三日月堂、ありがとう!
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小さな活版印刷所「三日月堂」。
店主の弓子が活字を拾い刷り上げるのは、誰かの忘れていた記憶や、言えなかった言葉―。
三日月堂が軌道に乗り始めた一方で、金子は愛を育み、柚原は人生に悩み…。
そして弓子達のその後とは?
三日月堂の「未来」が描かれる番外編。
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本年1月に出ていた最新刊です。
何と言っても嬉しいのは本巻の始めに1ページだけですが、
本物の「活版印刷」によるページがついていること。
今まで活版印刷の話を読みながらも、でもその文字自体は活版印刷ではなかったのが、
もどかしいところではあったのです。
なるほど、活版印刷の文字。
それは私が子どもの頃読んでいた本の文字を思い出させるような・・・。
いい感じですね。
一文字一文字に力があるような感じがする。
さて本巻、主にこれまでの作中で登場した人々の、
その後のストーリーが主に語られていきます。
例えば、三日月堂で活版印刷の魅力を確信し、店の手伝いをするようになった楓。
高校生の彼女は進路を考える時期ですが、
三日月堂で働きたいと思っているため、大学へは行かなくてもよいと考えています。
お母さんは、やや残念そうではありますが、やりたいことがあるのならそれでもいいか・・・と
本人の希望に任せようと思っています。
・・・それでも、楓は様々な人にふれあううちに、思いが変わっていくのです。
という風に、一篇ずつはそれぞれ納得のいくステキなストーリーではあるものの、
うーむ、弓子さんのその後のことが知りたいな~という、思いがわいてくるのを止められず、
少し欲求不満に。
ところが、ラスト一つ前の話の中に、ごくごくさりげなく
弓子さんと悠生さんの結婚式のことが出てくるのです。
すでにそれは終わっていて、二人は共に三日月堂で働いている。
ひぇ~、肝心なことは書かずにこう来たか。
そしてまたさらに驚かされるのは、ラストの話では、
この二人の間には男の子ができて、保育園の年長さんになっているのです!!
うわー、一気にタイムワープ!!
けれどその中に、弓子さんの保育園児時代の話も出てきて、
それは亡くなったお母さんの思い出でもあり、実にほろりとさせられるのです。
幼くして母親を亡くしてしまうという切なさ・・・。
それは今、弓子さん自身が母親となって、
幼い我が子を残してこの世を去らなければならなくなった母親側の気持ちもよくわかるのですね。
二重の切なさで、また、本の文字が滲んできます・・・。
けれどもとりあえずは皆、生きていく。
三日月堂は少し手を広げて、皆がイキイキと仕事をする場へ。
弓子さんの息子はまもなく一年生。
未来への道が広がるようで、嬉しくなってしまいます。
三日月堂、ありがとう!!
<図書館蔵書にて>
「活版印刷三日月堂 小さな折り紙」ほしおさなえ ポプラ文庫
満足度★★★★★
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