映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「夢幻花」東野圭吾

2016年06月15日 | 本(ミステリ)
黄色い朝顔の謎

夢幻花 (PHP文芸文庫)
東野 圭吾
PHP研究所


* * * * * * * * * *

花を愛でながら余生を送っていた老人・が殺された。
第一発見者の孫娘・梨乃は、祖父の庭から消えた黄色い花の鉢植えが気になり、
ブログにアップするとともに、この花が縁で知り合った大学院生・蒼太と真相解明に乗り出す。
一方、西荻窪署の刑事・早瀬も、別の思いを胸に事件を追っていた…。
宿命を背負った者たちの人間ドラマが展開していく"東野ミステリの真骨頂"。
第二十六回柴田錬三郎賞受賞作。


* * * * * * * * * *

かつて「青いバラ」を作り出すために、
多くの研究家が躍起になったという話は聞いたことがあります。
ここで登場するのは「黄色い朝顔」。
そういえば、見たことはありません。
老人・秋山周治は、ついにその黄色い朝顔を咲かせたと思われたのですが、
その後何者かに殺害されてしまいます。
孫娘の梨乃は、この黄色い朝顔のために祖父は殺されたのではないかと思うのです。
もし黄色い朝顔を本当に創りだしたのなら、
世界的な快挙であり、利益にも繋がる・・・。


さてしかし、黄色い朝顔はそのような植物学的価値とは別に
もう一つの秘密を持っていた・・・。
虚を突かれました。
なるほど、この方がよほど人を狂わせる。


本作の冒頭に悲惨な通り魔殺人事件が描かれているのですが、
その後のストーリーではなかなかその話に繋がりません。
しかし驚くべき真相によって、その事件との繋がりが見えてくる辺りは、
さすがに見事です。
原子力発電の研究をしていた大学院生・蒼太が、
東日本大震災後道を見失ってしまっていたのですが、
最後にその進むべき道を見出していくさまも心地よい。


それにしても黄色い朝顔。
江戸時代には実際にあったそうなのですが・・・。
なぜ失くなってしまったのでしょうね・・・?

「夢幻花」東野圭吾 PHP文芸文庫
満足度★★★★☆

マネーモンスター

2016年06月14日 | 映画(ま行)
格差社会にもの申す



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ジョディ・フォスター監督作品で、主演がジョージ・クルーニーにジュリア・ロバーツ。
豪華すぎて逆に不安になってしまうくらいですが、
しかし、サスガとしか言いようのないナイスな作品でした。



TVの人気財テク番組「マネーモンスター」。
今日もその生放送が始まりました。

人気MC、リー・ゲイツ(ジョージ・クルーニー)がダンスをしながら登場します。
彼にイヤホンで指示を与えているのがディレクターのパティ・フィン(ジュリア・ロバーツ)。
そんな時、一人の男が拳銃を持って乱入。
彼はリーを人質に番組をジャックしてしまいます。
彼は、数日前のこの番組の情報を信用したために、全財産を失ったと訴えるのです。
パティを始めとしたスタッフは、なんとかこの男カイルをなだめながら放送を続け、
この株価暴落の真相を突き止めようとします。



カイルが失った金額は6万ドル。
それを聞いたリーは、
「ちょっと待っていてくれれば自分がその分を返す」といいますね。
わずかな収入で日々をやっと暮らしているカイルには
その言葉は自分をばかにしているように聞こえたことでしょう。
格差社会のひずみが重くのしかかります。
大多数の貧困層と、ほんの一握りの富裕層。
お金はあればあるほど増大していき、無いところには無いまま・・・。
実際納得の行かない世の中です。



だから、生放送を見ている人たちは、始めからカイルに若干好意的なわけです。
でも、最大に彼が同情を集めたのは、カイルの恋人が登場したところです。
カイルをなだめてもらうために警察が恋人の存在をつき止めて、連れて来るのです。
結婚はしていないけれども妊娠中の彼女。
ふつうなら「ばかなことはやめなさい。」と説得する役目です。
でも彼女は違った! 
思い切り放送禁止用語連発で、カイルをののしり始めるではありませんか! 
それを聞いてすっかり落ち込んでしまうカイル。


TVの視聴者のみならず、爆弾ベストを着せられたリーやスタッフまでもが、
彼に同情してしまいました。
そして映画を見ていた私たちも、完全に彼に感情移入してしまいます。
でもあくまでもカイルを捕らえようとする警察は別。
次第にストーリーは警察のほうが敵であるかのような流れになっていきます。



PCソフトを開発した韓国人のプログラマーや、
アイスランドのハッカー集団、
遠い異国で起きているある出来事。
これらがすべてリアルタイムの中で情報のやり取りがなされていく、
というのがいかにも今日的です。
スリリングでスピーディ。
本作は99分と若干短いのですが、このコンパクトさの中にすべてが凝縮されている。
やたら問題意識を煽るわけではなく
やはりエンタテイメントというところが、いい。
面白かった~!!



