映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「台所のラジオ」吉田篤弘

2017年10月02日 | 本(その他)
一人台所で聞くラジオもいい

台所のラジオ (ハルキ文庫)
吉田 篤弘
角川春樹事務所


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それなりの時間を過ごしてくると、人生には妙なことが起きるものだ―。
昔なじみのミルク・コーヒー、
江戸の宵闇でいただくきつねうどん、
思い出のビフテキ、静かな夜のお茶漬け。
いつの間にか消えてしまったものと、変わらずそこにあるものとをつなぐ、
美味しい記憶。
台所のラジオから聴こえてくる声に耳を傾ける、十二人の物語。
滋味深くやさしい温もりを灯す短篇集。


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吉田篤弘さんの短編集です。
特には関連のない12の物語。
共通するのは、どの話にもラジオが登場するところ。
それも、静かな声で語りかける、聞いても聞かなくてもよさそうな、
いわばバックミュージック的に台所などで聞くラジオ。
登場人物たちはそういう習慣を身につけているのです。


私も昨今、ラジオを聞くことが多いのですが、
もう少しにぎやかなものが多いかなあ・・・。
しかもネットのタイムフリーで聞いていたりするのは、
本作で言う「ラジオ」とはちょっと違うのかもしれない。
吉田篤弘作品に似合うのはもう少しひなびた、
デジタルではなくアナログのラジオであり、レコードであったりします。


巻末で著者ご自身が述べていますが、
ここにあるストーリーは物語の「起承転結」を描くのではなく、
その始まりのところ、
「起承」か、時には「起承転」までで、
「結」には至らないものばかり、と。
物語の始まりの「束の間」の部分を描きたかったとのこと。


確かに、色々な物語が発展する予感がそこにあります。
が、そこは読み手が想像するしかありません。
若干、欲求不満はありながらも、余韻だらけのこの本。
やはりボソボソと静かなアナウンスが続くラジオを聞きながら
読むのがいいかもしれません。


12の物語、直接のつながりはありませんが
ほんの少し、重なっている部分もあるようですよ。
そこを楽しみに読むも良し。

「台所のラジオ」吉田篤弘 ハルキ文庫
満足度★★★☆☆


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