映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ある海辺の詩人ー小さなヴェニスでー

2013年07月24日 | 映画(あ行)
見たことのないイタリア



* * * * * * * * * *

小さなヴェニスとも呼ばれるイタリアの港町キオッジャが舞台です。
派手な観光地ではなく、
地元の人が昔ながらの生活を送ってきた場所。
そして、ラグーナ(潟)にあるこの土地の風景は、
人々の生活に馴染んでいて、とても風情があります。
いつも太陽が輝いている陽気な観光地・・・という
イタリアのイメージとは全然違うのがまた新鮮。
へえ、これもイタリアなんだ・・・と
新しい発見をしたような気持ちになりました。



この町の酒場(オステリア)で、
いつか、中国に残してきた息子を呼び寄せようと願っている
シュン・リーが働くことになりました。
彼女は、そこの常連の一人でスラブ系移民の老人ベーピと知り合います。
ベーピは妻を亡くして一人住まい。
今は漁師の仕事もリタイアして、孤独な日々。
この二人は互いの孤独をわかちあうように打ち解けていくのですが、
この小さな町で、二人のことが良くない噂となって広まってしまいます・・・。



生まれ育ったふるさとから遠く離れている、
ということで、二人には共通点があるのです。
そしてベーピは時折詩のように韻を踏んだ言葉を発するので、
皆に「詩人」と呼ばれたりしています。
シュン・リーも古の中国の詩人を大切に思っています。
ただ時折話をして、それだけで慰められていた二人なのですが・・・。



始めはベーピのほうが、
貧しく言葉もよくわかっていないシュン・リーを慰めているように思えたのですね。
けれど互いの交流を心の拠り所としていたのは、
ベーピの方だったわけです。
確かにシュン・リーのほうが若いし、
子供を待つという希望も持っています。
何より女の方が精神的にたくましいというのは世の常・・・。
いつも店に来て威張り散らしている大男のデヴィス。
全くいけ好かない奴なんですが、
あるとき奥さんが乗り込んできて
「またこんなとこで遊んでるっ!! 
たまには子供の面倒を見なさいよ!!」
とがなりたて、子供を押し付けて去っていってしまう。
彼は何も言い返せずタジタジ
・・・というシーンが妙におかしくて笑ってしまいました。
ほら、やっぱり女は強いですよね!



それはさておき、運河に浮かべた燈明が、物悲しく美しい・・・。
東洋と西洋の融合ですね。
ふるさとを喪失した二人ですが、
実はここが新たなるふるさとと出来ればとても良かったのですけれど・・・。
でも結局、安住の地とはなり難かった、というのも悲しい・・・。


大潮の満潮の時には、運河から路上にまで水が溢れだし、
店の中も水浸し。
けれどそれが普通の生活のようなのです。
遠い昔から変わらずにいて、時も止まったような町。
でも少しずつの変化は確かにあるのです。
ある者は現役を退いて、年金生活に入り
またある者は、この地を去っていく。
変わらぬ自然や風景のなかで、
人々は己の小さな変化に心揺らめく。



見知らぬ街に郷愁を感じる、不思議な感覚の作品でした。
私達とは明らかに異なる文化のイタリア。
そこに中国人が住まうことで
ちょっぴり東洋に近づいたのかもしれません。


「ある海辺の詩人ー小さなヴェニスでー」
2011年/イタリア・フランス/98分
監督・脚本:アンドレア・セグレ
出演:チャオ・タオ、ラデ・シェルベッジア、マルコ・パオリーニ、ロベルト・シトラン、ジュゼッペ・バッティストン
郷愁度:★★★★☆
満足度★★★★★


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2 コメント

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中国パワー (たんぽぽ)
2013-07-26 20:30:36
>こにさま
確かに感じました。中国がどこの国にでもたくましく進出し根を下ろしていくこのパワー。スゴイですね。いつ終わるのかもわからない借金のため・・・って、まるで女工哀史のような待遇が今もあるのでしょうか。本作、時代は現在だったのでしょうか。もう少し古い時代かな?
今、ここまで経済的に発展した中国でも事情はやはり同じなのかな?と心配になりました。
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浸水 (こに)
2013-07-26 08:32:47
大潮の時期の浸水もごく当たり前の気象現象と受け入れて暮らす人びと。
日本とは少し違う暮らし方だけれど、船からみた雪を頂いた山々の風景は富山みたいで親近感がわきました。
漁師町の男たちは荒くれでも純朴なんですね~。
シュン・リーが悪い人間というわけではありませんけど、確かに女の方がしたたかに生きていますね。

中国パワーは全世界に及んでいるのだと、この映画から教わりました!
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