「マネーモンスター」
2016年/アメリカ/99分
監督:ジョディ・フォスター
出演:ジョージ・クルーニー、ジュリア・ロバーツ、ジャック・オコンネル、ドミニク・ウエスト、カイトリオーナ・バルフェ

現代性★★★★★
スリリング度★★★☆☆
満足度★★★★☆

ヴェルサイユの宮廷庭師

2016年06月13日 | 映画(あ行)
これがホントのヴェルサイユのばら?



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太陽王と言われるルイ14世の栄華のシンボルとして、
ヴェルサイユ宮殿の増改築が行われました。
国王の庭園建築家アンドレ・ル・ノートル(マティアス・スーナールツ)は、
「舞踏の間」という庭園の建設に、
無名の女性庭師、サビーヌ・ド・バラ(ケイト・ウィンスレット)を抜擢し、
共同で取り組むことになります。
夫と娘を亡くし、今は仕事に打ち込もうとするサビーヌと、
妻との仲が冷え込んでいるアンドレは、
造園の仕事を通して次第に心惹かれていきますが・・・。



本作の監督で、また、ルイ14世を演じているアラン・リックマンは
この2016年1月に亡くなっていますね。
ということは、これが遺作ということになるでしょうか。
どんな役で出てきても、このステキな低音のボイスで、
すぐ分かりました。
本作中、国王と気付かずに、サビーヌが気安く話しかけてしまうシーンがあります。
でもすぐに気がつくのですが、
国王はサビーヌの鉢植えを運ぶのを手伝ったりする。
いいシーンですねえ・・・。



ストーリーとしては悪くはないのですが、
当時こんな風に女性が職業を持つと言うのは珍しい事だったのではないでしょうか。
ましてや、庭師って、花の手入れというよりも殆ど土木作業ですよね。
夫が亡くなって生活のすべが必要なのは分かるのですが、
女の身で、どうして、どうやってここまでこぎつけたのか、
私はそういうことの方をもっとじっくり見たかったと思います。
そういうど根性の女性というのはケイト・ウィンスレットにピッタリではありましたが。



そして結局私はフランス庭園よりも、
野趣あふれるイングリッシュガーデンのほうが好きだなあ・・・と。



「ヴェルサイユの宮廷庭師」
2015年/イギリス/117分
監督:アラン・リックマン
出演:ケイト・ウィンスレット、マティアス・スーナールツ、アラン・リックマン、スタンリー・トゥッチ、ヘレン・マックロリー

ヴェルサイユの宮廷庭師 [DVD]
ケイト・ウィンスレット,マティアス・スーナールツ,アラン・リックマン,スタンリー・トゥッチ
KADOKAWA / 角川書店


ロマンス度★★★☆☆
満足度★★★☆☆

前田森林公園 2016年6月

2016年06月12日 | 札幌散歩
藤の香りに誘われて



6月初め、雨の合間に訪れた前田森林公園。
藤の花がみごとです。







カモの親子連れ


オスはこんなところで一眠り・・・
カモも子育てはお母さんの役割なのか・・・


タニウツギも満開で迫力があります。




展望ラウンジ


展望ラウンジから見た光景

サウスポー

2016年06月11日 | 映画(さ行)
倒すのは昨日の自分だった



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ボクシングを題材とした映画は数多くあって、
そして私は特別にボクシングファンでもなんでもないのですが、
見るとつい引きこまれてしまいますねえ。
少し前には「クリード チャンプをつぐ男」を見たのでしたが、それもよかった。



本作の主人公はライトヘビー級世界チャンピオンのビリー・ホープ(ジェイク・ギレンホール)。
本作は無名のボクサーがチャンピオンになるまでを描く作品ではなくて、
主人公はまず始めから無敵とうたわれたチャンピオンです。
しかし、彼は「怒りをエネルギーに変える」などと評されており、
つまりはケンカ戦法とでもいいましょうか、
あまり防御は構わず、とにかくひたすら打とうとする。
そのため最近では一試合終われば顔も体もボコボコの傷だらけ。
それを心配した妻モーリーンは言うのです。
このままでは、パンチドランカーになって選手生命も危うい、と。
しばらくは次の試合も控えるようにと。

