映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「ほの暗い永久から出でて 生と死を巡る対話」上橋菜穂子 津田篤太郎

2020年12月04日 | 本(解説)

自分を生み出したものと、滅ぼそうとするものは同一

 

 

* * * * * * * * * * * *

人はなんのために生まれ、生きて、死ぬのか。
『精霊の守り人』で知られる作家が最愛の母の死を看取る日々の中で、
聖路加国際病院の気鋭の医師と交わした往復書簡。
豊かな知性と感性に彩られた二人の対話は驚きに満ち、
深く静謐な世界へと導かれていく。
未曾有のパンデミックに向き合う思い、未来への希望を綴った新章を追加。

* * * * * * * * * * * *

上橋菜穂子さんと、聖路加国際病院の医師・津田篤太郎さんの
往復書簡という形で語られる「いのち」についての話です。

上橋菜穂子さんがお母様の死を看取る日々を過ごし、
その時に津田先生にお世話になったそう。
本巻では、双方の体験を踏まえ、命のことをいろいろな角度から考察しています。

 

そんな中で、
「自分を生み出した者と、自分を滅ぼそうとする者は同一不可分」
という話があります。

例えば、私たちを取り巻く自然は豊かで、多くの豊穣を生み出し、
私たちを生かしています。
しかしその力が極端に強まれば、地震や洪水となって私たちに襲いかかり、
滅ぼそうとします。

また、私たちの知る神話エディプスの物語や、
中国の阿闍世の逸話にもあるそうなのですが、
親が子を殺そうとするのです。
まさに、自分を生み出した者が自分を滅ぼそうとする。
矛盾に満ちていますが、生と死は実は不可分、同一のもの
・・・と言うのはどこか安らいだ感じがします。

 

上橋菜穂子さんの守り人シリーズに描かれる、
意識の世界“サグ”と無意識の世界“ナユグ”は、
全く別のもののようでいて、実は双方つながっていて同一のものである、
という世界観にも重なっているのです。

深いなあ・・・と、感服。

 

それから、一般的に生命は次の世代を生み出すためにあって、
その個体の生殖行為が終わればその命も終わる、
と、ほとんどそういう風にできている。

人間、特に女性は閉経後明らかに老化が進み、
死の方向に勝手に体が変化していきます。
まさに、それが自然の摂理というべきもの。
だけれど私たちは「種の継続」ではなく「個」として、
もっと長く生きたいと思う。
それが私たちが生きる上でのそもそもの矛盾なのだろう、と。
私たちはなぜ「生きる」のか、
それが永遠の命題なのも当然なのかもしれません。

 

そして本巻、「未曾有のパンデミックにどう向き合うか」
という新章が追加されています。
このコロナ禍のこと。
100年前のスペイン風邪大流行を人々がどのように乗り越えたか、
が参考になるかもしれないと津田先生はおっしゃっています。
漢方も有効なのでは?と。

いずれにしてもお医者さまでない身としては、
今はじっと身を潜めて、危険が去るのを待つしかなさそうです・・・。

 

「ほの暗い永久から出でて 生と死を巡る対話」上橋菜穂子 津田篤太郎 文春文庫

満足度★★★★☆

 

 



最新の画像もっと見る

コメントを投稿