映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ある画家の数奇な運命

2020年10月13日 | 映画(あ行)

芸術は真実を語る

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本作、3時間以上という大作で、若干見るのをためらっていたのですが、
新聞の映画評がよかったので、やはり見てみる気になりました。

ドイツの激動の時代を生きた芸術家の半生を描きます。
現代美術界巨匠、ゲルハルト・リヒターがモデルとのこと。
でも本作、この芸術家自身の運命というよりも、
その中で起こる出来事こそが運命的な“奇跡”なのです。

クルト(トム・シリング)は、ドレスデンで生まれ育ちます。
その幼少期はまさにヒトラーが台頭した時代。
実はそのころ、クルトが大好きだった若く美しき叔母が精神の変調を来し、強制的に入院させられます。
当時のことですから精神障害者は「不要」な者とされ、
遺伝子を根絶するために強制的に不妊手術を受けさせられた上、最後には“安楽死”させられてしまうのです。
そのような事が起こっているとはつゆ知らず、
ナチス政権は倒れ、戦争が終わり、クルトは成長します。

さて、東ドイツの美術学校に進学したクルトは、エリーという女性と知り合い、恋仲になります。
ところが、実はエリーの父親が、クルトの叔母を死に追いやったナチ党の元高官。
戦後すぐにそういう者たちは処罰されたのですが、彼はうまくその罪をすり抜けていたのでした。
クルトもエリーもそんなことは知るよしもありません。

社会主義のもとでは労働者を描く絵画のみが価値を持つとされていて、
クルトはどうしてもなじめなかったのです。
エリーの父はかつての自分の罪が明るみに出ることを恐れて、
そしてクルトとエリーも西の自由を求めて、
西ドイツに居を移します。

それが、ベルリンの壁ができる寸前の出来事。
このあたりがモデルとなっている画家、ゲルハルト・リヒターの足取りと一致します。
先日見た映画「僕たちは希望という名の列車に乗った」にもありましたが、
壁ができる前までは、比較的容易に東西を移動できたのですね。
そしてクルトは西側の美術大学に入学を果たし、いよいよ彼独自の絵画・芸術を開花させていきます。

ストーリー上は、結局クルトはエリーの父親と叔母のつながりには気づかないままなのです。
では、どうして「物語」となり得るのか。

作中で、クルトが
「ロトくじの数字の無作為な連なりには何の意味もない。
けれど、それが当たりの番号だったとしたら、それは大きな意味を持つ」
というシーンがあります。
このセリフは2回繰り返されるので、これは大きなヒントです。

クルトが無造作に並べた、写真を模写した絵画。
ほんの一瞬だけれども、その並びが「真実」を映し出すという奇跡の瞬間を私たちは目にするのです。
しかしクルトはそのことには気づかない。

芸術が真実を語るのだという奥底の意味合いもあるのでしょうね。
深いわー。

まったく、このストーリー運びというか、手法というか・・・、参りました!!
この3時間はこの一瞬のためにあった、とも言えます。

 

そしてまた、ナチス時代や社会主義時代など、
絵画=芸術の価値がその時々の政治主張によって変わってしまう
というもろさをも本作では描いています。

 

ついでにいうと、トム・シリングがまた、ステキなのだわ~

文句なし!!

 

<サツゲキにて>

「ある画家の数奇な運命」

2018年/189分/ドイツ

監督・脚本:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク

出演:トム・シリング、セバスチャン・コッホ、パウラ・ベーア、ザスキア・ローゼンタール、オリバー・マスッチ

 

歴史発掘度★★★★☆

数奇な運命度★★★★★

満足度★★★★★


鈴木家の嘘

2020年10月12日 | 映画(さ行)

悲劇と喜劇は裏表

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本作はちょっとショッキングなシーンから始まります。

引きこもりだった鈴木家の長男・浩一(加瀬亮)が、自室で自殺するのです。
それを見た母(原日出子)は後追い自殺しようとしたらしいのですが、
命は取り留め、しかし、病院のベッドで昏睡状態が続いています・・・。
その母が、長男の四十九日の日に突然目を覚ます。
しかし、長男の自殺のことはショックのせいか記憶が飛んでいるのです。

