映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

シチズンフォー スノーデンの暴露

2017年06月12日 | 映画(さ行)
監視社会



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アメリカ政府によるスパイ行為を告発したエドワード・スノーデンのドキュメンタリー。
私、本作に対して認識不足でしたが、
これは再現映像などではなくて、
エドワード・スノーデンご本人の告発時そのままの映像なんですね。

なぜそんなものがあるかと言えば、
2013年、ドキュメンタリー映像作家であるローラ・ポイトラスに、
スノーデン自身が接触してきたわけです。
リークしたい事がある、と。
そこで香港のホテルで、ジャーナリストのグレン・グリーンウォルドを交えたインタビューを撮影。

米CIAやNSA(国家安全保障局)で仕事をしてきたスノーデンの語る内容は、驚くべきものでした。
米政府は世界各国の要人ばかりか、
米一般国民の電話・インターネットを傍受しているというのです。
あの9・11同時多発テロ以降、恐るべき国民監視システムが構築されている・・・。
というわけで、世紀の告発の一部始終が克明に記録され、
それがそのまま本作となっているわけです。



米政府を敵に回したという緊迫感恐怖感がタダモノではありません。
このホテルの一室でも、スノーデンは盗聴などに異常に気を使います。
ホテルの火災警報ベルさえもが、何らかの警告のように思えてしまう。
下手なドラマよりもよほどドラマティック。
でもここまでおおっぴらにしてしまったほうが、
スノーデン氏の安全は確保されそうです。



日本でも共謀罪をタテに、こんなことが当たり前に行われるようになるのかもしれません。
反政府的なことをブログなどに書くのはやめよう、この記事以降は・・・
なんて思っちゃいますね。
いや、以前からうすうすは思っていたのですが。
でも、マジに、そうした方がいいかも。

「シチズンフォー スノーデンの暴露」
2014年/アメリカ・ドイツ/114分
監督:ローラ・ポイトラス
出演:エドワード・スノーデン、グレン・グリーンウォルド、ローラ・ポイトラス

スノーデンの勇気★★★★★
見えない恐怖度★★★★★
満足度★★★★☆

パトリオット・デイ

2017年06月11日 | 映画(は行)
知らなければフィクションとしか思えない



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2013年、ボストンマラソン爆弾テロ事件の裏側、
事件発生から102時間で犯人逮捕に至った実情を描く作品です。



2013年4月15日「愛国者の日(パトリオット・デイ)」の祝日は、
恒例のボストンマラソン開催日。

ボストン警察殺人課の刑事トミー(マーク・ウォールバーグ)も、
会場の警備に駆り出されます。
そしてその日、ゴール地点付近で大きな爆発があり、多くの犠牲者が出たのです。
混乱の中、怪我をした人々の救護活動に当たる警官や見物に来ていた一般市民たち。
事件はFBIの主導で、地元警察と共同体制で捜査が開始されます。
近辺の監視カメラを始め一般市民のスマホ映像などもかき集め、チェックを行い、
犯人と思しき白い帽子の男と黒い帽子の男、2名があぶり出されます。



なんとしても犯人を見つけ出す。
そういう覚悟が見えますね。
あれだけの映像の中から、不審人物を探し出すというのは至難の業に思えるのですが、
眠い目をこすりながら、不審な動きをする人物を見つけ出した
そのことに、驚嘆させられます。
そして、大きな倉庫内に再現された現場の見取り図。
犯人の動きを予測し、それなら何時何分頃にどこの監視カメラに姿が写っているはず・・・
と、答えを導くところはなんともかっこよかった。



FBIと地元警察の関係というのは、いわば日本の警視庁と所轄の関係なんですね。
大きな事件にはFBIが乗り出してきて、地元は引っ込んでいろ、と。
でもこの件については、とにかく人手がほしかったのと、
地元をよく知っている地元の警察官の協力が必要不可欠だったということなのでしょう。



逃走しようとする兄弟に車を奪われ、
拉致された中国青年が決死の脱出を図るというのも劇的ですし、
その挙句に住宅地での銃撃戦。
全く、フィクションの世界としか思えないできごとが、本当にあったことだなんて・・・。
ニュースで伝えられたことの裏で
こんなできごとがあったというのは本当に驚くばかりでした。