妻に全幅の信頼を置いているビリーは、その言葉に従おうとするのですが、
しかし、生来の切れやすく粗暴な性格は変えられない。
ある時、ビリーが起こした乱闘騒ぎに妻が巻き込まれて、
命を落としてしまうのです。
ボクサーライセンスは剥奪され、収入が途絶えたため家屋敷を処分しなければならず、
おまけに娘レイラを養育する資格がないとして、
レイラは養護施設に入れられてしまいます。
そのレイラには
「お母さんじゃなくて、あんたが死ねばよかった」
と言われてしまうのです。



すべてを失いどん底に落ち込んだ彼が、どのように再生していくのか。
そこが見どころ。
世界チャンピオンがみすぼらしいジムの掃除などをしながら、
トレーナーのティック(フォレスト・ウィッテカー)の元で、
新たなボクシングスタイルを身につけていきます。



ストーリーは始めから予測がついてしまいます。
にも関わらず、次第に胸が熱くなってくる。
それはやはりビリーの更生しようという真摯な決意と、地道な努力が、
ホンモノだとわかるから。
本当の強さが身についたなら、仮に人から何を言われても動じない、
そういうものかもしれませんね。
だから、以前の彼は本当の強さや自信をまだ持っていなかったのかもしれません。
キャッチコピー「倒すのは昨日の自分だった」、
真の敵はダメな自分自身というのが
正に的を得ています。



ジェイク・ギレンホールは本作のために6箇月のトレーニングをして、
ボクサーとしての体型や動きを身につけたそうですが、
実際、素晴らしい肉体・・・。
撮影もスタントなし、すべて本人が行ったとのこと。
役者さんも大変ですが、ダメ男のビリー・ホープぶりもすばらしい。
レイラ役のウーナ・ローレンス、まだ幼いのですが、
時としてひやりとするほどに大人びた表情を見せていました。
数年後には、主役級の女優に成長するかも。

「サウスポー」
2015年/アメリカ/124分
監督:アントン・フークア
出演:ジェイク・ギレンホール、レイチェル・マクアダムス、フォレスト・ウィテカー、ウーナ・ローレンス

ダメ男の再生度★★★★★
ボクシングの迫力度★★★★☆
満足度★★★★☆

素敵なサプライズ ブリュッセルの奇妙な代理店

2016年06月10日 | 映画(さ行)
喜びや悲しみを共有するからこそ・・・


* * * * * * * * * *

大富豪の一人息子ヤーコブは、自殺願望を持っているのですが、
常にじゃまが入り成功しません。
そんな時、たまたま拾ったマッチ箱に記された謎の「代理店」を訪ね、
ベルギーのブリュッセルへ。
そこは、事故に見せかけて自殺を幇助するサービスを提供する
あの世への「旅行」代理店だったのです。

そこで彼は、いつどんなふうに死ぬのかは本人にわからないようにする
「サプライズ」コースを選択して契約します。
そんな時、この代理店で同様の契約を結んでいた女性、アンネと知り合い、
連絡をとりあううちに、次第に彼女に惹かれ始めますが・・・。



多くの使用人を抱える豪邸に暮らすヤーコブ。
一体何の不足があって自殺したいなどと思うのか・・・と、始めは思うのですが、
実は彼の幼い時に父親がなくなり、
そのショックで、ヤーコブは喜びも悲しみも怒りも、一切の感情をなくしてしまっていたのです。
母親が亡くなってさえも涙も出ない。
こんな無味乾燥な人生にすっかり嫌気が差してしまった
・・・というのもムリのないことと納得しました。



さて、アンネを愛していることを自覚し始めた彼は、
生きる意欲を取り戻し、契約の破棄を申し出るのですが、
解約はできない!と言われてしまいます。
そこで、本末転倒ながらも、ヤーコブと彼女は
代理店の差し向ける殺人者たちから逃げまわることに・・・。


残酷な内容ではありますが、コミカルな展開につい笑ってしまいます。
そして、思いがけない展開にドッキリ。
…確かに、“サプライズ”でした。



屋敷を売り払うために解雇された庭師が、庭のバラが気になって勝手に世話をしにきていたり、
男兄弟の中で育ったため車の知識が並外れている勇ましいアンナの人物像も魅力的。
ヤーコブの所有する車の豪華さとその台数には参ってしまいますが、
残念ながら私は全くの車オンチなので、その価値がよくわからない。
クルマ好きの方には、きっと垂涎モノだと思います。