母をまたショックに晒したくない夫(岸部一徳)と、長女・富美(木竜麻生)は、
浩一は部屋を出て、今はアルゼンチンで仕事をしていると、
とっさに言いつくろうのですが・・・。

浩一が引きこもっていた理由、死んだ理由は結局のところ作中ではわからないままです。
けれども家族一人一人が、自分に何かもっとできたことがあるのではないか、
自分の何気ない一言が彼を追い詰めたのではないか・・・
という思いに囚われているのです。
だからとても重いストーリーのはずなのですが、
浩一の叔父・叔母も含めて、
家族皆で嘘を取り繕おうとするところが、なんともおかしいのです。
悲劇と喜劇は裏表のものなのかもしれません。

ずっと無表情に沈んでいて、兄の死については悲しみよりも怒っているように見受けられる富美。
彼女も、何かしら自責の念に駆られているわけですが、
本作、彼女が兄の死を本当に受け入れ、悲しむことができて、
そして次に踏み出すまでの物語と言えるかもしれません。
悲しみを乗り越えるためには、大声で泣く事って大事なのですよね。

重く、もの悲しくも、からっと笑える、奇跡的一作。

<Amazonプライムビデオにて>

「鈴木家の嘘」

2018年/日本/133分

監督・脚本:野尻克己

出演:岸部一徳、原日出子、木竜麻生、加瀬亮、岸本加世子、大森南朋

 

悲喜劇度★★★★☆

満足度★★★★★

 


ジュディ 虹の彼方に

2020年10月11日 | 映画(さ行)

夢や希望や幸せは、本当にどこにもないのか?

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レニー・ゼルウィガーが第92回アカデミー最優秀主演女優賞を受賞した作品。
本来なら劇場で見たはずの作品ですが、コロナ禍で見に行けなかったのでした・・・。

本作は「オズの魔法使い」で知られるハリウッド黄金期のミュージカル女優、ジュディ・ガーランドの物語です。
しかしその全盛期は思い出として垣間見るだけ。
47歳の若さで急逝する半年前、1968年冬、ロンドン公演の日々を綴ります。

1968年、かつてミュージカル映画の大スターとしてハリウッドに君臨したジュディ(レニー・ゼルウィガー)。
仕事で遅刻や無断欠勤を繰り返し、映画出演のオファーは途絶え、
巡業ショーで生計を立てていました。
借金がかさみ住む家もないというありさま・・・。
やむなく、まだ幼い娘・息子を離婚した夫に委ね、
起死回生を懸けてロンドン公演へ出向きます。
それでもやはり、舞台に立つのは恐怖で足がすくみ、逃げ出したくなってしまう。
そんな気持ちをお酒で紛らわし、周囲の人に引きずられるようにして彼女は舞台に立つのです。
しかしひとたび舞台に立てば、彼女のパフォーマンスはいやというほど体にしみこんでいる。

そんな中、子役時代から映画撮影のためにすべてを捧げてきた自身の来し方を
彼女は思い出すのです。
常に新しい歌やダンスを憶えなければならないストレス。
睡眠時間は足らず、太らないようにと食事制限され、お菓子などもってのほか。
次から次へと休む間もないスケジュール・・・。

実のところ、本作中では語られてはいませんが、
アルコールや薬物に浸り、心も体もボロボロ、
自殺未遂で入退院を繰り返し、結婚5回、カムバック6回・・・という、悲惨な人生だったようです。

誰もがうらやむ華々しい活躍の裏の苦しみ・・・。
そういうものはやはりあるのだなあ・・・。
彼女が47歳で急逝したというのも、こんな無理矢理な生活のためであることは確かなようです。

さて本作、ラストで歌う「オーバー・ザ・レインボウ」が圧巻。
実も心もボロボロのジュディが、密やかに歌い始める。

あの虹の向こうのどこかに、何か輝くもの、夢や希望や幸せがある。

子どもの頃、うんと若い頃はそれを信じていた。
だけれども、今の自分は知っている。
そんなものはどこにもないのだ・・・と。

あまりにも切ないこの思い。
ジュディは途中で歌えなくなってしまいます。

涙。
涙。

いやもう、レニー・ゼルウィガーにジュディ・ガーランドが憑依してるんじゃないかと思うくらいに、
その悲しみが伝わります。

ところが、そのままでは終わらない!!

