時空を超えた悩み相談
* * * * * * * * *
東野圭吾氏、注目の新作です。。
今作はミステリというよりもSFであり、ファンタジーであり、
日本の近代史であり、そして庶民の人情物語でもあります。
三人の少年が、夜中に盗んだ車で走行中にエンスト。
やむなく彼らはある古ぼけた商店に入り込み一夜を明かそうとします。
そこはかろうじて建っているというふうで、すでに使われなくなって久しいと見受けられる。
ペンキが剥げ落ちた看板にかろうじて「ナミヤ雑貨店」と読みとれます。
さて、そんなところにシャッターの差し込み口から一通の手紙が舞い込みます。
なぜかそれは自分の悩みを書き連ねた相談の手紙。
どうやらこの店の主が、かつてそのような相談事を受けて評判になっていたらしいのです。
でもそれはもう何十年も前のこと。
それがまだ続いているのかと、少年たちは呆れながら、
でも、その相談に答える人がいる気配も全くないことなので、
自分たちで返事の手紙を書いてしまいます。
驚くことに、牛乳箱に入れた返事の手紙はすぐに消えてなくなり、
その返事がすぐにまた差し込まれてきました。
次第に、その手紙は30年前の過去から現在の自分たちの元へ届いていることがわかってきます。
時空を超えた手紙のやり取りの中で、三人の少年が得るもの。
相談の手紙を書き続けたナミヤ老人の気持ち。
彼らをつなぐ、児童養護施設「丸光園」。
過去と現在を行き来しつつ、まるで魔法のようにこれらのことが浮かび上がってきます。
この構成の見事さには全く驚かされてしまいます。
私は特に少年たちが書く悩み相談の回答が気に入ってしまいました。
「家業を継ぐべきか、自分の夢であるミュージシャンへの道を歩み続けるべきか」
という手紙には、
「もうね、何もアドバイスする気がしないです。好きにすればって、いいたいです。
甘い考えで生きている人間は、どっかで痛い目に合えばいいと思っちゃいます。
・・・アホみたいな夢を見ていないで、現実をみなさい。」
なんて書いてしまっている。
通常の悩み相談員の方は、こんなホントのことはいわないですよね。
思っても、もう少し柔らげて書く。
そこがドシロウトの少年たちの忌憚のない意見だから面白い。
当然その手紙を受けた人は憤慨するのですが、
しかし、更にくわえて、難しい自分の事情や思いを書き連ねた次の手紙が届いたりします。
その相談の結果が、すぐ次の瞬間に出るところが、
この自空を超えた手紙のやり取りの便利なところ。
少年たちは次第に、悩みの相談というのは、実は自分で答えは出ていて、
その結論の後押しが欲しいだけなのだということに気づいていくのです。
相談を受けた身としては皮肉な結果が出ていくのですが、
これまで人の相談になど乗ったことも頼られたこともない彼らの心に、
しだいに仄かな温かみと自信が生まれてくるわけです。
このようなSF的設定で、どうしてこんなにも人情味あふれる豊かな物語が紡ぎ出せるのか。
東野圭吾氏の魔法の筆に、翻弄されてしまいますが、
それが実に快いのも確かです。
時のつながりと人のつながりは、結局同じ事なのかも知れません。
そういうものの中に私たちの人生はある。
納得、満足の一冊。
「ナミヤ雑貨店の奇蹟」東野圭吾 角川書店
満足度★★★★★
ナミヤ雑貨店の奇蹟 | |
東野 圭吾 | |
角川書店(角川グループパブリッシング) |
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東野圭吾氏、注目の新作です。。
今作はミステリというよりもSFであり、ファンタジーであり、
日本の近代史であり、そして庶民の人情物語でもあります。
三人の少年が、夜中に盗んだ車で走行中にエンスト。
やむなく彼らはある古ぼけた商店に入り込み一夜を明かそうとします。
そこはかろうじて建っているというふうで、すでに使われなくなって久しいと見受けられる。
ペンキが剥げ落ちた看板にかろうじて「ナミヤ雑貨店」と読みとれます。
さて、そんなところにシャッターの差し込み口から一通の手紙が舞い込みます。
なぜかそれは自分の悩みを書き連ねた相談の手紙。
どうやらこの店の主が、かつてそのような相談事を受けて評判になっていたらしいのです。
でもそれはもう何十年も前のこと。
それがまだ続いているのかと、少年たちは呆れながら、
でも、その相談に答える人がいる気配も全くないことなので、
自分たちで返事の手紙を書いてしまいます。
驚くことに、牛乳箱に入れた返事の手紙はすぐに消えてなくなり、
その返事がすぐにまた差し込まれてきました。
次第に、その手紙は30年前の過去から現在の自分たちの元へ届いていることがわかってきます。
時空を超えた手紙のやり取りの中で、三人の少年が得るもの。
相談の手紙を書き続けたナミヤ老人の気持ち。
彼らをつなぐ、児童養護施設「丸光園」。
過去と現在を行き来しつつ、まるで魔法のようにこれらのことが浮かび上がってきます。
この構成の見事さには全く驚かされてしまいます。
私は特に少年たちが書く悩み相談の回答が気に入ってしまいました。
「家業を継ぐべきか、自分の夢であるミュージシャンへの道を歩み続けるべきか」
という手紙には、
「もうね、何もアドバイスする気がしないです。好きにすればって、いいたいです。
甘い考えで生きている人間は、どっかで痛い目に合えばいいと思っちゃいます。
・・・アホみたいな夢を見ていないで、現実をみなさい。」
なんて書いてしまっている。
通常の悩み相談員の方は、こんなホントのことはいわないですよね。
思っても、もう少し柔らげて書く。
そこがドシロウトの少年たちの忌憚のない意見だから面白い。
当然その手紙を受けた人は憤慨するのですが、
しかし、更にくわえて、難しい自分の事情や思いを書き連ねた次の手紙が届いたりします。
その相談の結果が、すぐ次の瞬間に出るところが、
この自空を超えた手紙のやり取りの便利なところ。
少年たちは次第に、悩みの相談というのは、実は自分で答えは出ていて、
その結論の後押しが欲しいだけなのだということに気づいていくのです。
相談を受けた身としては皮肉な結果が出ていくのですが、
これまで人の相談になど乗ったことも頼られたこともない彼らの心に、
しだいに仄かな温かみと自信が生まれてくるわけです。
このようなSF的設定で、どうしてこんなにも人情味あふれる豊かな物語が紡ぎ出せるのか。
東野圭吾氏の魔法の筆に、翻弄されてしまいますが、
それが実に快いのも確かです。
時のつながりと人のつながりは、結局同じ事なのかも知れません。
そういうものの中に私たちの人生はある。
納得、満足の一冊。
「ナミヤ雑貨店の奇蹟」東野圭吾 角川書店
満足度★★★★★
この作品をお読みになられたんですね、この作品は本来の東野さんらしさ
がでていて私はうれしかったですよ、元々こういうチャレンジ
精神のある方ですから、相談を受ける側は実はそれどころで
はない状況でしかもそれほどの生活を送ってきたわけでも
ないので相談の受け答えがストレートですよね、時間軸がずれて
手紙のやりとりができるっていうのはすごいです。
もともと、時間物SFは大好きなのですが、こういう手があったんですねえ。
いつもながら発想の見事さに、驚かされ、また過去と現在の手紙のやり取りが、ぴったり収束していくのもすごいです。
文句なく楽しめました。