映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

海でのはなし。

2013年06月10日 | 西島秀俊
作用と反作用。それぞれのベクトルが重なるとき。



* * * * * * * * *

これは71分と、コンパクトにまとまった作品でしたね。
CMディレクター大宮エリーの映画監督初挑戦の作品ということです。
それも、スピッツの曲をイメージして、ということなので、
全編スピッツの曲がたっぷり。
途中で西島秀俊さんがスピッツの曲を歌っているところもあるよね!!


両親に愛され、これまでごく普通、というか普通以上に幸せな環境で
まっすぐに育ってきた楓(宮崎あおい)。
ところが、実は母は父の愛人で、自分は私生児だったことを知ります。
傷ついた楓は、博士(西島秀俊)のもとへ・・・。
「博士」は、本当はヒロシという名前なんだけど、楓はハカセと呼ぶんだね。
というのも、博士は大学で物理の非常勤講師をしているから。
彼はいつも楓の愚痴やら何やらを優しく受け止めてくれる存在。
楓は彼のことを好きなのだけど、博士の方の気持ちがわからない。
二人は真っ暗な夜の海岸で、時を過ごします。
果てしなく暗く広がる海。
波の音だけが聞こえます。
そんな中ではヒトの悩みなんかちっぽけにおもえる。
そしてなんだか素直になれる気がする・・・。
ついに思いを打ち明ける楓でしたが・・・。


博士はなかなか複雑な男なんだよねえ・・・
彼は職場の飲み会も断るくらい、人との関わりを避けて生きてる。
というのも、両親との軋轢が影を落としている感じ。
楓にはとても優しいけれど、偽りの気持ちで抱きしめることはできない、と。
う~ん、つまりね、彼は自分の悩みのほうが大きくて、
人を包み込む余裕がない、というのが本当のところだったんじゃないかと思う。
だからさ、ラスト近くのシーンの彼、
抱きしめてほしいのではなくて、抱きしめてあげたくなるでしょ。
そうなんだよね~。
そういう母性本能くすぐる感じ、いつもの表面上優しい彼ではなくて、
つかの間見せた、己の無力さにうちひしがれているような、
そういうところに、女性はよれよれになっちゃうよねー。
いやー、なんというか、こういう西島秀俊が見たかったのよ、
というそのものずばりの作品でしたね。
宮崎あおいさんもかわいかったしー。
本来もっとドロドロ陰湿になってもよさそうなに、けっこうさわやかな感じ。
良質の短編を読んだような感じでした。
これがまさに、スピッツの曲らしさだよね。
だけどね、私もスピッツの曲は大好きなので、
この曲が流れるのはいいのだけれど・・・
何か問題でも?
曲が好きすぎるので、どうも曲の方に意識が流れちゃって、
なんだか画面に集中できないところがあったのだな。
全部じゃないけど、そういうところも確かにあったなあ・・・。
ちょっと逆効果でした・・・。


それから、本作では、楓と博士がどのように知り合ったのかは説明されていないよね。
短い作品だしね、そこは適当に想像して、というところなんでしょう。
はい。そこで想像しました。
楓は学生で博士は社会人。
けっこう歳の差はあるように思う。
きっとね、博士は楓の家庭教師をしていたのではないかなあ。
だから博士は楓の父親のことも知っていたわけだ。
なるほど~。
でも、楓の友人と博士がイヤに馴れ馴れしい間柄のようだったのが
また、謎を呼ぶのだけれど・・・。
ああ、そちらはたぶんイトコ関係とかなんかなんじゃない?
いわれてみればそんな感じもするね。
つまりは、楓と博士はそういう親しさの中にあって、しかし恋人未満であったというわけ。
すみません、勝手に想像して、勝手に納得してしまいました!!