これが感動のシーンに続きます。
そこでまた、涙、涙・・・。

ぼーっとしてしまうくらいに感情を揺さぶられる作品でした。

今さらながら私は、アクション大作では感動できない。
やはり人の心のドラマこそが映画の醍醐味。
このことを確信しました!!

 

<J:COMオンデマンドにて>

「ジュディ 虹の彼方に」

2019年/イギリス/118分

監督:ルパート・グールド

出演:レニー・ゼルウィガー、ジェシー・バックリー、クイン・ウィットロック、
   ルーファス・シーウェル、マイケル・ガンボン

 

人生の悲哀度★★★★★

満足度★★★★★

 


「蒼路の旅人」上橋菜穂子

2020年10月09日 | 本(SF・ファンタジー)

孤高の魂を持つ青年へ

 

 

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生気溢れる若者に成長したチャグム皇太子は、
祖父を助けるために、罠と知りつつ大海原に飛びだしていく。
迫り来るタルシュ帝国の大波、海の王国サンガルの苦闘。
遙か南の大陸へ、チャグムの旅が、いま始まる!
―幼い日、バルサに救われた命を賭け、己の身ひとつで大国に対峙し、
運命を切り拓こうとするチャグムが選んだ道とは?
壮大な大河物語の結末へと動き始めるシリーズ第6作。

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「守り人」シリーズ第6作。
「旅人」とあるので、新ヨゴ皇国皇太子・チャグムを中心とした物語です。

 

これまでの本の中でも度々その名前だけは出てきていた、南の大国・タルシュ帝国。
本巻ではいよいよその姿を現します。
タルシュ帝国は、近隣の小国を手中にしながらますますその勢力を強め、
新ヨゴ皇国やロタ王国をも支配しようとその触手を伸ばしているのです。
先にチャグムが旅をした多くの島からなるサンガル王国は、今ほとんどその支配下に置かれています。

 

祖国の宮中にあっても、チャグムは父王とは全くなじめず、
その考えの違いから反目し、罠と知りつつサンガルへの軍船に乗り込むこととなり、
ついにはタルシュ帝国の虜囚となってしまう・・・。
先の旅で共にいてくれたシュガはおらず、読み手としてもなんとも心細い・・・。

 

でもさすがチャグムなのです。
苦難の中で、彼は故国を守り抜くこと、
皇室ではなくそこに生きる人々を守るために生きる決意を固めていきます。
おお・・・!! 
少年の成長の物語は大好きです。

 

私、これまでバルサの「守り人」の物語の方が好きだと思っていましたが、
ここへ来て、すっかりチャグムのファンになり、
「旅人」の物語もいいなあ・・・と思えてきました。
特に本巻のラストがすごいのですよ・・・。
夜の海を一人泳ぐチャグム・・・。
これぞ、孤高の魂。
その勇気に胸が熱くなります。

これ、リアルタイムで読んでいた方は、続きが待ちきれずに悶絶したのではないでしょうか。
私はすぐに続きに行けるのでよかった~。

 

物語は、国と国の大きな歴史の渦というスケールの大きなものへと変わっていきます。
即、続きへGO!

 

図書館蔵書にて

「蒼路の旅人」上橋菜穂子 軽装版偕成社ポッシュ

満足度★★★★★

 


ミッドナイトスワン

2020年10月08日 | 映画(ま行)

自分らしく在ることが、こんなにも難しい

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故郷を離れ、新宿のニューハーフショークラブのステージに立つ、トランスジェンダーの凪沙(草なぎ剛)。
ある日、実の母に育児放棄されている親戚の少女、一果(服部樹咲)を預かることになります。
二人は全くなじめず、ぎこちない日々。
一果はバレエに憧れ、全く独自で練習していたのですが、
スクールに通うようになり、めきめきとその才能を開花させていきます。
しかし、バレエを続けるためにはひどくお金がかかるのです・・・。