この代理店、実は更に裏の仕事として、
「自殺を思いとどまらせる」仕事を請け負ったほうがいいのではないでしょうか。
殺し屋なのにドジでちょっと人の良さそうなブラザーズにはそのほうがお似合いかも・・・



「素敵なサプライズ ブリュッセルの奇妙な代理店」
2015年オランダ/105分
監督・脚本:マイケ・ファン・ディム
出演:イエルーン・ファン・コーニングスブリュッヘ、ジョルジナ・フェルバーン、ヤン・デクレイル、ヘンリー・グッドマン
ユニークな題材度★★★★★
コミカル度★★★★☆
満足度★★★★☆


奪還者

2016年06月09日 | 映画(た行)
恐るべき世界



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世界経済の崩壊から10年後の世界。
ありうるかもしれない近未来、オーストラリアが舞台です。



オーストラリアは、鉱物資源を求める男たちの無法地帯と成り果てています。
何もない埃っぽい広大な大地を、
車の中から途方に暮れたようにただ眺めている男、エリック(ガイ・ピアース)。
彼はすべてを失い、唯一の財産は車だけという状況にあるようなのです。
ところが、その車がヘンリー率いる強盗団に奪われてしまいます。
エリックは車を奪還しようと、執拗に彼らの後を追いますが、逃げられてしまいます。
しかしその後、強盗団の仲間で、重傷を負い兄ヘンリーに見捨てられた
弟レイ(ロバート・パティンソン)を拾い、助けます。
レイのおかげで強盗団の行先がわかり、
二人はヘンリーらの元を目指すことになるのですが、
この二人に奇妙に友情めいたものが芽生え始めるのです。



エリックはあえて「兄がまだ生きている弟を見捨てた」と
レイが兄を憎むように仕向けていますね。
ちょっとずるい。
それも車を取り戻すための手段なのですが、
レイは少し幼いところがあって、自分を助けてくれたレイを簡単に信じてしまい、なついてしまう。
もともと他人など信じないエリックも、なつかれると悪い気はしない、
といったところでしょうか。



この血も涙も乾き果てたような土地で、
この二人の友情が希望を見出すのかといえば、否!
あくまでも殺伐とした世界はそのままあり続けます。
紙幣が価値を失ったのと同様に、
人の命さえも価値を失い、人々は信じるべきものも見失っている。
そしてラストで、エリックが自分の車にこだわり続けていた本当の理由が分かるのですが・・・。
これは救いなのでしょうか。
それとも、人の命よりも大事なものがすり替わってしまっているという皮肉なのでしょうか・・・。
答えはありません。
恐るべき世界。



奪還者 [DVD]
ガイ・ピアース,ロバート・パティンソン,スクート・マクネイリー,デヴィッド・フィールド
ポニーキャニオン


「奪還者」
2013年/オーストラリア・アメリカ/103分
監督:デビッド・ミショッド
出演:ガイ・ピアース、ロバート・パティンソン、スクート・マクネイリー、デビッド・フィールド
殺伐度★★★★★
満足度★★★☆☆

「村上ラヂオ3 サラダ好きのライオン」村上春樹

2016年06月07日 | 本(エッセイ)
発想力と、ユーモアと、親切と

村上ラヂオ3: サラダ好きのライオン (新潮文庫)
村上 春樹,大橋 歩
新潮社


* * * * * * * * * *

日々の暮らしの中で体験した愉快な話から、人生の深淵に触れる不思議なエピソードまで、
小説家の頭の中の抽斗には、話題がいっぱい!
「どうして寝る前に限ってネタを思いつくんでしょうね?」と悩みつつ、
つぎつぎ繰り出されるユーモア溢れるエッセイ52編。
大橋歩さんのおしゃれな銅版画も楽しい人気エッセイ・シリーズ第3弾。


* * * * * * * * * *

村上春樹さんの「アンアン」に連載されたエッセイをまとめたもの。
3冊目・・・ということですが、私は拝読するのはこれがはじめてです。
エッセイなので、どこから読んでも構いませんよね。
でも、病みつきになりそうに読みやすく楽しい文章ばかりなので、
そのうち遡って読むかもしれません。


