ステージおきたま

無農薬百姓33年
舞台作り続けて22年
がむしゃら走り6年
コントとランとご飯パンにうつつを抜かす老いの輝き

漱石はミュージカルに似合わない?

2007-06-25 21:07:45 | 演劇

 音楽座ミュージカル『アイ ラブ 坊ちゃん』の川西公演。う~ん、凄い!素晴らしい舞台だった。終演後のカーテンコールであんなにもスタンディングオベーションが続いた舞台って僕には初めての経験だった。

 幕開きから、やられた!だったもの。漱石が昼寝しているその屋根の上を、夢の中の登場人物達がしずしずと行進していくんだ。いや、もちろん紗幕を使っての巧みな演出なんだけど、最初から見せられたら驚くよ、実に憎い!でも、そんなのは序の口、次から次とアッと驚く仕掛けがいっぱい!屋根が飛んだと思えばもうそこは松山の中学校の教室だったり、その大きな部屋の装置が途中まで引っ込んで、残った部分が橋の上?になったり、もう、楽しくなるような演出が盛りだくさん!装置もばらしの時に見てみたら、すべて鉄骨仕立てだった。それもすべて頑丈なキャスター付き。そりゃ、当然だろう。くるくる変わるシーンごとにそれら幾つかに分かれたパーツが出たり入ったりするんだから。観客は、驚き感心しながら、漱石の居室を覗き、松山の町中を歩き回り、料理屋に上がり、湖で釣り船で揺られてる、って仕掛けだ。

 演出があれだけ好き勝手にやっても、照明がしっかりカバーしてるってことも驚きだった。紗幕が前と奥に2枚も吊ってあって、その間に高くしかも幅広の装置がどっかり置かれているのに、その合間を巧みに縫ってきっかり当てるべき明かりを作っていたもの。照明のデザインも素晴らしいけど、そのシュートだってよっぽどだったと思う。

 僕が演出やる立場上、ついつい演出や照明に目が行ってしまうけど、もちろんもちろん、役者も歌も演奏も素晴らしかった。だいたい生のバンド、それも7人も連れ歩いていて経営成り立つの?それにこの立派なパンフレットまで無料で付けて!

 ともかく、とことんこだわる人たちなんだなあ。それは、衣装とか道具とか所作なんか見ていてほんとよくわかる。例えば、ほんのワンシーンの芸者さんの着物の艶やかさとか、漱石の姪が庭から縁側に上がるときの草履の揃え方なんか、いいよなあ、そうなんだそうするもんなんだって嬉しくなってしまった。

 でもね、僕としてはやはり脚本だよね。家計のために大学で教えることと、作家として独立することの間で苛立ち悩む漱石が、坊っちゃんを書きながら、しだいに元気付けられていき、ついには、坊っちゃんと山嵐に励まされて新しい道に踏み出すという脚本の構成、見事と言うしかない。兄嫁への思慕や山嵐に託した亡き正岡子規への思いなど、ああ、そうだったのか、という新知識とともに、漱石の心の葛藤をじっくりと感じ取らせてもらった。こういう一癖ある本が好きなんだよね。外連味たっぷりの舞台とともにね。

 とことん圧倒されちまって、ばらしを手伝った後、菜の花座の装置作りに行くのが、とてつもなく辛かった。だって、この落差!この違い!泣く泣くぺらぺらの薄ベニ打ち付けてお社作ったけどね。プロとアマとのとてつもなく高い壁。このショックはしばらく居座りそうだ。

 装置作りながら、一緒に見た劇団の連中に感想聞いてみたんだ。そうしたら、意外と冷ややかな感想が多くて、かなり驚いた、て言うより、がっくりきた。どうして?どうしてあの素晴らしさがわからないの?信じらんねぇ!!って叫びたくなったよ。で、聞いて見ると、漱石や坊っちゃんそのものが、ミュージカルに似合わないってことなんだね。

 あっ、なるほどね。そのことね。つまり、ミュージカルってこうあるべきって既成概念なんだよね。これって、かなり一般的感想。僕も実は前に経験してるから。僕の時は、農業高校の女子生徒とその母親との葛藤ってテーマをミュージカル仕立てにしたんだ。その脚本を青年劇場の脚本募集に応募したら、その最終選考の評でこう言われた。「どうしてこの作品をミュージカルにするのか、作者はミュージカルというものがわかっていない。」どうこれ?ミュージカルってものは、こうあるべき!ってがりがりの思いこみそのものじゃないか。僕の考え方は、どんなものでも、ミュージカルになる。和風、洋風問わず、悲劇、喜劇に関わらず、メロドラマだろうとホームドラマだろうとスペクタクルだろうと、何だってミュージカルになる。だから、これはミュージカルにすべきじゃない、なんてのはそもそも批評になんかなってないんだよ。でもね、この発想根強いんだよ。置農が県大会を勝ち上がれない理由の一つもここにあるって思ってる。

 音楽座はこのタブーというか、常識破りというか、既成概念の破壊に果敢に取り組んでる劇団なんだと思う。劇団四季の直輸入焼き直し路線に飽きたらず、創作劇を目指す彼らの姿勢は、どこでもミュージカル!何でもミュージカル!をがむしゃらに突き進むドン・キホーテなのだと思う。そして彼らの見果てぬ夢は、いつか多くの人々の心を突き動かすことになるって、断然予言してしまおう。で、置農のミュージカルもいつかは東北大会へ、って思いたいけど、今年が最後のチャンスなんだよね、あ~あ!

 

コメント (2)
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