映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

トイレのピエタ

2020年07月16日 | 映画(た行)

昇華と昇天

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野田洋次郎さんつながりでさっそく見ました。

手塚治虫さんが死の直前まで綴った病床日記に着想を得た作品です。

 

美大を卒業したものの、画家への夢は破れ、
窓拭きのバイトで生活しているフリーター、園田(野田洋次郎)。
ある日突然倒れ、検査の結果ガンで余命3ヶ月と宣告されます。
その時、妹のフリをして一緒に医師の話を聞いたのが、
たまたま知り合った少女・真衣(杉咲花)。
戸惑う園田に、真衣は一緒に死のうと言うのですが・・・。

その時点で、園田はまだ余命宣言でさえ飲み込めていなかったので、
あっさり真衣の誘いを断ります。

しかし、次第に彼は思う。
夢もなく、今は絵を描くことすら止めている。
こんな状態で、一体今自分は「生きて」いるのだろうか。
生きていても死んでも同じではないのか・・・。



しかるに、真衣はなんとも口が悪くて、
「あんたはつらいかもしれないけど、私だってつらい」といって、
しきりに死にたいと口にするのです。
しかし、「簡単には死ねない」という彼女の奔放な行動こそは、
なんとも「生きる力」に満ちあふれている・・・。
園田にはそんな彼女が少しまぶしい。

この、なんとも茫洋とした感じの青年と、エキセントリックな少女の組み合わせが実によくて、
そして配役もバッチリ決まってステキです。

 

「ピエタ」というのはここではミケランジェロの「サン・ピエトロのピエタ」の彫刻をいっているのです。
磔刑による死の後、十字架から下ろされたイエス・キリストの亡骸を腕に抱く聖母マリア。
そのマリアの慈愛に満ちた表情。
園田はそのまなざしを真衣の中に見出し、なんとか絵にしたいと思うのです。

最後の力を振り絞り、トイレの壁に彼は絵を描く。
何でトイレなのかって、まあ、それは見ればわかります。
素晴らしいです。
その絵を描いている間、園田はまさに「生きている」と感じます。

「昇華と昇天」と彼はつぶやいてはいなかったか。
なるほど、生きることの価値は長さではないのだなあ・・・。

思い切った新人起用を埋めようと思ったためか、キャストは豪華実力派で埋められています。
でも確かに園田役は、イケメンのこなれた俳優ではダメだったような気がします。
佐藤健さんが、掃除人役でチョイ出には驚いた!!

 

<Amazonプライムビデオにて>

「トイレのピエタ」

2015年/日本/120分

監督・脚本:松永大司

原案:手塚治虫

出演:野田洋次郎、杉咲花、リリー・フランキー、市川紗椰、古舘寬治、大竹しのぶ、宮沢りえ、佐藤健

芸術度★★★★.5

満足度★★★★★



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