登場人物は、トミーのみが架空の人物で、
でもそれはあのときに働いた多くの警官たちの代表ということなのでしょう。
捜査に当たった方、怪我で障害を負った方、
最後の方でご本人のインタビューもあり、
確かに実際に起ったことなのだと、また感慨を深くしてしまうのでした。
特にあの事件で片足を失った方が、
義足でまたボストンマラソンに参加したなどということには、
人間の強さも感じられるのです。
人と人の絆の大切さを改めて思い起こされます。


それにしても、残念ながら昨今このようなテロ行為は、
少なくなるどころかますます増加しています。
根本的にこんなことを失くすためにどうすればよいのか・・・
それは多分、国家間の経済格差をなくさなければならないのでしょうけれど・・・
う~ん、あまりにも難しい。
自国の利益のことしか考えないというのが最近の風潮ですもんね・・・。


「パトリオット・デイ」
2016年/アメリカ/133分
監督:ピーター・バーグ
出演:マーク・ウォールバーグ、ケビン・ベーコン、ジョン・グッドマン、J・K・シモンズ、ミシェル・モナハン

歴史発掘度★★★★★
サスペンス度★★★★★
満足度★★★★.5



「君の膵臓をたべたい。」住野よる

2017年06月10日 | 本(恋愛)
病気の女の子のハナシ

君の膵臓をたべたい (双葉文庫)
住野 よる
双葉社


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ある日、高校生の僕は病院で一冊の文庫本を拾う。
タイトルは「共病文庫」。
それはクラスメイトである山内桜良が綴った、秘密の日記帳だった。
そこには、彼女の余命が膵臓の病気により、もういくばくもないと書かれていて―。
読後、きっとこのタイトルに涙する。
「名前のない僕」と「日常のない彼女」が織りなす、大ベストセラー青春小説!

* * * * * * * * * *

大ベストセラーということで、何やら気になる題名だなあ・・・
とは思っていましたが、
文庫が出ていたので、つい出来心で買ってしまいました。
そもそも私、病気の女の子の話には近寄らないようにしているのに。


膵臓の病で、余命宣告を受けた山内桜良。
彼女はそのことを親友にさえも打ち明けていなかったのですが、
偶然に同級生の<僕>が彼女の日記をみて、その秘密を知ってしまいます。
ヒョウヒョウと自分の運命を受け入れ、
せめて最後にはやりたいことをしようと思う外交的な桜良。
一方、これまでほとんど人と関わることを避けていて、友人の一人もいない<僕>。
桜良のわがままに振り回されるうちに、人との交流の異議を見出していく<僕>なのですが、
やがて、およそ予定した桜良の最後の日よりも前に・・・。


はい、確かに泣けてしまう部分はありました。
でもやっぱりこれは、私が避けたいと思う「病気の女の子の話」、そのものでした。
若い人向け青春小説。
生活感なし。
って、高校生に生活感を求めるほうがムチャか。
つまり・・・
私は近寄らないほうが良かった・・・。


「君の膵臓をたべたい。」住野よる 双葉文庫
満足度★★☆☆☆

ボクの妻と結婚してください。

2017年06月09日 | 映画(あ行)
三村の願いを叶えることこそが



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バラエティ番組の放送作家三村(織田裕二)は、
膵臓がんで余命宣告を受けてしまいます。
これまで、世の中の様々なことを「楽しい」に変換することをモットーとしてきた彼は、
自分がいなくなったあとも、
妻・彩子(吉田羊)と息子には楽しく暮らしてほしいと思います。
そこで、妻の新たな結婚相手を探すことに・・・。



自分の病のことは後回し、ひたすら妻と息子のためを思う三村。
バカバカしくもありますが、ここまで貫き通すというのには、
さすがに胸をうたれてしまうのです。
妻と息子のため・・・という趣旨ながら、
実は妻と子から見れば、その願いを叶えることこそが三村のため、
という逆の発想につながっていくところがミソでした。



三村が探し出した妻の結婚相手・伊東(原田泰造)がまた、
なんで今まで売れ残っていたのかと思うくらいに好条件で、
実際いいヤツで・・・。
そこがうまくできすぎている気がしなくもありません。



三村が伊東に結婚の利点を語る所が良いですね。
家族と一緒に食べるとご飯が美味しい。
でもこれは、すべての結婚がそうではなくて、
三村の家族で、三村が居てこその美味しいご飯なんですよね。
でも、結婚ってなんだか良さそうだという説得力はありました。
ホロリとさせられるドラマでした。



