ステージおきたま

無農薬百姓33年
舞台作り続けて22年
がむしゃら走り6年
コントとランとご飯パンにうつつを抜かす老いの輝き

メイクの威力:50(歳)を過ぎたら板(舞台)地獄⑦

2007-06-20 21:56:48 | 演劇

 高校生の流行は、細い眉、あるいは眉そり。昔のお公家さんみたいなのっぺり顔がいいんだって、う~ん、わからん?眉って小さいながら、意外と存在を主張してるもんだよ。それをあんなふうにきれいさっぱりしちゃって、僕なんか、よっし、マジックで書いてやる!って捕まえたくなるけど、まあ、それが流行ってもんなんだろうな。きっと、彼らにはうつくし~く見えてるんだよね。

 だいたい、僕たちおじさんには、顔をいじる、化粧するってことに本能的違和感があるからね、ピアスなんて、おお!野蛮!!!文明のどん詰まりで、人類は未開の時代に先祖返りしようとしてるんだ、きっと。なんて顔をしかめている。

 そんな僕が認識を大きく変えたのは、やっぱり演劇学校だった。メイクの講習会、これがその後の僕の人生を変えた!ちょっと大袈裟、ごめん!でも、まるきっり嘘じゃあない。だって、これも演劇にのめり込む一つのきっかけだったから。

 買いましたよ、鏡とカチューシャと。あっ、カチューシャ知らない?ほら、前髪を上げるやつね。さらに、ファンデーションやらチークやらアイライナーやら一式。やる以上は形から入る、これがおじさん流ってもんだ。

 いよいよ講習会。講師は、舞台やテレビのメイクを手広く担当している青木先生。

 美しい!・・・だめだ!こんな美人の前でこの無様な顔をいじりまわすなんて、とてもとても・・・。自然と先生から遠ざかり、化粧の手が縮こまる。手慣れた女性陣は、これを機会にプロのメイク術をしっかり頂こうと楽屋の鏡をぶんどって、青木先生を奪い合っている。もう、僕たちおじさんは、互いに惨めな笑いを見交わすばかりだ、だらしない。あ~あ、このまま劣等感を抱えつつ今夜も終わるんだ、情けない。そん時だね、先生のひと言!

 「男の人で見て欲しい人いませんか?」 

 「御願いします!」進み出てたんだねえ、自分でも驚くことに。

 青木先生の前に座って、高鳴る胸を押さえた。心臓の音が先生に気付かれないかって、さらにどきどきしちまった。鏡の中の僕の顔を見ていた先生が言った。

 「眉、切ってもいいですか?」。はあ?眉?躊躇う僕に追い打ちのひと言。

 「垂れ下がって村山首相みたいでしょ。」ええっ、あのじいちゃんと同じ?それはないだろ?と、改めて鏡を覗き込む。むむむっ!確かに、確かに!眉は村山だった。

 どうぞ、のひと言を聞くやいなや、先生の鋏が動き、眉が整えられていく。おおー!男前!ウソ!でも、見る見るうちに印象は大変身。これは凄い。たった眉の形一つでこうも顔の印象が変わるなんて!!描いたわけじゃないんだよ、ただ、切りそろえただけなんだ。それだけでこの変わりよう。女達が化粧に1時間も2時間もかけるわけだよ。

 この経験は強烈だった。人間、見た目なんて、本質的に同じだって思いこんでいたのが、底の底からひっくり返されたわけだから。ちょっと手をいれるだけで、まったく別の自分が現れてくる。今まで気付かなかった未知の自分がそこにいる。ってことは、実は見慣れた自分だけが自分じゃないってことなんだな。見慣れた自分=本当の自分、なんて、ウソっぱちだったんだ。ただ、なんかのきっかけで、なんとなく馴染んだ自分の顔や姿に安住してただけだってこと。

 この認識って実に演劇的たと思わないか。役者って存在の秘密そのものじゃあないか。だれでも、今の印象とは違う自分を幾つも自分の中に秘めている。そんな見知らぬ自分と、役作りを通して出会って行く。この心ときめく行為が演じるってことなんだって思う。で、女達は、みんなこの秘密を知っている!だからなのか、演劇部に女子が多いのって。どう思う?

 

 

コメント (2)
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