冒頭の方に「愛は消えても」という題名のものがあるのですが、
そこで触れられているのは「親切」ということ。
「彼は親切だ」というのと「彼には親切心がある」というのとの微妙な違いに触れながら、
著者は以前ワシントンDCで川に墜落した旅客機から投げ出されたある男性が、
救助のヘリコプターに引き上げられる順番を女性に譲り、
最後になった彼は命を落としたというエピソードを挙げます。
こういう人こそが「親切心がある」と言うにふさわしいだろうと。
そして驚くのはその先。
著者が常に心がけているのは「読者に対して親切であろう」ということ。
つまり、少しでも相手が読みやすく、理解しやすい文章を書くこと。
簡単なことのようで、そうではない。

「わかりやすい文章を書くには、まず自分の考えをクリアに整頓し、
それにあった適切な言葉を選ばなくてはならない。
時間もかかるし、手間もかかる。
いくぶんの才能も必要だ。
適当なところで「もういいや」と投げ出したくなることもある。」


う~ん、プロの作家にしてそうなんだから、
私ができなくても無理はない、と思ってしまいました。
でも、「氷の浮かぶ水に浸かりながら、救助の順番を人に譲るような親切に比べたら、
たいしたことじゃない」、と結ぶ著者のユーモアはサスガです。


また著者は、時にいろいろなアイデアが浮かぶようなのです。
ジムなどでせっせとエネルギーを放出する人が大勢いるけれど、
そのエネルギーをためて電力などに利用できないものかと。
「献血手帳」のように「エネルギー手帳」を作る。
街角にボランティア用のバイクが置いてあって、せっせとペダルを踏んでもらう。
その奉仕は手帳にポイントとして記録されていって、
後に何かに使える・・・、みたいな。
すご~くいいいな、と私は思うのですよね。
ほんとに、どこかで実現してほしい。
メタボ対策にもなりそうですし・・・。
私も常々、夏のうだるような熱をなんとか蓄積しておくことはできないものかと思うのです。
冬期間の雪をため込んでおいて夏に冷房などに利用する、
というのは実際に行われているようなんですけどね。
あの無駄な暑さをなんとかためておくことはできないのでしょうかねえ・・・?


・・・というのは余談ですが、実際、「読みやすくて」「理解しやすくて」
そして何よりユーモアとステキな発想に満ちたこの本。
オススメです。

「村上ラヂオ3 サラダ好きのライオン」村上春樹 新潮文庫
満足度★★★★.5

神様メール

2016年06月06日 | 映画(か行)
新・新約聖書、いいな



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なんとも荒唐無稽かつファンタジックな作品で、
「???」と思いながら見ていたのですが、
何やら次第に胸の中にストンと落ちてくる、不思議な味わいのある作品です。



ベルギーのブリュッセル、とあるアパートらしきところに、
「神様」は住んでいます。
神様の家族は愚鈍そうな妻と、10歳の娘エア。
本当は兄がいたのですが、すでに亡くなっています。
その兄こそがJC(イエス・キリスト)なので、
確かにこの神さまは、キリスト教の“神”なのですね。
でも亡くなった兄は、ミニサイズの「像」となっており、
必要なときには、エアの相談相手になってくれたりします。



さて、ところがこの神様、私たちがイメージする神とは全くかけ離れていて・・・
自分の部屋のパソコンを管理し、面白半分で事故や災害を引き起こします。
エアはそんな残忍な父がイヤでイヤでたまらない。
ある日父の部屋に忍び込んだエアは、父のパソコンをいじっているうちに、
世界中の人々に余命を知らせるメールを送信してしまいます。

人々は大混乱。
エアは家出を決行し人々の世界へやってきます。
そして6人の使徒を得て「新・新約聖書」を作ることにします。



私たちのイメージする神、と先に書きましたが、
現代、悲惨な事故や出来事が毎日起こります。
もし本当に神がいるとしたら、実際こんなふうに、イヤな奴なんじゃないでしょうか。
神が人を幸福にするための存在とはとても思えない、
そんな世の中であります・・・。
だから本作は、そんな神様じゃなくて本当に人々を幸せにしてくれる神様がいればいいのに・・・
という思いから発したストーリーなのかもしれません。
ラストには本当に“いいなあ”と思うシーンが見られますよ。


余命メールというのも怖いですね。
でも時々思います。余命がはっきりとわかれば、
それまでにやりたいことを心置きなくやってしまうのに・・・と。
私がガンで死にたいなどと思うのも、およその余命がわかるからにほかなりません。
いつまで生きるかわからないから、
多少の蓄えはしておかなければならないし、
つい面倒な問題は先送りにしてしまいがちだし・・・。
計画的に身仕舞いできるのはいいなあ・・・と思います。
でも、年齢にかかわらず、余命わずかの人と、
ほぼ永遠とも言えるような人生がある人に、
不公平を感じずにはいられなくなるかもしれません。
やはり、分からないほうが良さそうです。