ボクの妻と結婚してください。 DVD(2枚組)
織田裕二,吉田羊,原田泰造,高島礼子
東宝


「ボクの妻と結婚してください。」
2016年/日本/114分
監督:三宅喜重
出演:織田裕二、吉田羊、原田泰造、高島礼子、込江海翔
愛情度★★★★★
満足度★★★.5


美しい星

2017年06月07日 | 映画(あ行)
この宇宙の片隅で



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三島由紀夫原作という異色作です。
原作では当然ながら当時「地球温暖化」などという言葉もなく、
東西冷戦下の核の恐怖が時代背景として大きく扱われているそうです。
本作は思い切って現代に舞台を移しています。


予報が全然当たらないことで評判のTVお天気キャスター大杉(リリー・フランキー)。
ある時、空飛ぶ円盤に遭遇し、自分は地球を救う火星人だったことに目覚めます。

それと時を合わせて、彼の息子・一雄(亀梨和也)は水星人、
娘・暁子(橋本愛)は金星人と、

それぞれに覚醒。
妻・伊余子(中島朋子)は地球人のままですが、「美しい水」の販売にハマります。
そんな彼らが、謎の代議士秘書黒木(佐々木蔵之介)の政治的陰謀に巻き込まれていく・・・。



彼らはもともと平凡だけれどもほとんど崩壊しかけた家族でした。
その彼らが、同じ星ではなく別々の星に所属していると覚醒することで、
いよいよ家族はバラバラになりかけます。
それぞれの星の主義主張は地球を救うことにありそうなのだけれど、
しかし、その方向が異なっていて互いに相容れません。
そんな時、大杉が病に倒れ・・・。


最後に宇宙船から見た彼ら家族の様子が俯瞰して映し出されます。
この地球上で当たり前にある、人々の、特に「家族」の営み。
意見が合わなくて、いつも仲良しでいられないのは当たり前、
だって本当はそれぞれ異星人なのだもの。
それでもやっぱり、私たちは寄り添って生きていくわけだなあ
・・・と、ほのかに感じました。



広大な宇宙の中ではほんのちっぽけな地球。
そしてその片隅にあるささやかな人の営み。
そういうものがとても愛おしく思えてきます。
この「美しい地球」に住む「ヒト」で、よかったですよね・・・。


「美しい星」
2017年/日本/127分
監督:吉田大八
出演:リリー・フランキー、亀梨和也、橋本愛、中島朋子、佐々木蔵之介
SF度★★☆☆☆
家族度★★★★★
満足度★★★.5

「坊っちゃん忍者幕末見聞録」奥泉光

2017年06月06日 | 本(その他)
幕末の京都見聞録

坊っちゃん忍者幕末見聞録 (河出文庫)
奥泉 光
河出書房新社


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「坊っちゃん」、幕末に現る!
庄内藩で霞流忍術を修行中の松吉は、
尊王攘夷思想にかぶれたお調子者の悪友・寅太郎に巻き込まれ、
風雲急を告げる幕末の京への旅に。
坂本龍馬や新撰組ら志士たちと出会い、
いつのまにか倒幕の争いに巻き込まれ…!?
奥泉流夏目漱石『坊っちゃん』トリビュート小説にして、歴史ファンタジーの傑作。

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奥泉光さんの時代物? 
つい興味を惹かれます。


主人公、松吉は忍術の修行中。
しかし、時は幕末、すでに実際に忍術を使う場もないし、
その技術も何代も伝承するうちに怪しくなっているのです。
そこで彼の師匠は、薬草を摘んだりして、
医者もどきのことをして生活を立てている。
松吉はそれを習い覚えるうちに、なんとなく医者になってみてもいいかな・・・?
くらいに思い始めます。
決して立派な志として、希望に燃えたりはしないのですが。
たまたま悪友の寅太郎が尊皇攘夷思想にかぶれ、江戸へ行くというので、
お供についていくことになります。
行く先は江戸のはずだった。
しかし、その前に物見遊山で京都にも行こうと・・・京都へ。
幕末の京都は物騒でスリリングですよ~。
しかし二人はここに居着いてしまいます。
松吉はちょうどよく医師の師匠が見つかったので、
そこに住み込んで修行することに。


さて、ところでなんでこれが「坊っちゃん」なのか。
松吉は庄内藩のお国言葉丸出し。
江戸っ子ではないし、行先も四国ではない。
でも、シニカルに周囲の人達のドタバタを見つめる視線と文体が、
それと言えばそれらしい。
巻末の万城目学氏による解説では、
「坊っちゃん性」とは
「新たな土地にやってきた主人公が、正直を貫いた結果、破れ、元の土地へこと」
とあります。
なるほど、そういうことなら納得。