LGBTの問題は昨今いろいろなところで取り上げられ、
多少なりとも理解は進んでいるようでもありますが、
でも実際上の大きな壁について、とてもリアルに語られていると思いました。

凪沙が実家には隠しているトランスジェンダーのこと。

通常の会社勤めなどは難しいので、ショーに出るような稼ぎ方しかできないこと。

実際上の性転換には大金がかかること。

そしてその手術は必ずしも安全ではないこと・・・。

何よりも世間の人々が彼女を見る好奇の目・・・。

でも、一果は「おじさん」と聞いていたのに、女装した人物であったことに驚きはしたものの、
そのことについては嫌悪を感じていなかったようなのが救い。
そして彼女は凪沙の「孤独」をくみ取ることができる。
それは、行き場をなくした自分も同じなので。
そして凪沙は、一果を「ただの生意気なガキ」から、「守らなければならない大切なもの」へと意識を変化させていきます。
それは、凪沙の中の母性の芽生えのようでもありますが・・・、
私は、凪沙が一果に「そうありたかった」自分を見ているような気がするのです。

白鳥の湖を完璧に踊る、美しく、無垢な少女。
こんな風に生まれてきたかった・・・、と。

実際、この子が素晴らしかったです。
オーディションで選ばれたという新人、服部樹咲(みさき)さん。
もちろん、バレエで実際に活躍している方なんですね。
ステキです♡ 
本作だけでなく、また別の作品でも見てみたい。

<シネマフロンティアにて>

「ミッドナイトスワン」2020年/日本/124分

監督・脚本:内田英治

出演:草なぎ剛、服部樹咲、田中俊輔、水川あさみ、田口トモロヲ

 

トランスジェンダーの現実度★★★★★

満足度★★★★☆

 


ミッドサマー

2020年10月07日 | 映画(ま行)

白日の下で起きる恐怖

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たまにはホラーもよかろうかと・・・。

不慮の事故で家族を失ったダニー(フローレンス・ビュー)。
心の傷がようやく少し癒えた頃に、
大学で民俗学を研究する恋人・友人たち5人でスウェーデンのとある村を訪れます。

それは、人里離れた奥地にある村というよりも、
特殊な古来からの風習を信奉する人々のコロニーのようなもの。
花が咲き乱れ、人々は皆白い衣服をまとい、穏やか。
一日のうち数時間薄暗くなるだけの夏至の日、90年に一度の祝祭が行われるのです。
9日間続くといわれるその儀式とは・・・。

北欧の、夜がない夏至という舞台とホラーは
なんだか相容れないような気がしていましたが、
いやいや、そんなことはない。
白日の下、くっきりと目に映る怖ろしいものというものも、あるものですねえ・・・。
それは白昼夢のようでもあり、現実と悪夢の境目が次第にぼやけていくような感じです。

ダニーは、実のところここを訪れる以前に「地獄」を見ている。
悲惨な家族の死。
そのため、ほとんど狂気の淵をさまよった彼女が、
こんなところに来て、ますますその狂気を増大させていくのかと思いきや・・・。

そうではない。
なんだか彼女は次第にここになじみ、落ち着いていく。
一方理性的であったはずの他のメンバーのたどる運命はいかにも悲惨。
特にダニーの恋人・クリスチャンは、普通ならヒロインを救う役割を担うはずなのだけれど、
残念ながら彼の心は始めからダニーから離れ始めている。
ま、そこが最後の悲惨な結末につながるわけだけれど。
考えてみたら、ここには悪魔とか魔女的なものは登場しないのです。

真に怖ろしいのは人の心。
外の明るさや夜の闇とも関係がない・・・。

じわじわ来ます・・・。

<J:COMオンデマンドにて>

「ミッドサマー」

監督・脚本:アリ・アスター

出演:フローレンス・ビュー、ジャック・レイナー、ウィリアム・ジャクソン・ハーパー、
   ウィル・ポールター、ウィルヘルム・ブロングレン

 

恐ろしさ★★★★☆

満足度★★★.5

 


浅田家!