夫の言いなりで、愚鈍そうな母=女神が、ラストのほうですることの爽快さ。
人界に於いてはお金もIDも持ち合わせず、頭のおかしい浮浪者に成り果ててしまう“神”。
なんともおかしな世界をたっぷり堪能しました。


2015年/ベルギー・フランス・ルクセンブル/115分
監督:ジャコバン・ドルマル
出演:ブノワ・ポールブールド、カトリーヌ・ドヌーブ、フランソワ・ダミアン、ヨランド・モロー、ピリ・グロワーヌ

荒唐無稽度★★★★☆
ユーモア度★★★★☆
満足度★★★★☆

アメリカン・ドリーマー理想の代償

2016年06月05日 | 映画(あ行)
夢はをつかむためには、ピュアなだけではダメなのか



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1981年 ニューヨーク。
アベル・モラレス(オスカー・アイザック)は、
オイル業界でクリーンなビジネスを信条に会社を立ち上げ、事業を拡大してきました。
ところが、タンク・ローリーに積んだオイルが強奪されたり、
脱税疑惑を受けて取り調べが入ったり、
また、拳銃を持ったチンピラに侵入されかけたり、
何者かの悪意としか思えない状況が続きます。
おまけに、銀行からの融資も受けられなくなり、絶体絶命のピンチに!!



孤立無援の中で破産回避に奔走するアベル。
経済オンチでも分かる絶体絶命度でしたので、
アベルの切羽詰まった状況がひしひしと感じられます。
けれども、凄いと思ったのは、このアベルの沈着冷静さで、
しかも絶対に諦めないという強い心。
自暴自棄にならず、一つ一つ、やるべきことを見出して行動していく様が、
なんとも心強いです。
う~ん、私ならヒステリー起こして泣き叫んだ上、
結局イヤになって夜逃げするかもと思ったりします。



アベルの妻(ジェシカ・チャステイン)の父は、名だたるギャング。
そしてアベルの兄も、ご同様のようです。
そんな中アベルはひたすらに法令遵守で地道に実績を上げてきていたわけですが・・・。
しかし、この高潔な理念だけではどうにもならなくなっていくのです。
そんなところはさすがに妻のほうが柔軟と言うか・・・。

でも結末を見ても不思議と「地に落ちた」という感じがしません。
清濁併せ持つとでも言うのでしょうか。
キレイ事だけでは回らないことって、やっぱりあるのでしょうね。
アメリカン・ドリームをつかむためには、多分ピュアなだけではダメなのだろう。
でも、その影の部分に何か非常にエネルギッシュなものを感じてしまう。
そんな物語のような気がしました。



アメリカン・ドリーマー 理想の代償 [DVD]
オスカー・アイザック,ジェシカ・チャスティン,デヴィッド・オイェロウォ
ギャガ


「アメリカン・ドリーマー 理想の代償」
2014年/アメリカ/125分
監督:J・C・チャンダー
出演:オスカー・アイザック、ジェシカ・チャステイン、デビッド・オイェロウォ、アレッサンドロ・ニボラ
ビジネスのシビア度★★★★☆
やりぬき度★★★★★
満足度★★★★☆


滝野すずらん公園 2016年5月ロックガーデン編

2016年06月04日 | 札幌散歩
可憐な山野草が好き



さて、ロックガーデンにも様々な花が咲き乱れていまして、
ひときわ目を引くのが、この鮮やかな青。
リンドウの仲間ですね・・・
例によって、名前は記録してこなかったので、
とりあえず、お目安めということにしてください・・・







チシママルバヤナギ・・・これだけ名札も一緒に写ってました。










クリスマスローズくらいはわかりますが、これは八重咲きで、ちょっと豪華。




ただの松ですが、若葉がなんとも美しい。


「安達ケ原の鬼密室」歌野晶午

2016年06月03日 | 本(ミステリ)
一流の謎に加えて構成の妙

安達ヶ原の鬼密室 (祥伝社文庫)
歌野 晶午
祥伝社


* * * * * * * * * *

太平洋戦争末期、疎開先から逃げ出した梶原兵吾少年は、
一人の老婆が留守を預かる不思議な屋敷で宿を借りることに。
その夜、二階の窓には恐ろしい"鬼"の姿が…。
やがて、虎の像にくわえられた死体が見つかり、屋敷に逗留していた者は次々に異様な死を遂げた
―(「安達ヶ原の鬼密室」)。
いくつもの謎と物語が交差する、著者ならではの仕掛け満載、興奮必至の傑作ミステリー!


