを伴うものだと言う認識があまりにも薄すぎると著者は言います。
だから、何かあるとすぐに医療訴訟。
こんな風だから産婦人科医のなり手が少なくなって、
特に地方の病院に産婦人科医がいないという状況を招いている。
結構大きな問題ですね。
少子化の問題の根っこがこんな所にも・・・。


さてそれから、ちょっとうれしいのは、
あのジェネラル・ルージュこと速水医師も、
この北海道に来て、やはり救急医療に奮闘しているという一文があります。
いいですねえ。
そのうちまた、こちらでの活躍も本になるといいなあ。



「極北クレイマー 上・下」海堂尊 朝日文庫
満足度★★★★☆


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