2020年10月06日 | 映画(あ行)

この家族ありて、この次男あり

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様々なシチュエーションとコスプレで撮影するユニークな家族写真で注目を集めた、
写真家・浅田政志さんの実話をもとにしたストーリーです。

浅田家の次男、政志(二宮和也)は、子どもの頃から写真を撮るのが大好き。
写真専門学校に進み、卒業制作の被写体に家族を選びます。
家族の思い出のシーンを本人たちで再現して写真撮影。
その写真で、学校長賞を受賞します。

やがて政志は、同様に様々なシチュエーションを設定し、家族でコスプレして写真を撮影。
それらの写真で個展を開き、写真集も出して、プロの写真家へ。
そして全国の家族写真の撮影を引き受けるようになっていきます。
そんな2011年3月。
東日本大震災が起きて・・・。

消防士になったり、ヤクザになったり、レーサーになったり、
家族のコスプレがいかにも楽しそうで、本当にその写真集を見たらニヤニヤと笑ってしまいそうです。

がっちり入れ墨を入れてしまう政志もかなり破天荒だと思いますが、
その彼の思いつきに従って、総出で付き合ってしまう家族も相当のもの。
全く、ユニークな家族です。
お母さんが看護師で、お父さんが専業主婦という役割分担もまたいい。
いつまでも政志が仕事に就こうともせずふらふらしていることに、
「いい大人の男が、仕事もしないで家でふらふらしているなんて・・・」
と、思わず言ってしまった母親の言葉に、
他の皆が非常に気まずい雰囲気になってしまうシーン、笑っちゃいました。
この家族があっての政志なのだなあ・・・とすごく納得してしまいます。

そんな彼が、津波に襲われたがれきの街で、
せっせと写真を拾い集めてはきれいに洗って展示している学生(菅田将暉)を目にします。
政志はすぐにその手伝いを始める。
家族写真を撮る者として、その意義がとてもよくわかるのですよね。
本業もすっかり忘れて、彼はそのボランティア活動を続けます。

 

この活動のことは私たちもニュースなどで見聞きしていましたが、
実際かなり多くの写真が持ち主に引き取られたのだとか。

そんな中で本作中に、お母さんや妹の写真は見つかるのに、
亡くなったお父さんの写真が見つからない、という女の子が登場します。
果たして、その意味は・・・?

 

笑いながらも、いろいろな悲しい家族事情に涙して・・・、よい作品でした。
政志の幼なじみ・若奈(黒木華)が、政志に
「200万円返すか、結婚するか、どっちかにして!」と迫るシーンもかっこよかったなあ・・・。
その返事、その言葉もお楽しみに!

 

そしてまた、菅田将暉さん、
最近はちょっとガラが悪かったり、タカビーな役が多いように思いますが、
ここではやや気弱で優しい青年。
こういう役もしっかりなじんでいる。
やっぱり役者さんですよねー。

 

<シネマフロンティアにて>

「浅田家!」

2020年/日本/127分

監督:中野量太

原案:浅田政志

出演:二宮和也、妻夫木聡、黒木華、菅田将暉、風吹ジュン、平田満

家族愛度★★★★★

満足度★★★★★

 


「ドクターM 医療ミステリーアンソロジー」海堂尊 他

2020年10月05日 | 本(ミステリ)

豪華執筆者たちが綴る医療ミステリ

 

 

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非合法組織の歯科医師。
相手の嘘を必ず見抜く内科医。
深夜の病棟で魔女を探す看護師。
老女に人格再編手術を施す脳外科医。
医療現場で起きる事件や不思議な出来事を、様々な角度から紐解いていく―。
8人の人気作家が描く、医療にまつわるミステリーアンソロジー。

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アンソロジーはどちらかというと苦手・・・。
著者の傾向が違いすぎて、一作ごとにこちらの思考回路をリセットしなければならないことが多くて疲れます。
中にはどうも苦手な文章のものもあったりして。
とはいえ、未知の著者と出会えるいい機会ではあるのですよね・・・。

本作は医療ミステリという興味深い分野だったことと、
豪華著作陣でなじみのある作家さんも多かったため、つい手が出ました。

著者は、海堂尊、久坂部羊、近藤史恵、篠田節子、知念実希人、長岡弘樹、新津きよみ、山田風太郎。

 

