子どもたちの「社会」への反旗
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団地に住む小学生が失踪しては数日で戻ってくる事件が立て続けに発生している。
ついては解明に力を借りたい――
そんな匿名の情報提供を受けたゴシップ誌の若手編集者・猿渡は、
フリー記者の佐々木とともに城野原団地で取材を開始した。
状況から子供たちの意図的な計画であることは明らかだったが、
猿渡らがその真意をつかめぬうちに、
別の子供が授業中の視聴覚室から姿を消してしまう。
子供たちはなぜ順番に失踪しているのか?
俊英による傑作長編、待望の文庫化。
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私、子どもたちの冒険物語が大好きで、
本作もそういうことを期待して読み始めました。
ところが、塾通いでほとんど夏休みを満喫できなかった団地の子どもたちが、
何やら大人たちを困らせることを計画し、実行するのです。
それは彼らが一人ずつ失踪して、2~3日後に何食わぬ顔で戻ってくるというもの。
このおかしな状況を調査するのはゴシップ誌記者二人。
・・・ということで、子どもたちの悪ふざけを大人が本気で調べていくという、
なんとも興味のそがれるストーリーに、
途中で読むのを止めたくなってしまいました。
ところが、です。
子どもたちがこんなことを始めることになったその原因こそが問題なのでした。
それは少し前の夏。
キャンプに行った子どもたちが火事に遭って、
その中の一人の女の子が意識の戻らぬまま今も眠り続けている。
二つに引き裂かれた地域の人々の現状や、
大人たちの事なかれ主義という根っこの問題に、
子どもたちが反旗をひるがえした、と言ってもいい。
なるほど、なかなか読み応えのあるストーリーでした。
途中で止めないで良かった・・・!!
子どもたちの意図を、途中で投げ出さずに最後まで突き止めた記者2人にも、拍手。
・・・って、つまりそのうちの1人には、
最後まで突き止めなければならない事情もあったわけですが。
「夏を取り戻す」岡崎琢磨 創元推理文庫
満足度★★★★☆
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