心の奥へのドライブ
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ここのところまた、札幌でもコロナ感染者数が大きな山となっており、
映画館通いもまた自粛しなければ・・・と思ったところなのですが、
イヤ、でもこれだけは見逃せない、ということで見に行ったのが本作。
西島秀俊さん出演なのはもちろんですが、
村上春樹さん原作というところでも外せません。
本作は村上春樹さん短編集「女のいない男たち」の中の「ドライブ・マイ・カー」を原作としていますが、
その中の別のストーリーもいくつか取り入れられていて、
なかなか重層的な奥深い物語になっています。
179分、すなわち3時間近い長さでありながらも、
全然その長さを感じませんでした。
舞台俳優で演出家の家福(カフク)(西島秀俊)は、
脚本家の妻・音(霧島れいか)とともに満ち足りた生活を送っていました。
しかし、妻はある秘密を抱えたまま他界。
その2年後、喪失感を抱えたまま生きる家福ですが、
ある演劇祭で演出を担当することになり、愛車サーブで広島へ向かいます。
演劇の出演者の一人として、
かつて妻と仕事をしたこともある若手人気俳優の高槻(岡田将生)も姿を現します。
家福は、専属ドライバーみさきの運転で、
宿泊先から広島市中の会場までを毎日車中で過ごすことになります。
家福は寡黙なみさきとともに過ごすひとときの中で、
これまで目を背けていたことに気づかされるようになっていく・・・。
原作が村上春樹さんなので、毎日あまり変化のない生活が続く中で、
ちょっとした人との会話やほんのかすかな出来事、そして過去の出来事の反芻が、
自身の心を深く掘り下げていくという基本的パターンはそのまま。
中でも、チェーホフの演劇「ワーニャ伯父さん」の練習風景の中で、
家福たちの心境とリンクするセリフなどが出てくるあたりが実に秀逸。
カンヌ映画祭での脚本賞受賞というのにも納得です。
そしてまた、この家福プロデュースするところの演劇というのがすごくユニークなのです。
(ここの部分は原作にはありません。)
俳優たちは日本人だけではなく国際的。
日本語、英語、中国語、韓国語・・・それぞれの言語が入り交じります。
(上演の際には字幕が出る。)
しかも本作で中の一人の言語は「手話」なのです。
手話での演劇シーンは、意味も良くわからないままに、
深く心を揺り動かされる感じがしました。
始めの「本読み」の仕方もかなり独特。
できるだけ感情をこめずにゆっくりはっきりと読み上げるという本読みは、
実際に「濱口メソッド」と言われているそうです。
演劇には全く不案内の私ですが、非常に興味深く見ることができました。
映画作品でありながら、演劇の面白さまで味わえてしまうというお得な作品なのです。
俳優さんたちは、本作のストーリー上の演技と共に、劇中劇の演技もしなければならなくて、
まさに実力が試される所だったのではないでしょうか。
だから、薄っぺらな演技では浮いてしまいそうな本作の中で、
西島秀俊さんについてはもちろん心配などしていませんでしたが、
岡田将生さんの健闘が光ります。
一見軽そうなイケメン青年。
けれど彼もまた複雑な内面を持っていて、家福と視線で火花を散らすシーンとか、
強気と弱気の微妙な揺れ加減がなんともすばらしい!
それを言ったら、ドライバー役の三浦透子さんもですね、
終盤以外はほとんどセリフもなく、他の登場人物の影に入り込んでしまう役柄ながら、
次第にその存在感を高めていく。
実は彼女もまた心の奥に大きな欠落を抱えているのであります。
大変な役柄でした。
単調なストーリー進行でありながら、
ほんの些細な登場人物のセリフや行動に、何かが起こる予兆が隠されているようで、
つい緊張して見続けてしまう。
だから、時間を忘れて3時間があっという間に過ぎてしまうのかも知れません。
私、この先村上春樹さんの本を読むときに、
主人公男性に西島秀俊さんを充てて読むようになる気がします。
イメージ、ピッタリです。
サツゲキにて
「ドライブ・マイ・カー」
2021年/日本/179分
監督・脚本:濱口竜介
原作:村上春樹
出演:西島秀俊、三浦透子、霧島れいか、パク・ユリム、ジン・デヨン、岡田将生
村上春樹度★★★★☆
西島秀俊の魅力度★★★★★
満足度★★★★★
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