海でのはなし。 [DVD]
大宮エリー
ポニーキャニオン



2006年/日本/71分
監督・脚本:大宮エリー
出演:宮崎あおい、西島秀俊、天光眞弓、穂積ぺぺ、菊地凛子
爽やかに人生を語る★★★☆☆
西島秀俊の魅力度★★★★★
満足度★★★★☆

奇跡のリンゴ

2013年06月09日 | 映画(か行)
「奇跡」なのはリンゴではなく、この男とその家族。



* * * * * * * * *

不可能といわれたリンゴの無農薬栽培に取り組み続けた
木村秋則さんの実話を映画化したものです。


青森県中津軽郡。
リンゴ農家の娘、美栄子(菅野美穂)と結婚し、
婿入りした秋則(阿部サダヲ)。
彼はもともと機械いじりが大好き。
時計やテレビ、バイク・・・なんでも分解し、その仕組を研究。
そういうことに熱中してしまうのです。
そんな彼が、妻が農薬で苦しんでいるのを見て、
なんとか農薬なしでリンゴを作ることはできないかと思い立つのです。
根っから研究好きの秋則に、無農薬栽培の火がつきます。
しかし、農薬を断てば、リンゴの木にたちまち害虫や病気が襲い掛かる。

私財を投げうち10年・・・。
貧困と周囲の無理解に苦しみながら、
それでも諦めずに家族で支えあい、無農薬の取り組みを続けます。



リンゴは人間が長い年月をかけて改良を繰り返し、
ようやく今に至っている。
だから、「お嬢様」のように大切に大切に扱わなければダメなのだ。
今更、原始に返そうとしても無理・・・、
地元の人はみなそう思っていたのです。
これで病気や害虫を移されてはたまらない、と。
それでほとんど村八分のような状況に陥ってしまう木村家。


しかし、私はまず、ここのお父様の心意気に打たれました。
他の農家でも特に年配者は、
無農薬には絶対反対の立場を取る人が多かったのです。
けれども、義父は、秋則の熱意を汲んで、
無農薬栽培を承諾します。

たぶん、娘の苦しみを見続けて来たためでもあるのでしょうね。
無情にもリンゴの木にたかる無数の毛虫たち・・・。
リンゴ畑の一角で作る他の無農薬の野菜はたわわに実っているのに、
なぜリンゴだけはダメなのか・・・。
1年や2年ならわかりますが、これが9年、10年となるともう壮絶としかいいようがありません。
リンゴは花も付けず、当然実もならない。
農家の収入はゼロ。
僅かな野菜を売り、冬は出稼ぎに出て・・・。


「あきらめない」というのは簡単ですが、
この場合それを貫き通すのは死活問題。
それができたのは、もちろん本人の強い意志もありますが、
なんといっても家族なのであります!! 
先ほど上げたお父さんもさることながら、
奥さんがすごいですよねー。
夫を信じ応援し続ける。
私なら資金が尽きたところでもうやめようと言いますね、絶対。
家族が皆で支えあったからこそ、あきらめないで頑張ることができた。
又、そうしたことが町の人達の心も少しづつ変えていくというのがいいなあ・・・。



ラストは泣けます。
満開のリンゴの花。
なんと美しい・・・。
このストーリーの「奇跡」は、リンゴが成し遂げたのではなく、
秋則とその家族が成し遂げたのだと、思う次第。
やはり、真実は重い。
彼がみつけた「答」も、すごく納得のいくものでした。



「奇跡のリンゴ」
2013年/日本/129分
監督:中村義洋
出演:阿部サダヲ、菅野美穂、池内博之、笹野高史、伊武雅刀

家族の支えあい ★★★★★
不屈度★★★★★
自然の摂理★★★★☆
満足度★★★★☆

イノセント・ガーデン

2013年06月08日 | 映画(あ行)
禁断の世界への鍵



* * * * * * * * *

韓国のパク・チャヌク監督、ハリウッドデビュー作です。
本作はけっこう監督の手腕を感じる部分が多くて、
さすが!!と思いました。



インディア(ミア・ワシコウスカ)は、18歳の誕生日に、父を事故で亡くします。
その葬儀の日、
行方不明となっていた叔父チャーリー(マシュー・グード)が突然現れ、
一緒に屋敷で暮らすことに。

始め、この叔父の絡みつくような視線を不気味に感じ、
彼を避けていたインディアですが、
次第に自分と重なる部分が見え、惹かれて行く・・・。
しかし、その頃から身の回りの人物の不可解な失踪が続きます。



オープニングで時折停止する映像(こんなのは、初めて見た!!)。
ぐるぐる回るインディアの背景。
これは一体どういうカメラワークかとおもったら、
彼女が回転する遊具に乗っていたというわけなのですが、
このめまいのするようなシーンも印象的。
それから、虫が多発するのにも心がザワザワします。
クモがインディアの足を這い上がっていく・・・。
これなどは、イヤというほど不快感・不安感をあおります。
不気味な緊迫感が最後まで張り詰めて、
ずっと目が離せない作品となっています。