そして、私達にはおなじみの新撰組や坂本龍馬が登場するのには嬉しくなってしまいます。
私は特に沖田総司がイメージ通りの爽やかな好青年として登場するので、最高! 
この松吉がまた、真っ直ぐで勤勉なんですよ。
医師の修行と言ったって、殆どは下働きなのですが、
全然それを厭わないし、夜毎にテキストの写本に励んだりする。
友の頼みは断りたいけど断れないし、
新しい思想にすぐに飛びついたりもしない冷静なところも。
(単に深く考えないタチなだけか?)
なんか好きですねえ、この感じ。
意外といい医者になると思うけど。


さてところで、こういう話ながら、
やっぱり奥泉光だ!!と思う部分があるのです。
幕末の京都が、時折現代の京都と滲んで混じりこんでいる。
河原で武士たちが今にも斬り合いを始めようとするところを、
橋の上から見物しているのは、現代の観光客たち。
カメラを構えて、早く始めろと野次を飛ばしている・・・。
彼らは映画の撮影か何かと思っているようですけれど・・・。
時間軸が何処かで歪んでつながってしまっているというか・・・。
このあたりがさすがの奥泉マジック。
痛快な物語でした。

「坊っちゃん忍者幕末見聞録」奥泉光 河出文庫
満足度★★★★☆

マイビューティフルガーデン

2017年06月05日 | 映画(ま行)
「秘密の花園」の庭



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きっちり整然とした生活スタイルにこだわるベラ(ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ)は、
庭付きの家に暮らしています。
でも、勝手に伸び散らかる植物にはほとんど恐怖を覚えており、
庭の手入れは全くできていません。
美しい庭にこだわりを持つ隣人のアルフィー(トム・ウィルキンソン)は
それが目障りで仕方ありません。
庭に文句をつけるアルフィーは、ベラにはとんでもない嫌味な頑固ジジイと映ります。
しかし、ついにベラは大家から
庭をキレイにしないのなら家を出てもらうと宣告を受けてしまいます。
やむなくベラはアルフィーに協力を得て、庭造りを始めますが・・・。



本場イングリッシュガーデンのストーリーなので、心が踊ります。
ベラはちょっぴり変わった娘なんです。
こだわりが強い。
そんな彼女は図書館に勤めていて、
そこを訪れるこれまた風変わりで少しドジっぽい青年との恋の経緯もまた楽しいのです。
私も、こんな感じの青年、好きだわ~。



アルフィーがどうしてこんなに庭にこだわりを持つのか、
というのも最後の方でその理由がわかります。
そしてほんとうに素敵なのです、アルフィーの庭。
私が子供の頃読んで夢中になったバーネットの「秘密の花園」の庭。
そのイメージなのです。
これまでいろいろな映画で、ガーデンを見てきましたが
なかなかここまでイメージピッタリのものはなかった。
いろいろな花が咲き乱れていて、それは決して整然とはしていない。
まるで野にあるように、自由で好き勝手に咲いているようでいて、
実はこれは、かなり手が入っているはず。
アルフィー自身が「乱雑」と「混沌」とは違うんだと言っていました。
混沌とした庭。
いいなあ・・・・。



花に彩られた、少しコミカルでファンタジックなラブストーリー。
いいですねえ。
ココロがゆるゆるとほぐれていくようです。


「マイビューティフルガーデン」
2016年/イギリス/92分
監督:サイモン・アバウド
出演:ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ、トム・ウィルキンソン、アンドリュー・スコット、ジェレミー・アーバイン
花とゆめ度★★★★★
満足度★★★★☆

何者

2017年06月04日 | 映画(な行)
就活のヒリヒリ感



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朝井リョウさんの直木賞受賞作が原作。
豪華出演陣が気になって、見たいと思っていたのですが、
タイミングを逃してしまい見ることができませんでした。
この度ようやく視聴。



拓人(佐藤健)は以前演劇サークルで脚本を書いていましたが、
今はサークルを辞め、就活に励んでいます。
彼と同居している光太郎(菅田将暉)は、バンドを組んでいたのですが、
この度引退して、彼もまた就活を始めます。
光太郎の元カノ・瑞月(有村架純)の友人理香(二階堂ふみ)が、
拓人と光太郎と同じマンションに住んでいたため、
理香の部屋を就活本部として、彼らは度々集まって互いの情報交換をすることになります。