★「エナメルの証言」海堂尊

遺棄死体の身元確認のため、「歯」を調べるというのは、
ミステリ小説やテレビドラマなどにもよく出てくる話です。
本作はそれを逆手にとって、死体の歯を別人の治療痕と同じに加工してしまうという話・・・。
なるほど、いかにも海堂氏が描きそうなストーリー。
短編でもちゃんといつもの海堂ワールドの一環。

 

★「第二病棟の魔女」近藤史恵

近藤史恵さんの「清掃人探偵」シリーズのうちの一作。
私、このシリーズは全然読んだことがなかったのですが、興味が出てきました。
ここでは病院が舞台で、語り手は看護師。
母子関係に問題がありそう(?)な患者の女の子の話がなかなか興味深い。
人と人との関係は一筋縄では行きませんね。

 

★「人格再生」篠田節子

老人介護のありようが社会の状況によってコロコロと変わっていく・・・
ということを皮肉をこめたSF仕立てで語っています。
悪口雑言をまき散らす老人に脳手術を施し「人格再生」を図ろうとする・・・。
そこで、物わかりのいいおとなしい老人になったとして、
それが本当にあるべき人の姿なのか・・・
色々考えてしまいますね。

 

そしてラストが大御所山田風太郎さんなのですが、いかにも昭和レトロ。
金田一耕助風・・・。
もちろん悪くはないのですが、このアンソロジーの他作品とはあまりにも雰囲気が違うので、
読み始め、入り込むのに苦労しました。
そして、所々に見られる「今、これは禁句なのでは?」と思える表現。
今だから気になっちゃうのだろうなあ。
その当時は何も気にならなかったと思うけれども。

 

「ドクターM 医療ミステリーアンソロジー」海堂尊他 朝日文庫

満足度★★★☆☆

 

 


Mid90s ミッドナインティーズ

2020年10月03日 | 映画(ま行)

みずみずしい、少年の日々

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俳優ジョナ・ヒルの初監督・脚本作品。
自身が少年時代を過ごした1990年代、ロザンゼルスが舞台です。

13歳の少年スティーヴィー(サニー・スリッチ)は、
シングルマザーの母(キャサリン・ウォーターストン)と兄イアン(ルーカス・ヘッジズ)と暮らしています。
兄は横暴で乱暴。
どうにもかなわないと思っています。
そんなスティーヴィーが、町のスケートボードショップに出入りする少年たちと知り合い、親しくなっていきます。

スティーヴィーから見るとクールでカッコイイ彼ら。
でも母から見れば、付き合うべきではない少年たちと見えることは、
スティーヴィーにもわかっていたのです。
彼らといて、家に帰るときには消臭剤を振りまいてたばこのにおいを消したり、彼なりに苦労しています。
でも、家にいるとみそっかす扱いのスティーヴィーも、
彼らといるとちょっぴり大人に近づく感じがするのです。

いつもバカなことを言って笑っている彼らだけれど、
でも、実はそれぞれに問題を抱えていることがスティーヴィーにもわかってきます。
そしてまた、家では威張り散らしている兄が、外では孤独で案外気弱であることも・・・。

父親不在の家なので、通常父親が担うべきストーリー上の役割をここでは「兄」が持っているわけですね。
乗り越えるべき存在、それが本作での兄でした。

ともあれ、一見「自由」な外の世界には、
もっと複雑で強大な“ままならぬもの”があることを彼は知っていく。
だけれども、そこへ踏み出すこと。
少年から大人への道ですね。

みずみずしい少年の感覚が郷愁にも似た切なさを呼びます。

<シアターキノにて>

「Mid90s ミッドナインティーズ」

2018年/アメリカ/85分

監督:ジョナ・ヒル

出演:サニー・スリッチ、キャサリン・ウォーターストン、ルーカス・ヘッジズ、ナケル・スミス、オーラン・プレナット

少年のみずみずしい感性の日々度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


スリーデイズ

2020年10月02日 | 映画(さ行)

妻を脱獄させる男

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2007年仏映画「すべて彼女のために」をリメイクしたもの。
そちらも見たことがありませんが・・・。

大学の教師ジョン・ブレナン(ラッセル・クロウ)の妻(エリザベス・バンクス)が、
ある日突然殺人罪で逮捕されてしまいます。
ブレナンは妻の無実を証明するため奔走しますが、上告は棄却されてしまい・・・。
何と彼は妻の脱獄を計画するのです!