インディアが母親のイヴリン(ニコール・キッドマン)と
全く相容れないのはどうしてなのでしょう。
普通は母娘の愛情の証のシーンであるはずの、髪を解くシーンが、
こんなにも緊張感に満ちたシーンになってしまうというのも怖いですねえ・・・。
母は母なりに娘の中の何か相容れない部分を嗅ぎとっており、
その緊張感を娘がまた感じてしまうから・・・
だからこういう母娘になってしまったのかもしれません。



18歳の誕生日のプレゼントとして得たのは、
インディアの禁断の世界への鍵。
“戦慄の後の陶酔”とのキャッチコピーですが、
これを陶酔といってしまってもいいのか。
・・・私たちの心のなかにはそういう部分もあるということなんですね。
なんとも怖い作品です。
ホラーとかオカルトとかの怖さとはまた別。


こちらのモノクロイラストのチラシもスキなんですよね~

「イノセント・ガーデン」
2013年/アメリカ/99分
監督:パク・チャヌク
出演:ミア・ワシコウスカ、ニコール・キッドマン、マシュー・グード、ダーモット・マローニー、ジャッキー・ウィーバー

不安感:★★★★☆
満足度★★★★☆

その夜の侍

2013年06月06日 | 映画(さ行)
孤独を抱え込んだサムライたち



            * * * * * * * * *

鉄工所を営む中村(堺雅人)は、
5年前、妻をひき逃げ事件で失っています。
以来無気力な日々を過ごしているのです。
一方ひき逃げ犯の木島は、結局捕まり、刑期を終えて出所。
しかし反省の色など全くなく、
冷酷な性格そのままに暴力沙汰は日常茶飯事。
その木島のもとに毎日脅迫状が届き始めます。
「おまえを殺して俺も死ぬ。決行まで○○日」 
毎日届くそれは、決行日までがカウントダウンされていきます。



つまりそれは中村の復讐心によるものなのですが、
演じるのが堺雅人さんということでわかる通り、
彼はそういう暴力的なこととは程遠い、おとなしい雰囲気の男なのです。
中村は、亡くなった妻が最後に残した留守電の声を、
毎日何度も繰り返し効いています。

「また隠れてプリン食べてるでしょ。
ちょっと冷蔵庫の中見てほしいいの。
納豆があるかどうか・・・」

あまりにも場違いなくらいの日常。
中村はそんな何気ない会話がもう決して得られないことに
限りなく絶望しているのです。
復讐と言うよりも、あまりにも深い孤独と絶望の中で
生きる意欲も、自分の本当に欲しているものもわからなくなってしまっている。



また木島(山田孝之)の方は、
なにを考えているのか全くわからないところに怖さがあります。
人の痛みなど全く気にならず面白がる。
命などこれっぽっちも大切に思わない。
残虐で気まぐれ。
彼にいつも付き従っているのが小林(綾野剛)ですが、
彼さえも木島の考えていることは全くわからないという。
しかし、日頃の強がりをよそに、中村の脅迫状に怯えを見せるあたり、
やはり宇宙人ではなく、人間であったのですね。



最後に台風の大雨の夜、二人は対峙します。



さて、「侍」というのはどっちの事だったのかな?
はじめは中村の方だと思ったのですが、
木島のやさぐれた一匹狼風の「侍」という見立ても悪くないと思いました。


相手がどうしようもないワルと知っていてさえも、
人は人とのつながりを持ちたがるものなのか。
孤独を抱え込んだ男たちの悲痛な物語でした。

その夜の侍 [DVD]
堺雅人,山田孝之,綾野剛,谷村美月,高橋努
キングレコード


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「その夜の侍」
2012年/日本/119分
監督:赤堀雅秋
原作・脚本:赤堀雅秋
出演:堺雅人、山田孝之、綾野剛、谷村美月、高橋努
男たちの孤独度★★★★☆
満足度★★★☆☆

オブリビオン

2013年06月05日 | 映画(あ行)
のめり込めない・・・



            * * * * * * * * *

2077年、エイリアンの攻撃により地球は壊滅。
人類は他の星への移住を余儀なくされます。
地球に残り、まだ残っているエイリアンの脅威に対し
監視任務に就いているジャック・ハーパー(トム・クルーズ)は、
墜落した謎の宇宙船の中で、
眠っている美女ジュリア(オルガ・キュリレンコ)を発見。
なぜか彼女は、度々ジャックの夢のなかに出てくる女性とそっくり。
ジャックは彼女を保護しますが、
やがて、ビーチと名乗る男に捉えられ、驚愕の事実を聞かされるのです・・・。