* * * * * * * * * *

本作は祥伝社文庫としては出たばかりですが、
元は、2000年に講談社ノベルスとして出されたもの。
巻末の解説で千街晶之氏も述べていますが、
歌野晶午氏の、島田荘司の後継者たらんとする意気込みの感じられる作品です。
正に。


まず、本作の構成が面白いのです。
始めは短編集かと思ったのですが、違いました。
では長編かというと、そうとも言えないような。
言ってみれば、この一冊が一つの完成品。


冒頭は子供が登場する、短いストーリー。
大事なおもちゃを古い井戸に落としてしまって困っている。
でも話は途中でふっつりと途切れています。
その次はアメリカに留学している女の子のストーリー。
なんと車の中に突如死体が出現した!! 
しかし、これもまたクライマックスのところで、途切れてしまっています。


そして、本作のメインともいうべき謎。
本格ミステリの「館」モノで、鬼が登場し、
死体が累々と横たわる究極の「あり得ない」ストーリー。
が、もちろんそれは論理的にしっかり収束します。
ところがなんと、それすらも一旦中断し、もう一つの「謎」が提示されます。
しかし、つまりこの謎が中間地点。
ここで提示されることが、全体を貫く大きなヒントとなっているのです。
このあとは順番をさかのぼって、解決編へと雪崩れ込む。
見事に計算され尽くした配置。
しかも本当ならこれで幾つものストーリーができてしまうのに、
惜しげも無くまとめて一つとしてしまうという大胆さ。
「鬼密室」編は、正に「島田荘司」臭たっぷり。
・・・というと、著者は気を悪くされるでしょうか。
私はもともと島田荘司ファンなので、これはむしろ褒め言葉なのですが。
ということで、すごく楽しめた一冊。

「安達ケ原の鬼密室」歌野晶午 祥伝社文庫
満足度★★★★☆


海よりもまだ深く

2016年06月02日 | 映画(あ行)
海よりも深く人を好きになったことなんかないから、生きていける



* * * * * * * * * *

阿部寛さんのダメ男ぶりと、樹木希林さんの生活感たっぷりのお母さんぶり。
これを楽しみに見た作品ですが、やはり期待は裏切られませんでした!


15年前に文学賞を受賞したものの、その後は売れず、
作家として成功する夢を追い続ける中年男・良多(阿部寛)。

生活のため探偵事務所で働いていますが、
それも「小説の取材」というふうに自分にも周りにも言い訳をしています。
しかしそうして僅かに稼いだお金も、博打で使い果たして、いつもお金がない。
そんな彼に愛想を尽かした妻・響子(真木よう子)とは離婚。
一人息子も妻と共に暮らしています。

しかし良多はその養育費すらも滞りがち。
どうしてもお金が足りない彼は、ちょっぴりマズい手段で稼いだりもするのですが・・・
ここまで来ると、本当にダメな奴!と思ってしまいますね。


そんな彼の実家は、父親が亡くなったばかりで、
老いた母(樹木希林)が古い団地で一人住まい。

良多と父親はあまり反りが合わなかったようなのですが、
でも父は今の良多とそっくりで博打好き。
母は、父の散財にいつも苦しめられていたので、
「今は何の心配もなく幸せ」といいます。
実際それはやせ我慢ではなくて、本当にそのように見受けられます。


ある日その母のもとに、良多と響子、息子の慎吾が行き合わせるのですが、
台風で帰れなくなり、一晩をともに過ごすことになります。
今は別々に住む、元家族たち。
外の嵐とは裏腹に、意外にも穏やかな時が・・・。



同じ是枝監督の「歩いても歩いても」は、
いしだあゆみさんの曲からの引用がされていましたが、
本作ではテレサ・テンさんの「別れの予感」の中の歌詞
「海よりもまだ深く」が引用されています。
どちらも私には馴染み深い昭和の歌謡曲。
「海よりも深く人を好きになったことなんてないから生きていける」
と、母はいいます。
なかなか思い通りにならない人生。
でも人や物への執着を捨てれば、
もう少し楽に生きられるよ・・・と、いうことなんですね。
小説家への夢、妻のこと、息子のこと。
執着しまくりの良多ですが、
確かに何もかも手に入れようという気持ちを少しでも肩から下ろせば、楽になりそうです。