また、理香の部屋には、理香の彼氏・隆良(岡田将生)も同居しており、
彼は就活などくだらないとうそぶいているのですが・・・。



誰もが自分の将来に不安を感じているのですが、
それぞれに不安な本音は決して口にしません。
多大な自意識が溢れ出るSNS。
余裕のあるフリを押し通す会話。
そんな中で一人の内定が決まりそうなときの凍りついた雰囲気・・・。
原作にあったヒリヒリ感がそのまましっかりと画面に溢れ出ていました。



なんだか本当に、今の若い人たちがおかれた立場を思うと、
こちらまで息苦しくなってしまいます。
何社も受けて採用されないというのは、
まるで自分の存在が社会に必要とされないような気がしてくるのですよね。
そんな焦りと不安・・・。



最後の拓人と理香の対決(?)シーンが怖い怖い・・・。
友人たちと共にいても、常にスマホを手にして、
何かを見たり打ち込んだりしている拓人が気になってしまうのですが、
原作を読んでいない方なら、最後に驚きが待っていますよ。



私はみっともなくとも演劇にしがみつき続けている拓人の友人が好きだなあ。
そして、原作を読んだときにも思ったのですが、
この5人の中では、ポジティブで正直な光太郎くんの存在が光りました。

意外と、企業も人を見る目があるなあ・・・なんてね。

何者 DVD 通常版
佐藤 健,有村架純,二階堂ふみ,菅田将暉,岡田将生
東宝



「何者」
2016年/日本/97分
監督:三浦大輔
原作:朝井リョウ
出演:佐藤健、有村架純、二階堂ふみ、菅田将暉、岡田将生、山田孝之

ヒリヒリ度★★★★★
満足度★★★★☆

「蜜蜂と遠雷」恩田陸

2017年06月03日 | 本(その他)
あ~、ピアノ曲が聞きたい!!

蜜蜂と遠雷
恩田 陸
幻冬舎


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3年ごとに開催される芳ヶ江国際ピアノコンクール。
「ここを制した者は世界最高峰のS国際ピアノコンクールで優勝する」
ジンクスがあり近年、覇者である新たな才能の出現は音楽界の事件となっていた。
養蜂家の父とともに各地を転々とし自宅にピアノを持たない少年・風間塵15歳。
かつて天才少女として国内外のジュニアコンクールを制覇しCDデビューもしながら
13歳のときの母の突然の死去以来、長らくピアノが弾けなかった栄伝亜夜20歳。
音大出身だが今は楽器店勤務のサラリーマンでコンクール年齢制限ギリギリの高島明石28歳。
完璧な演奏技術と音楽性で優勝候補と目される
名門ジュリアード音楽院のマサル・C・レヴィ=アナトール19歳。
彼ら以外にも数多の天才たちが繰り広げる競争という名の自らとの闘い。
第1次から3次予選そして本選を勝ち抜き優勝するのは誰なのか?

* * * * * * * * * *

直木賞、本屋大賞、ダブル受賞で話題の本作をやっと読むことができました。
昔からの恩田陸ファンとしては直木賞受賞の時からすぐにでも読みたかったのですが、
例によって節約を心がけているところですので・・・、
しかし、当然ながら図書館予約では何年先になるのかもわからない人気の高さ。
そこで私は、とあるカードのポイントが貯まるのをじっと待っていて、
この度ようやくポイント交換で本書を入手。
・・・まあ、文庫を3冊も我慢すれば買えなくもないのですけれど。
ほとんど気持ちの問題ですね。


さてさて、内容はひたすら芳ヶ江国際ピアノコンクールに終始します。
第1次予選から第3時予選までがあり、そして本選という長い道のり。
紹介文にあるように、主にこのコンクールに出場する4名を中心として話は進みます。
視点は各出場者であったり、審査に当たる人であったり、
自在に入れ替わっていきます。


そもそも私はピアノを弾かないし、
クラシック曲の題名を聞いても全くピンときません。
それにもかかわらず、美しいピアノの音が聞こえるような気がする。
これはひたすらに著者の力量でありましょう。
そもそも目には見えず手で触ることもできない「音」。
その音が喚起するイメージ。
それを文章で表現するという究極の作業の塊が、この本なのであります。
凄いです・・・。