表題の「オブリビオン」は「忘却」の意味。
ジャックは、この任務に就く前にそれまでの記憶を消されているのです。
非常にシンプルで美しい中空に浮かぶ住居。
しかしあまりにも無機質で生活感がない。
それはジャックの失われた記憶とあいまって、
何やら非人間的な気配すら漂わせている・・・。
そんなジャックのアイデンティティを揺るがす真実が、
周りの状況すらも変えていく・・・ということなのですね。



壊滅した地球。
破壊されたビルや橋。
上空にはこれ又破壊された月が浮かぶ。
何やら夢のように寂寥として、
そして美しかったりします。
エイリアンはまず月を破壊し、そのことによって地球に大きな天変地異が生じる、
という設定は、なるほど~と思わせられました。
そして又、この物語はラズストーリーでもあります。
ジャックはヴィクトリアという女性と共に任務にあたっており、
まあつまり個人生活の上でもパートナーであるわけですが、
なぜか別の女性の夢ばかり見てしまう。
それは、失われた記憶の断片であろうと想像がつくわけですが・・・。
自分の本当の記憶、そして本当の愛。
ジャックはそれを取り戻していく・・・。



こうして振り返れば映像もシンプルで美しく、その愛も美しい。
だけれども・・・、
なんだか私にはのめり込めなかったのだなあ。
あまりにも無機質なので、どうにも愛着がわかないというか。
感情移入もしがたく・・・。
熱くなれない。
ほとんど好みの問題なのでしょうけれど、
私としては残念な結果となりました。



しかし、無人偵察機のドローンはユニークでした。
無人・・・というよりもつまりはロボット。
可愛い形をしてるくせにこれが又、いかにも“機械”で、
感情を持たないところが妙な緊張感を醸していたので、
これはマルでした。

「オブリビオン」
2013年/アメリカ/124分
監督:ジョセフ・コジンスキー
出演:トム・クルーズ、オルガ・キュレリンコ、モーガン・フリーマン、メリッサ・レオ、アンドレア・ライズボロー
メカの美しさ★★★★☆
寂寥度★★★★☆
満足度★★☆☆☆

「きのこいぬ 4」蒼星きまま

2013年06月04日 | コミックス
新展開だが・・・

きのこいぬ 4 (リュウコミックス)
蒼星 きまま
徳間書店


            * * * * * * * * *

きのこいぬ、第四弾。
今回は新展開がありました。
これまで、きのこいぬを囲む人たちは、ほとんど固定していました。
ほたるとその友人、矢良くんとこまこちゃんの二人。
そこへこの度は、中学生の女の子登場。
そしてなんと、きのこいぬが誘拐されてしまうという大事件!!
しかしきのこいぬはあえて誘拐犯について行ったフシも見受けられ・・・。
そしてこのたび、きのこいぬはなんとケータイで文字を打ってみせるという離れ業を使います。
これまで字は覚えても、あまりにも下手くそで
判読しがたいという難があったのですが、
ケータイならノープロブレムということか・・・。
そして又、驚くべき展開が・・・。


変化はいいのです。
でも正直いって私には、連載を伸ばすために
無理やりストーリーを展開させたと感じられてしまいました。
もっと3人のささやかな日常を続けて欲しかった。
私がきのこいぬに望むのは「ストーリー」ではなくて、
ひたすら「癒し」だったもので・・・。
正直、この女の子もあんまり好きになれないし・・・。
というわけで、この先はもう読まないかも、です。

ほたるは絶対料理をそつなくこなすタイプだと思うけどなあ・・・。
もこみちくんほどではないにしても。

「きのこ犬4」蒼星きまま 徳間書店 リュウコミックス
満足度★★☆☆☆

エクスペンダブルズ2

2013年06月02日 | 映画(あ行)
消耗品はどっち?



