一人の生きた跡の波紋
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富士山の間近でマーケットストア「富士ファミリー」を営む、
小国家三姉妹の次女・ナスミ。
一度は家出をし東京へ、のちに結婚し帰ってきた彼女は、
病気のため43歳で息をひきとるが、その言葉と存在は、
家族や友人、そして彼女を知らない次世代の子どもたちにまで広がっていく。
宿り、去って、やがてまたやって来る、
命のまばゆいきらめきを描いた感動と祝福の物語。
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本作、第14話までの章立てとなっているのですが、
なんと驚くことに、主要登場人物と思われる“ナスミ”が、第一話で死んでしまうのです。
小さなスーパーマーケットを営む小国家三姉妹の次女・ナスミ。
病のため、病院で息を引き取りますが、
その間際、途切れがちの意識の中でベッドの回りで
バタバタする人々の足音とか、
時々覆い被さってくる看護師の気配などを感じている。
妙にリアリティがあります。
そうして静かに旅立って行ってしまった43歳、ナスミ。
つまりは、本作はこの1人の死が周囲の人々の心にさざ波を起こす。
その一人一人に焦点を当て、それぞれの章立てが成り立っているのです。
例えば第2話では、姉・鷹子が、覚悟を決めていたけれどもついに来た、妹の最期の日。
ナスミが息を引き取ってから、呆然とする暇もなく、
その後の手続きやら葬儀のあれこれやらに心を飛ばす様子が描かれます。
今はまだ、悲しんでいる場合では無いと、気を張っている様子。
第3話は妹・月美。
彼女は結婚して家を出ていて、ナスミの死の連絡を受け、
様々な物思いにふけります。
第4話は、ナスミの夫、日出男。
日出男は東京でナスミと出会い結婚しましたが、
生活をやり直すため、夫婦でナスミの実家に戻ってきていたのでした。
葬儀の準備などに心は囚われながらも、
ぼんやりとナスミのことを思い出し、
まだその死を現実のこととしてとらえられていないような感じ・・・。
とここまでは、ナスミの死からすぐ後の出来事なのですが、
その後次第に過去へ、未来へ、時間の間隔が開いて行きます。
水の波紋が遠くへと広がっていくかのように。
人一人の「生」は、その人が亡くなったからと行って、
それで終わってしまうわけではないのですね。
このように、その人の周囲にあったさざ波が、
時にやんわりと、その人を心に生き返らせる。
最後の第14話には驚かされます。
ナスミの死からうんと時を超えて、
血はつながらないけれども「孫」のような存在である女性が主役。
しかしそれでもちゃんと出来事はつながっている。
じんわりと胸に迫る家族と時の物語なのでした。
「さざなみのよる」木皿泉 河出文庫
満足度★★★★★
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