そして、これは言うまでもありませんが、登場人物が実に個性的で魅力的。
ひたすら音楽の神に愛されているとしか思えない生来の超天才少年風間塵は、まあ別格として、
読者が最も感情移入するのは栄伝亜夜でしょうか。
長らくピアノから遠ざかっていた彼女が、
覚醒していくさまをつぶさに見るのがなんとも心地よいのです。
こんな文章があります。

「観客は舞台の上の彼女を見つめ、彼女の演奏を聞きながら、自分を見ている。
自分のこれまでの人生、これまでの軌跡が
舞台の上に映し出されているのを目撃しているのだ。」

こんな風に自分の人生を思い起こさせるような音楽って一体・・・。
こんな音楽を聞いてみたいものだと、切に思ってしまいました。


そして私が好きだったのは、高島明石。
このようなコンクールに上位入賞しプロとなっていくのは、
大抵は幼い頃からピアノに触れ、高い授業料をかけて良い指導者につく、
そんな特別な教育を受けて育った人たち。
でも彼はごく普通の家庭に育ち、今も普通にサラリーマンとして仕事をしながら、
ピアノに触れているのです。
そんな彼に親しみが感じられて、つい応援したくなってしまいます。


長丁場を少しも飽きずに、コンクールの緊張感を保ったまま一気に読んでしまう、
そんな本です。
あ~、ピアノ曲が聞きたい!!


「蜜蜂と遠雷」恩田陸 幻冬舎
満足度★★★★★

パーソナル・ショッパー

2017年06月01日 | 映画(は行)
目に見えぬ不気味なものの正体



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忙しいセレブに代わり、服やアクセサリの買い物を代行する
パーソナル・ショッパーのモウリーン(クリステン・スチュワート)。

彼女は数ヶ月前に、双子の兄を亡くしています。
兄は生前に、自分が死んだら必ず死後の世界からサインを送ると言っていました。
モウリーンは今、ひたすらそのサインを待っているのです。
そんな時、彼女のもとに届く不可解なメール。
彼女の行動を監視しているかのようなメールの発信者は、
彼女の欲望を刺激してきます。
気味が悪く思いながらも、抗い難くそのメールにしたがってしまうモウリーン。
果たしてこれは亡くなった兄からのメッセージなのだろうか、
それとも・・・。



私は特別な前前知識もなく本作を見てしまい、
始めは何かの事件に巻きこまれるサスペンスものと思っていたのです。
確かに、事件に巻き込まれはするのですが、
しかし、どうやらこれはホラーであるらしい・・・と思えてきて、
でも結局最後までどういうカテゴリに当てはめるべきなのかよくわかりませんでした。
まあつまり、そんなことはどうでもいいのですね。



あの、何かほの暗く嫌な意志を持った何者かの正体は結局わかりません。
これが兄なのだとしたら、なんということでしょう。
人は死んであちらの世界へ行ってしまったら、
もう生前の人格とは別物となってしまうということなのか。
ただ闇の世界に呑み込まれていくだけなのだとしたら、
それはあまりにもつらい認識だ・・・。
でもこれが兄ではなくただの悪霊か何かだと言うなら、
どうにも話が締まらないし、それこそホラーになってしまう・・・。
などと思ううちに一つの考えに至りました。



セレブの贅沢な買い物をしていたら、
嫌でも、そんなものに一生手が届かない自分が見えてきますよね。
こんなドレスや宝石が自分のものだったら・・・
そんな欲望が芽生えてきても当然です。
特に女子は、そういうものへのあこがれは特に強いですもんねえ・・・。
つまりこの、敵の正体は、彼女自分自身。
だからたとえ地の果てに行ったとしても、彼女はそれから逃れられない。
ドン・ドンと壁を叩くような不気味なその音は、
彼女自身への警告です。
あのシーンでは、彼女はすでにそれを受け入れているようにも見えますね・・・



そうそう、本作でパリ・ロンドン間の列車に乗るのに、
飛行機のような搭乗検査があるのだというのを、初めて知りました。
なるほど確かに、絶対に必要ですね。
特に昨今は。

「パーソナル・ショッパー」
2016年/フランス/105分
監督・脚本:オリビエ・アサイヤス
出演:クリステン・スチュワート、ラース・アイディンガー、シグリット・ブアジス、タイ・オルウィン

SNSの不気味度★★★★☆
あんな風に服買ってみたい度★★★★★!
満足度★★★★☆