            * * * * * * * * *

“消耗品”の傭兵軍団のストーリー続編。
またまた派手なアクション満載のおじさまたちです。
この度は、東欧の山岳地帯に墜落した輸送機から
積荷のデータボックスを回収するという要請を受けて、
彼らは出動します。
しかし、それを狙う凶悪な武装集団に襲われ、
大切な仲間(それも若い!!)を一人失ってしまいます。
データボックスにあったのは、膨大なウラン鉱石の在り処。
それを掘り出すために、
一味は近辺の村から男たちを拉致に近い状況で連れ去り、
強制労働をさせていた・・・。



こういう作品はどうにも解説のしようがないですね。
アクションと成り行きをひたすら楽しめばいいという感じです。
自ら“消耗品”と名乗りつつも、
彼らは決して命を粗末にするわけではありません。
たった一人の若者の命を惜しみ、リターンマッチにかけようとする。
う~ん、これってもしかすると消耗品なのは相手方のことだったりして・・・。
男たちの熱すぎる友情と肉体。
まあ、たまには悪くありません。

  

アーノルド・シュワルツェネッガーはここでも「帰ってきた」を連発しますが、
ほとんど道化に近い登場の仕方で、
彼の本領を見たければ、
やはり「ラストスタンド」をご覧いただくと良いです。



エクスペンダブルズ2 [DVD]
シルベスター・スタローン,ジェイソン・ステイサム,ジェット・リー,ドルフ・ラングレン,チャック・ノリス
ポニーキャニオン

「エクスペンダブルズ2」
2012年/アメリカ/102分
監督:サイモン・ウェスト
出演:シルベスター・スタローン、ジェイソン・ステイサム、ジェット・リー、チャック・ノリス、ブルース・ウィリス、アーノルド・シュワルツェネッガー

命知らず度★★★★★
満足度★★★☆☆

プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命

2013年06月01日 | 映画(は行)
血の連鎖と因縁



            * * * * * * * * *

サーカスでモーターバイクショーをしているルーク(ライアン・ゴズリング)。
彼はかつての恋人ロミーナに息子ジェイソンが生まれていることを知ります。



「なぜ知らせてくれなかったんだ」と問うルークに、
ロミーナは「だって、突然いなくなったきり、音信不通だったじゃない」
・・・ルークはそういう風来坊的生活をしてきたわけですね。
しかし、ここで突然家族愛に目覚め、ロミーナと息子を養う決心をする。
これを機会に自分自身の生活を立て直したいと
強く思ったのでしょうね。



・・・しかしその方法が間違っていますよ。
銀行強盗で稼ごうだなんて・・・。
始めは確かにうまくいきました。
そこでやめておけばいいものを、何度も繰り返すうちに
ついに警察に追い詰められ・・・。



ライアン・ゴズリングをもっと見ていたかった
という思いも虚しく、主役交代。
ルークを追い詰めたのは新米警官のエイヴリー(ブラッドリー・クーパー)。
勇猛果敢とは言いがたい人物ですが、
行きがかり上警察署内の汚職を暴くという立場になる。
署内の倫理の乱れも確かによろしくはないのですが、
エイヴリーのやり方にはどうにも共感できない。
それはただ自分の保身のための裏切りであるからです。
・・・が、そういう真の人物像とは裏腹に、
町の人々からは尊敬すべき人物と見られ、地位を築き上げていく。


さてさて、それから瞬く間に時は過ぎ15年。
ルークの息子ジェイソンとエイヴリーの息子AJは同い年。
同じ高校で出会うことになります。


父親と息子。
血の連鎖と因縁。
いやいや、そっちの方へ行ってはだめだよ・・・と思う方へ
吸い寄せられるように行ってしまうというのが、
やはり“宿命”なのですね。
彼らの父親の生き様が息子たちのそれに重ね合わされていく。
やはり悲劇は繰り返されるのか・・・? 
最後の最後まで目を離すことができません。
なぜかこの、因縁話のようなストーリー、
私は気に入ってしまいました。



舞台の町の名が「スケネクタデイ」で、
これはモホーク語で「松林の向こう側」という意味だそうです。
それでこの題名というわけですが、
映画のラストで私たちはこのことに思い当たるのです。
“松林の向こう側”には、この重苦しい連鎖を断ち切る新しい世界がありそうな気がします。
だから何だか救われる思いがする。
・・・若さってやっぱりいいですね。

「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命」
2012年/アメリカ/141分
監督:デレク・シアンフランス
出演:ライアン・ゴズリング、ブラッドリー・クーパー、エバ・メンデス、ベン・メンデルソーン、ローズ・バーン

宿命度:★★★★★
満足度:★★★★★