民族間のミゾに架ける橋
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世界的に名の知られる指揮者エドゥアルド・スポルク。
紛争中のイスラエルとパレスチナから若者達を集め、オーケストラを結成し、
平和を祈ってコンサートを開くというプロジェクトに請われて参加します。
オーケストラには双方から20名の若者が集まりました。
パレスチナ側からは、家族の反対や面倒な軍の検問を乗り越えなくてはならず、
来るだけでも大変です。
そして、集まるとさっそくぶつかり合う若者達。
スポルクは、コンサートまでの3週間、
アルプスでの合宿に若者達を連れ出すことにします。
衝突し合いながらも、互いの音に耳を傾け、経験を語り合うことで
少しずつ心を一つにしていく若者達。
ところが、コンサート前日にある事件が起こります・・・。
彼らは音楽の練習を始める前に、
まず互いを認め合うという練習以前の問題を解決する必要があったわけです。
なぜこんなにいがみ合うのか。
一人一人の話を聞いてみれば、誰もが身内の誰かが相手の国にひどい目に会い恨みを持っていたりする。
家を追い出されて、故郷に帰ることができなくなった。
テロリストに殺された・・・。
今ではどうにもならない双方の歴史に刻まれた谷間。
いやいや、でもここに集まったメンバーに限って言えば、
個人的な恨みやつらみはないはず。
そしていよいよ彼らはスポルクの身の上をも聞くことになります。
スポルクの父親はナチス所属の医師で、
戦後ドイツから他国へ亡命しようとしたところを見つかって射殺されたというのです。
けれどその後も「ナチスの子ども」と人々から誹られて
いまだに嫌がらせを受けることもある、と。
確かに、イスラエルに住むユダヤの人々にとっては天敵のような存在なのかもしれません。
でも、本人には何の責もないこと。
こんな風に、多くの人がが歴史を引きずって恨みや偏見を持っているけれど、
いま、自分たちのしようとしていることに、それは何の関係もないのだ、
と、次第に気づいていくわけです。
しかし、それはいいのだけれど、逆に接近しすぎた男女がいて・・・
というのがラストの悲劇に繋がって行きます。
民族間の諍いは、若い人なら乗り越えていけるのかも知れない。
けれど、簡単なことではない、ということなのでしょう。
世界的指揮者ダニエル・バレンボイムと米文学者エドワード・サイードが、
1998年に設立したウエスト=イースタン・ディバン管弦楽団が本作のモデルだそうです。
イスラエルとアラブ諸国から集まった若者達で結成されているとのこと。
民族間のミゾを少しでも埋めようとする取り組みは、貴重ですね。
本作ラストに奏でられる「ボレロ」が胸を打ちます。
<WOWOW視聴にて>
「クレッシェンド 音楽の架け橋」
2019年/ドイツ/112分
監督:ドロール・ザハビ
出演:ペーター・シモニスチェク、ダニエル・ドンスコイ、サブリナ・アマーリ、メフディ・メスカル、ビビアナ・ベグロー
民族間のミゾ度★★★★☆
満足度★★★★☆
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