妻の無実を証明するため、夫が、いろいろな圧力やら陰謀やら暴力を受けながらも
真実を探り出す・・・というストーリーならこれまでにあったかもしれない。
というか、普通はそうなります。
ところが、何と本作、どう頑張っても証拠が見つからないと見切りをつけた夫は、
妻を脱獄させることを計画し、そして執念でやり遂げようとするのです。

彼は、2年制の大学の「教授」ではなく「教師」で、
全然タフそうでもない一見凡庸な男。
しかし彼は、まだ幼い息子と妻との、3人の生活を守ろうと、
決死の覚悟で計画を練り実行に移します。
いや、それ絶対にムリムリ・・・、
スタローンじゃないんだから。
しかも、自分自身じゃなくて、奥さんを脱獄させるなんてさ・・・
・・・と、私は、不可能に挑む彼を半ばあきれながら見ていたのですが・・・

それは、緻密に練られたストーリー。
一つ歯車が狂えば水泡に帰してしまう。
けれど、着々と準備を進めていくのを見るうちに、もしかしたら・・・?
と、次第に引き込まれ、身を入れ、のめり込んで見てしまっています。
全く、スリリングでヒリヒリします。

彼は、何度も刑務所からの脱獄に成功した経験のある男に、
その体験談を聞きに行く下りがあるのですが、
その男が、リーアム・ニーソン。
そりゃ、妻子を守るために必死に奔走する男と言えば、リーアム・ニーソンですものね! 

えーと、本作は2010年作品で、「96時間」が2009年作品なので、
やはりこの連想はこの時点でも通用するのです。
この配役も、そんな意味を含んでいるのかもしれません。

意外と面白い。

<WOWOW視聴にて>

「スリーデイズ」

2010年/アメリカ/133分

監督:ポール・ハギス

出演:ラッセル・クロウ、エリザベス・バンクス、レニー・ジェームズ、オリビア・ワイルド、リーアム・ニーソン

 

緻密な計画度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


マイ・バッハ

2020年10月01日 | 映画(ま行)

不屈の魂で、音楽に向かい合う

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実在のピアニスト、ジョアン・カルロス・マルティンスの半生を描きます。

ブラジルに生まれ育ち、幼少期にピアノと出会い、才能を開花させたジョアン・カルロス・マルティンス。
20歳でカーネギーホールでデビューを飾ります。
順風満帆だったはずの彼のピアニストとしての人生。
ところが、不慮の事故で右手3本の指に障害が残ってしまいます。
しかし、不屈の闘志でリハビリに励み、ピアニストとしての活動を再開するも、
やがてさらなる不幸が・・・。

20世紀最高のバッハの演奏家と称された彼は、間違いなく天賦の才を持っていたのです。
その激しい指使い故に、障害が出たのか?と私、予想しながら見ていたのですが、
そうではなくて、事故による負傷が元だったのですね。
けれどそんなことで彼は諦めない。

不屈の魂で這い上がった先にさらにまた不幸が。
そしてその先にさらにさらにまた・・・と、
実は彼が乗り越えたハードルは一つだけではなかったのです。
まるで神に試されているかのようです。
彼の音楽=芸術を希求する心は、生ある限り誰にも止められない。
いよいよ指がダメになり、ついにピアノを諦めなければならなくなっても、
その魂はなおも芸術の高みへ行こうとする。

こんな方がいるものなのですねえ・・・。
作中のピアノ曲はすべて彼の演奏の録音が使われていたということで、
もちろん、音楽も堪能しました。

<シアターキノにて>

「マイ・バッハ」

2017年/ブラジル/117分

監督・脚本:マラロ・リマ
出演:アレクサンドロ・ネロ、ホドリゴ・パンドルフォ、カコ・シオークレフ、フェルナンダ・ノーブル

不屈の魂度★★★★★

満足度★★★★☆