自分らしく輝くこと
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1950年代、第二次世界大戦後のロンドン。
夫を戦争で亡くした家政婦、ミセス・ハリス(レスリー・マンビル)は、
勤め先の家でディオールのドレスを目にします。
ため息が出るほどの優雅な美しさ。
その美しさに魅せられた彼女はコツコツとお金を貯めて、
フランスへドレスを買いに行くことを決意。
そしてようやく資金ができて、ミセス・ハリスはパリへ。
でも実のところディオールの店は、彼女には場違い。
威圧的な支配人コルベール(イザベル・ユペール)に、追い出されそうになりますが・・・。
店の会計士やモデル、サシャーニュ侯爵ら、彼女は出会った人々の心を動かしていきます。
ミセス・ハリスがドレス代を稼ぐくだりも色々あって楽しいのです。
何しろ家政婦で稼ぐだけでは生活するのにやっと。
そう簡単にはお金は貯まらないのですけれど・・・。
イチかバチかの大勝負に敗れてすっかり絶望してみたり、
でも幸運の女神はやっぱりいたようで。
それにしてもクリスチャン・ディオールは庶民にはあまりにも敷居が高い。
お金持ちの夫人らが集まるホールでファッションショーが繰り広げられ、
その中で気に入ったものを注文することになります。
それから採寸と何度かの仮縫い。
まさに、その人のためだけの一品に仕上がるのです。
わがままなご婦人ばかりを相手にしている店の従業員たちは、
現金を抱えてやって来たこの風変わりの客、
ミセス・ハリスを好きになっていきます。
ドレスができあがるまで、こんなに日にちを要するとは思わなかったミセス・ハリスは
宿泊費の用意もなく、あきらめて帰ろうとするのですが、
会計士の青年が自宅に招いてくれるのです。
そして、妻を亡くしているサシャーニュ侯爵も、
彼女に好意を寄せてくれているようで・・・。
さて、ここで侯爵が本気でミセス・ハリスに言い寄ったりしなかったのがよかった。
彼女はほんの少し、期待してしまったのですが。
ここで大金持ちに見出されて結婚などしたら、目も当てられない。
本作はそんなシンデレラストーリーではなく、
あくまでも自らの力で歩む一庶民の女性の物語なのですから。
そんな豪華なドレスを持っていたって、いつ、どんなときにそれを着るのか?
全くムダだろうと、人は言う。
けれど彼女に取ってこのドレスこそが自分の生き様であり矜持であるわけで。
人にはそれぞれ、このドレスのような「何か」が必要なのかも知れません。
それから、ミセス・ハリスが憧れのパリに着いてみれば、街は薄汚いゴミの山。
ちょうど労働者のストライキが行われていて、
ゴミの収集がストップしていたのです。
お金持ちのためだけのドレス、
お金持ちにばかり都合のよい支払いの慣習。
ミセス・ハリスは結局ディオールの店の営業改革にまで貢献してしまった・・・。
ちょうど時代が少しずつ変わっていく所でもあったわけですね。
さて念願叶って、美しく豪華なドレスを手に入れ、帰国したミセス・ハリス。
しかし、物語はそこでは終わらない。
最後のひねりがまたスバラシイ。
まさに、尻尾の先まであんこが詰まったたい焼きみたいな・・・、
おいしい一作でした。
<Amazon prime videoにて>
「ミセス・ハリス、パリへ行く」
2022年/イギリス/116分
監督:アンソニー・ファビアン
原作:ポール・ギャリコ
出演:レスリー・マンビル、イザベル・ユペール、ランベール・ウィルソン、
アルバ・バチスタ、リュカ・ブラボー
女性自立度★★★★☆
自分らしさ度★★★★☆
満足度★★★★★
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