本作中で、なにか大きな事件があったりはしないのですが、
不思議にラストに充足感があります。
嵐の一夜をともにして、ちょっぴり互いの思いを実際に口に出して話す時、
いつもなら反感で素直に聞けない言葉も、じんわりと胸にしみるようでした。
ラストで良多が今後の決意を語ったりもしませんが、
なんとなくそれも伝わる、再生の朝。
ステキです。


樹木希林さん演じる“母”の、説教臭さの全くない自然の語りがやっぱりいいですよね。
はがきに貼る切手をペロペロ舐めてみたりする生活感が、なんともいえません。
カルピスをコップに入れてそのまま凍らせたものを、ガジガジ削りながら食べる。
ここの家では子供たちが小さい時から
夏にはこんな風にカルピスのアイスを食べていたのだろうなあ・・・
と思わせるステキなエピソードでした。


「海よりもまだ深く」
2016年/日本/117分
監督・脚本:是枝裕和
出演:阿部寛、真木よう子、樹木希林、小林聡美、リリー・フランキー、池松壮亮
人生の気付き度★★★★☆
生活感★★★★☆
満足度★★★★★

Dearダニー 君へのうた

2016年06月01日 | 映画(た行)
数十年遅れて届いたジョン・レノンの手紙



* * * * * * * * * *

ジョン・レノンが新人ミュージシャンに宛てた一通の手紙が、
数十年の時を経て本人の手に渡った、
という実話をベースにしたストーリーです。
このミュージシャン、ダニー・コリンズにアル・パチーノというのが
なんとも粋な起用であります。



今やベテランミュージシャンであるダニー・コリンズ(アル・パチーノ)。
しかしもう何年も作曲も作詞もしておらず、過去のヒット曲を使うばかり。
それでもツアーは大入り。
もっともお客も殆ど往年のファンで、年輩の女性が大多数。
先日見た「グランドフィナーレ」を思い出してしまいました。
このダニーもまた、「過去の栄光」によって今現在の名声と富をつないでいるのです。
だから生活は豊か。
だけれどもどこか虚しさを隠すことができない・・・。



さて、そんな彼のもとに、
数十年前にジョン・レノンがダニーに宛てた手紙が発見され、届くのです。
というのも、その数十年前、ダニーはある雑誌のインタビューで、
ジョン・レノンを尊敬していること、
そして今後自分の曲がもっとヒットして
富と名声を得ることになるのが「怖い」ということを話しました。
それを読んだジョン・レノンが、ダニーに宛てて手紙を書いたのです。
しかしジョニー本人にではなく、雑誌の編集部宛てに送ったので、
本人には渡らず終いになってしまっていたのだとか。
ジョン・レノンはその手紙で
「金持ちになっても有名になっても、それは自分次第。
電話をくれれば相談にのるよ・・・」
と言っています。
なんて泣きそうなくらい大きくてステキな人物・・・
さすがジョン・レノンです。



さて、今になって敬愛するジョン・レノンのメッセージを受け取ったダニー。
酒と女と薬に溺れ、自らの音楽を追求することも忘れてしまった
今の自分に気づき愕然とします。
彼は突然ツアーを打ち切り、
これまで一度も会ったことがない自分の「息子」に会いに行くのです。
妻と娘と共につつましく暮らしている息子・トムは、
生まれた時から会いにも来ない実の「父」を憎んでおり、当然拒絶。
ダニーは、なんとかこの関係を修復したいと努力し、
そしてまた、何十年かぶりに曲を作り始めるのですが・・・



思うようにハッピーエンドとはならないところがまた、
なかなか味があります。
確かに、ジョン・レノンの言葉は彼には響いたのですが、
何十年も身についてしまった彼の生き方は、そう簡単には路線変更できないということか。
だけれども、それはそれで彼が歩んできた道。
それを全否定する必要もないのではないかと、優しく語っているような気がします。
本作中で使われている曲はどれも私にも馴染みのある懐かしい曲ばかり。
「グランドフィナーレ」よりはうんとカッコ悪いのですが、
でも私はこの方が好きです。



Dearダニー 君へのうた [DVD]
アル・パチーノ,アネット・ベニング,ジェニファー・ガーナー,クリストファー・プラマー
KADOKAWA / 角川書店


「Dearダニー 君へのうた」
2015年/アメリカ/107分
監督:ダン・フォーゲルマン
出演:アル・パチーノ、アネット・ベニング、ジェニファー・ガーナー、ボビー・カナベイル、クリストファー・プラマー
人生の見直し度★★★★☆
満足度★★★★☆